最強自己バフ、筋肉モリモリ紀行! ~神様の勘違いでムキムキになった女だけど、悪くないかも~

タウフ

ゆかりん旅立ち編

第一話:転生したら最強バッファーだったけど自分にしか効果がないらしい

あたしは残業続きの平凡なOL、海藤かいとう 由夏ゆか

今日も遅くなった帰り道、あしたは休み。サブスクでアニメを見ながらビールでも――


そう思った矢先。

「危ない!」


交差点に飛び出した小さな子供。

反射的に手を伸ばし、突き飛ばす。

そして――身代わりになったあたしの視界に迫るのは、トラックのヘッドライトだった。


――あ、これ、異世界転生モノのやつでは?


そんな間抜けな思考を最後に、意識が途切れた。



目を覚ますと、真っ白な空間。

そこには金髪マッチョでブーメランパンツ一丁の神様が、土下座していた。


「す、すみません! 本来あなたは寿命まで生きる予定でしたが、子供を助けるのは想定外で……!」

「え、やっぱり、あたし死んじゃったんですか?」

「はい! でーすので! お詫びに特別ボーナスとして――お好きな世界への転生と、お好きな能力を授与します!」


神様の腰は低いがテンションは高い。

筋肉、テカテカしてる。パンツ、モッコリしてる。


「な、何か願いはありますか? 何でもいいですよ!」

「じゃあ……観光地多めの異世界に転生で、あと安全に暮らせる力がほしいです。旅行したいし」

「安全、ですね! つまり、攻守を兼ね備えた最強の補助魔法! 了解!」

「補助魔法? ま、まあいいですけど……」


「それと――あなた、筋肉キャラが好きでしたね?」

「え、ああ、まあ好きですけど、それがなにか?」←筋肉キャラが推しになりがち

「では! おまけでも付与しておきましょう! 世界を筋肉で平和に!」


「……え?」

返事をするより早く、光がはじけた。



――目を開けると、草原。

青空。心地よい風。どこまでも広がる異世界の大地。


「ほんとに来ちゃった……」


足元にはスマホ。ちょっと見た目は変わってるけど普通に使える。

これでステータスの確認もできるみたい。


【名前:ゆかりん】

【レベル:1】

【スキル:身体強化(対象:自分のみ)】


「……自分のみ? バッファーって、か弱い後衛女子ポジなのに?

 ま、まあ自分が安全ならいいか」

試しに使ってみる。


「スキル身体強化発動ーッ! っと!」


次の瞬間、身体の内側が爆発したような感覚エクスタシー

バチーンと服が弾け飛び、筋肉が隆起する。


「な、なにこれ!? なにこの腕!? ふっっと!!」

自分の姿を確認するため、慌ててスマホを使って自撮り。

画面に映ったのは――バトル系漫画の筋肉キャラみたいな身体をした女。


「……やだ……これがあたし……こんな筋肉モリモリの女……悪くないかも!」


力がみなぎる。視界が冴える。風の流れまで感じる。エネルギーの流れが見える。

その時――茂みが揺れた。


ぷるん、とゼリーみたいなスライムが顔を出す。

牙も毒もない、いかにも最弱モンスター。


「試しに、ちょっとだけ……」


指を鳴らした。


パチンッ!


――ドンッ!!


地面ごと吹き飛ぶスライム。

衝撃波が草原を伝ってゆく。


そして聞こえてくるシステム音。

【レベルが上がりました】


「……これ、やばいわね」←愉悦


神様の言葉が頭をよぎる。

『筋肉は世界を救う』


たぶん、あれ、冗談じゃなかったんだ。


あたしは高らかに笑った。

「うん、最高。観るより、なる方がずっとよかったんだ!」


――こうして、あたしの最強バフ(効果は自分に限る)持ち女旅が始まったのだ。

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