第三話:港町で観光のついでに魔物退治したら三星冒険者に!?

――さて、観光旅行のはじまりだ。

……のはずだったんだけど。


あたしはスマホを開いて、地図アプリで現在地を確認する。

異世界でも電波があるの、冷静に考えるとすごい。これも神様がくれたお詫びのなの?

通信プランは神プラン?


「えっと、港町まで……徒歩で三日? もう歩きたくないよ」


でも、お金もないし、馬もないし、売る物もない。

あるのは最強の補助魔法と、黄金のマイクロビキニ。

これ売っちゃう? でも身体強化使ったときに、最低限の場所を隠せないと困るし……。


仕方ないので試しに、脚だけ身体強化をかけてみた。


「身体強化【脚】発動ッ!」


全身に使うと服が弾け飛ぶけど、脚限定なら――スカートの中で極太になる脚。よし、セーフ!


地面を軽く蹴った瞬間、景色がスライドした。

「はっっっや!? ……なんだこれ脚新幹線かよ! よっ!ひかり! かがやき! はやぶさ〜!」


あたしは筋肉新幹線で、森を突っ切り、丘を飛び越え、ウサギを追い抜いて、走ると言うより、跳躍の連続で港町までやってきた。



港町は、思ってたよりずっと賑やかだった。

潮風が気持ちよくて、屋台には焼き魚、貝のスープ、謎のフルーツカクテルまである。

……でも、お金がない。財布の中身はゼロ。

神様、筋肉だけじゃなくて現金もおくれ……。


仕方ないので、あたしは市場のベンチで匂いだけ楽しんでいた。

そのとき、――辺りの空気が変わった。


港の向こう側、海が盛り上がっている。

「なにあれ……波? いや、違う、触手?」


叫び声が上がる。魚市場の人たちが逃げ出した。

クラーケン――でっかいイカの魔物が、船を握りつぶしていた。


うん、観光は一旦中断ね!


「ここからは観光のついでに……ちょっと運動でも、しますか!」


あたしは港の桟橋に立ち、身体強化【全身】を発動した。(服を脱いで畳んでから)

筋肉、覚醒。

黄金のビキニの下で、血が滾る。


「コスメティック・マッスルパワー!」←今考えた変身のセリフ


クラーケンがこちらを見た瞬間、あたしは大跳躍してクラーケンに飛びかかり、腕を振り下ろす。


「マッスル・パーンチ!」(ズドォォォン!!)


衝撃波で海面が割れ、クラーケンは爆散した。

【レベルが上がりました】【レベルが上がりました】←連呼されるシステム音

舞い散るイカと海水。市場の人たちは唖然。あたしは軽く息を吐いてポーズを決める。


「……ちょっと派手にやりすぎちゃったかな♪」



気づけば、冒険者ギルドに呼ばれていた。

「港を救った英雄」「三ツ星冒険者に認定」とか言われて、金貨袋をどっさり渡された。

どうやら、ワンパンでギルドの最高ランクらしい。いいのそれで。


「いえ、ほんと通りすがりなんですけど……」

「謙遜なさらず! さあ晩餐を!」


断る隙もなく、高級レストランへ。

焼き魚のフルコースにカクテル。

異世界の魚って、なんでこんなに美味しいの。

これ……さっきのイカクラーケンじゃないわよね!?


部屋は港の高級ホテル。ふかふかのベッド。

ああ、これこそ異世界旅行。あたしの理想の旅だ。


寝転がってスマホを開くと、画面にメッセージの通知が届いている。


【神:ナイス筋肉!】

【ゆかりん:なんでこんなにムキムキにしたんですか!?】

【神:生前の残業量を筋トレに換算しました!】

【ゆかりん:この筋肉はあたしの努力の結晶なんだ!】


会社ではいくら働いても感謝されなかった。

でもここではワンパンで、めっちゃ感謝される!

観光ついでに人助け……これってつまり――ワーケーション働き方改革ね!

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