第二話:服を求めて、筋肉でダンジョン攻略 〜バフがなくても強かった〜

バフが切れた瞬間、あたしは絶句した。


……全裸だった。


いや、正確には、さっきまでの筋肉がなくなった結果、かろうじて張り付いていた服(だったボロ布)が取れて、何も着ていない状態になってしまった。


「……ま、まずい。こんなところで裸になる趣味はないってば……!」


とにかく服ね。服を探さないと。でも、人に会うのはまずい!

あたしは人気ひとけのなさそうな(服もなさそうな)森の奥へと足を踏み入れた。


森を歩き続けて数時間。

お腹は空くし、虫には刺されるし、服はないしで、すでに限界が近い。

そのとき、茂みの向こうに、ぽっかりと口を開けた洞窟があった。


「……ダンジョン?」


試しに指を鳴らしてみた。

パチンッ、と乾いた音。


――中のスライムが爆散した。


【レベルが上がりました】


「あ、これ……楽勝っぽいわね」


筋肉モードのときほどじゃないけど、素のままで充分強いらしい。

結局パッチンパッチンするだけで、ダンジョンを楽々進めてしまう。


指弾しだんのスキルレベルが上がりました】


「これ、指弾っていうのね」



最深部のボス部屋らしき場所に到達。

ダンジョンボスの巨大ゴブリンは、指パッチンを耐えたので、腕を降ってみたら風圧で消し飛んだ。

【腕ハリケーンを習得しました】


「……バフなしでもこれって、神様、どんな脳筋調整してんのよ……」


ボスを倒したことで現れた宝箱を開けると、まばゆい光とともに出てきたのは――


【黄金のマイクロビキニを入手しました】


「……え? 黄金の……マイクロビキニ?」


目を疑った。

いや、でも、他に何も入ってない。


でも――これで隠さなきゃいけない場所は、ギリ隠せるね!


「……うん。仕方ない! 全裸よりはマシ!」


あたしは覚悟を決めて、黄金のマイクロビキニを装着した。

【容姿が100上がりました】

反射する光が眩しい。これなら筋肉見せ放題。いや、そういう機能いらないから!



森を抜け、ようやく村を見つけた。

空腹と疲労で、もはや羞恥心のバリアが崩壊しかけていた。

もうこの姿を見られてもいい、とにかく飯と可能ならビール。


「……お願い、誰か……裸見られてもダメージ少なめのおばさんか誰か……」


――そんな願いが、当然のように叶う。


「あらまあ!! なんてひどいことを!!」

通りかかったおばさんと、手をつないだ小さな女の子が目を見開いた。(教育上よくないわ)


「追い剥ぎに遭ったのね!? かわいそうに!」


「えっ、あ、いや違……」(服は筋肉で弾けたんです)


否定する間もなく、おばさんに腕をつかまれて引っ張られる。

気づけば、村の家の中で湯気の立つスープとパンを差し出されていた。


「しっかり食べなさい。服も貸してあげるわよ」


――まさかマイクロビキニからの、服と晩飯ゲット。

人生、何が幸いするか分からない。



夕食後、おばさんが世間話のように言った。

「最近ね、近くのダンジョンから魔物が出て困ってるのよ」


思わずパンを食べる手が止まる。

うっ、たぶん、それ……あたしがさっき崩壊させたダンジョンだ。(指パッチンで)


「そうなんですか。でも、しばらくは平和になるかもしれませんよ」

苦笑しながらごまかす。


「そうだといいわねぇ」


そう言って笑うおばさんの優しさが、胸に沁みた。

神様はズレてるけど、この世界は意外と悪くないのかもしれない。


その夜はおばさんの家に泊めてもらい、翌朝。


「服も手に入ったし、ご飯もおいしかったし、ちょっとしたホームステイだったわね!」

朝日を浴びながら、あたしはぐっと背伸びをした。


「よーし!次は観光旅行だ!」


目的地は、スマホ(なぜかネットも使えた)で見つけた港町!


藤森友達のちゃんと行くはずだった女子旅、死んじゃって行けなくなった分を取り返すぞー!」


安全に、楽しく。筋肉は、とっておきで。

異世界の旅、本格始動!!!

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