第三話:港町で観光のついでに魔物退治したら三星冒険者に!?
――さて、観光旅行のはじまりだ。
……のはずだったんだけど。
あたしはスマホを開いて、地図アプリで現在地を確認する。
異世界でも電波があるの、冷静に考えるとすごい。これも神様がくれたお詫びのなの?
通信プランは神プラン?
「えっと、港町まで……徒歩で三日? もう歩きたくないよ」
でも、お金もないし、馬もないし、売る物もない。
あるのは最強の補助魔法と、黄金のマイクロビキニ。
これ売っちゃう? でも身体強化使ったときに、最低限の場所を隠せないと困るし……。
仕方ないので試しに、脚だけ身体強化をかけてみた。
「身体強化【脚】発動ッ!」
全身に使うと服が弾け飛ぶけど、脚限定なら――スカートの中で極太になる脚。よし、セーフ!
地面を軽く蹴った瞬間、景色がスライドした。
「はっっっや!? ……なんだこれ脚新幹線かよ! よっ!ひかり! かがやき! はやぶさ〜!」
あたしは筋肉新幹線で、森を突っ切り、丘を飛び越え、ウサギを追い抜いて、走ると言うより、跳躍の連続で港町までやってきた。
◆
港町は、思ってたよりずっと賑やかだった。
潮風が気持ちよくて、屋台には焼き魚、貝のスープ、謎のフルーツカクテルまである。
……でも、お金がない。財布の中身はゼロ。
神様、筋肉だけじゃなくて現金もおくれ……。
仕方ないので、あたしは市場のベンチで匂いだけ楽しんでいた。
そのとき、――辺りの空気が変わった。
港の向こう側、海が盛り上がっている。
「なにあれ……波? いや、違う、触手?」
叫び声が上がる。魚市場の人たちが逃げ出した。
クラーケン――でっかいイカの魔物が、船を握りつぶしていた。
うん、観光は一旦中断ね!
「ここからは観光のついでに……ちょっと運動でも、しますか!」
あたしは港の桟橋に立ち、身体強化【全身】を発動した。(服を脱いで畳んでから)
筋肉、覚醒。
黄金のビキニの下で、血が滾る。
「コスメティック・マッスルパワー!」←今考えた変身のセリフ
クラーケンがこちらを見た瞬間、あたしは大跳躍してクラーケンに飛びかかり、腕を振り下ろす。
「マッスル・パーンチ!」(ズドォォォン!!)
衝撃波で海面が割れ、クラーケンは爆散した。
【レベルが上がりました】【レベルが上がりました】←連呼されるシステム音
舞い散るイカと海水。市場の人たちは唖然。あたしは軽く息を吐いてポーズを決める。
「……ちょっと派手にやりすぎちゃったかな♪」
◆
気づけば、冒険者ギルドに呼ばれていた。
「港を救った英雄」「三ツ星冒険者に認定」とか言われて、金貨袋をどっさり渡された。
どうやら、ワンパンでギルドの最高ランクらしい。いいのそれで。
「いえ、ほんと通りすがりなんですけど……」
「謙遜なさらず! さあ晩餐を!」
断る隙もなく、高級レストランへ。
焼き魚のフルコースにカクテル。
異世界の魚って、なんでこんなに美味しいの。
これ……さっきの
部屋は港の高級ホテル。ふかふかのベッド。
ああ、これこそ異世界旅行。あたしの理想の旅だ。
寝転がってスマホを開くと、画面にメッセージの通知が届いている。
【神:ナイス筋肉!】
【ゆかりん:なんでこんなにムキムキにしたんですか!?】
【神:生前の残業量を筋トレに換算しました!】
【ゆかりん:この筋肉はあたしの努力の結晶なんだ!】
会社ではいくら働いても感謝されなかった。
でもここではワンパンで、めっちゃ感謝される!
観光ついでに人助け……これってつまり――
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