ゆかりん異世界日記 其の三:OL時代の休日

――藤森ちゃんの笑い声が、近くで弾けた。


由夏転生前の名前、ほんと久しぶり! 元気してた?」

大学の同級生で、唯一の『女子同士で気楽に飲める友達』。

明るくて、少し天然で、だけど人の話をちゃんと聞いてくれる、そんな子。


「元気……とは言えないかも。最近残業続きでさぁ」

「うわぁ、それは大変だね。でもほら、今日はゆっくりしよ!」


席に出されたラテの泡がふわふわ揺れて、少し癒やされた。


「そういえばさ、私ね……彼氏できたんだ」

「まじで!? 藤森ちゃん、ついに!?」

「ついに〜! もう優しいの、ほんと!」


嬉しそうに話す藤森ちゃんを見て、よかったねって思った。本気で。


それから、あたしも近況を話した。

仕事は忙しい、帰りに飲む回数が増えた、休みの日は寝落ちして終わる……そんなあんまり良くないほうの近況。


「由夏、ほんと身体には気をつけなよ? 酒はほどほどにね?」

「へーい……わかってるって……」


そんな話をしたあと、あたしたちは勢いで爆盛りグルメへ向かった。

巨大オムライス、どんぶりいっぱいの唐揚げ……あの罪深い山盛りたちをぺろっと平らげて。


「うあ〜、苦しい〜幸せ〜」

「明日からダイエットする〜」

「絶対しないや〜つ〜」


幸せいっぱい、お腹もいっぱい、笑いながら駅で別れたところで――。


あたしは、目を覚ました。


視界に飛び込んできたのは、木造の車内。

窓の外には、白銀の山肌と、頂上へ向かってゆっくり進む登山鉄道の線路。


そうだ。

ここはもう日本じゃない。転生して、異世界にいる。

今は北国を走る登山鉄道に乗って、仲間たちと魔王城へ向かっているんだった。


「夢、かぁ」


藤森ちゃんの笑顔が、まだ瞼に残っている。

あたし……一緒に旅行に行けなかったこと後悔してるのかな。


「魔王城、面白いところだといいわね」

なんて、つい口にすると。


「もう、ゆかりんったら。遊びに行くんじゃありませんのよ?」

アリシア姫が苦笑しながらツッコミを入れてきた。


「俺も魔王城楽しみ! 美味しいものあるかな?」

リュガルドは、相変わらず楽しいことに一直線。

ほんとに、かわいいんだから。(ペットみたいで)


「あっち着いたら、ゆかりんに筋トレ指導してもらわねぇと!」

デルマがスクワットをしながら言って笑う。

魔族なのに、すっかり筋肉の弟子ポジション。


気づけば――。


みんながわいわい話す声が、なんだか心地よく感じた。


この感じ……家族、みたいだな。


――父さん、母さん、由夏は楽しくやってるよ。


「……ゆかりん?」

アリシアが、そっと肩に手を置いた。


「あ、ごめん。なんだか楽しくって!」


窓の外に目を向ける。

白い雪が、線路の上にふわりと積もっていく。

列車は確実に、魔王城へ向かっている。


「さぁ! 魔王城の観光も、はりきって行くわよッ!」


「おー!」


一同が声を合わせた。


【神:最近わしの出番なくない?】


【ゆかりん:あんたも来る?】


【神:行きたいけど……わし神だからなぁ】

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