第十話:筋肉による筋肉の為の筋肉の施設! マッスルパークへようこそ!

ついに、ついにあたしは……魔王城にやってきた。

これまで東国、西国、南国、北国と観光し、ようやく到着した最終地点。

色々あったけど――お酒も沢山飲めて楽しい観光だったわね♪


そして。


目の前にそびえる魔王城は――。


「東京デ○○○○リゾートならぬ……北国マッスルリゾートって感じかしらね」


雪山の上にそびえる巨大な城を中心に、周囲には様々なアトラクション……じゃなくてトレーニング施設と宿泊施設。

おしゃれなマッスルパークって看板もあって、ついに来たなって感じ。

入口ゲートには、マッチョ天使の巨大オブジェが両手を広げて、あたしたちを歓迎しているようだった。


「いらっしゃいませ。魔王陛下より仰せつかっております」

受付のダンディな案内人が、ぺこりと頭を下げる。


「筋肉聖女御一行様方には――最高級『マキシマム・プレミアム・プラン』を、無料で提供させていただきます」


「気が利くじゃない」


警戒と期待が入り混じった感覚。でも……楽しまないと損よね!


「最新鋭のトレーニング機器……ワクワクしますわね!」


あたしの真似をして筋トレを始めたアリシアは魔法と筋肉のハイブリッドになりつつある。

ちょっと属性盛りすぎじゃないの?


「姐御! 温泉もあるよ! プロテイン入りのスイーツも!」

リュガルドのテンションがやたら高い。かわいいやつめ、仕方ない後で甘いものを買ってあげよう。


そしてデルマはデルマで――。


「……はは、魔王様、アタイたちにこんな良い部屋を……やっぱ優しい……」


デルマのポジションって、勇者側に寝返った魔族ってことでいいのかしら……。



案内されたのは、びっくりするくらい豪華な訓練施設だった。


回復魔法付きの筋トレマシン。

魔力バーベル(重さが声で調整できる)。

ドラゴンすら鍛えられるランニングロード。

個室のマッサージルーム。

パーソナルトレーナーはプロの魔族。


そして、一番驚いたのは――。


食事は『筋肉が喜ぶ食事』というコンセプトらしく、鶏むね肉、野菜、雑穀米、プロテインスープ。


普通においしい。

普通に健康的。

ちょっと――量は足りない!


「例のプロテイン入りスイーツは?」


運ばれてきたスイーツは甘さ控えめだけど……逆にそれが良かった。


そうして一日目は、不審点も事件もなく、ただただ健康的に筋トレをして終わった。

唯一の不満点と言えば、アルコール禁止ってことくらいかな。



二日目。朝食も昼食もトレーニングも、全部問題なし。

あまりにも問題がなさすぎる。


「理想的ね」


「高評価は本当でしたわね」

アリシアも頷く。


「俺筋トレは興味ないけど、姐御と一緒ならなんでも楽しいよ!」

リュガルドも楽しそうだ。


でも、デルマだけは難しい顔をしていた。

「魔王様は……確かに優しいけど……それだけじゃないはず」


その一言で、あたしは覚悟を決めた。


「――いっちょ行きますかね、魔王に会いにッ!」


あたしはポキポキと拳を鳴らした。



魔王城の最上階。

分厚い扉を押し開けると、そこには――。


「やあ。ようこそ、ゆかりん」


モノクロコーデにマッシュ。

端正で柔らかい微笑み。

その人物は、あのバーで見た細マッチョの男性。マオだった。


「その節はどうも」

「いえいえ。あなたと飲んだ夜は、とても楽しかったですよ」


なんで魔王とこんな普通に会話してるんだあたし。


「……で。単刀直入に言うわ。

 無理やり筋トレさせてる人を解放しなさーい!

 あとアリシアへの求婚もやめること!」


「うーん……どちらも、できれば継続したいのですが」


「ダメです」


その瞬間――。


ぱちん。

指を鳴らした音が響いた。


直後、城内の灯りがすべて落ちる。


「なっ……!」


再び灯りが戻った時、

アリシア姫の姿は、そこになかった。


「アリシア!!」


「彼女には控室へ行ってもらいました。安心を。丁重に扱っていますよ」


「丁重に求婚する気でしょうが!!」


「では――交渉に入りましょうか」


魔王は、小さく微笑んだ。


「ゆかりん。あなたが勝てば、全部あきらめます。負ければ、アリシアさんは僕の妻です」


「最初から無茶苦茶じゃない!?

 でもいいわ、どうせ言っても無駄だし。で、何で勝負するの?」


「それは勿論……ボディビル対決です!」


マオがそういうと、周囲は微妙な空気になった。

なぜなら……そのネタはもうやったから!


「えぇっと、その……あたしは構わないんだけど、なんていうか、ね?」


「申し訳ありません魔王様。

 ゆかりんとのボディビル対決のネタは……アタイが使ってしまいました!」


「そ、そうでしたか……ならば……」


魔王はゆっくりと手を広げた。


SASUQE障害物レースです!」


「なんで!?」←一同


「僕が設計した魔王城特設SASUQEコース。

 体力、知力、判断力、そして筋肉総合力……あなたと決着をつけるには、これが最適だと思いまして」


「良いわね……あたし、あれ一度出てみたかったのよ!」


魔王は嬉しそうに目を細める。


「あぁ……感無量です!

 では、始めましょう。最終決戦です!」


魔王城の床が割れ、

巨大なSASUQEコースが姿を現した。

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