やべぇ奴らのクラス転移

不沈潜水艦

やべぇ奴らのクラス転移

「うっ、どうなったんだ…?」


祭壇の光が収まり、そこに現れた一人の中年男性と数十人の制服姿の青少年たちが辺りを見渡す



「ハッハッハ、うまくいったようだな」


彼らを囲むように武装した兵士と、壇上で愉快そうにツバを撒き散らす肥えた老人がいる



「見て!ほんとに魔法が使えたよ!」

小柄な少女が、小さな火の玉を振り回してはしゃぐ


「ほんとに異世界に来たんだ!」

オタク丸出しのメガネくんが、興奮も丸出しにしてデュフフとこれからのことを夢想する


「あーしドラゴンに乗ってみたーい」

金髪ギャルも状況にノリノリである


「みんな、一旦落ち着こうな、学校じゃないんだからな」

中年男性が青少年たちをなだめようとする



「えーい!黙って我輩のありがたい話を聞かんか!」



「は?」「チッ」


老人の感情任せの一喝に悪態をつきつつもひとまず耳を貸す青少年たち


「我輩はこの国の国王である。我が国は窮地に陥っておる。魔族からの侵攻を受けているためだ。魔族は人より個の力に優れ、卑劣にも狡猾な手段も多く使うのだ。領地は縮小し、物資は不足、民も困窮している。そこでお前たちを召喚したわけだ。召喚された者は非常に優れた能力を与えられるからな。お前たちには魔族を討ち滅ぼしてもらう。それが成された暁には、地位も富も望む物を与えよう」


老人が自己陶酔に浸りながら言葉を紡ぐ



「随分偉そうだな、それが人にものを頼む態度か」

ヤンキーくんが素直な感想を述べる


「わかるー、全部そっちの都合じゃん、人のこと攫っといてムカつくよね」

茶髪ギャルが便乗する


「そもそも論理が破綻している。魔族に劣るあいつらが、魔族に優る私たちに、望む物を提供できる道理がない」

インテリ女子が嫌悪感を顕にする


「だよねー、俺達揃えば大抵何でも出来るし、メリットないよね」

チャラ男くんも同意する


「少なくとも、ここは困窮してるようには見えませんしね」

優等生ちゃんが豪華絢爛な内装を見て、国のやり方を理解する


「お前ら落ち着け、先生がまず話してみるから、な?」

中年男性が青少年たちをなんとかなだめようとする



「全く、うるさいガキどもだ」


老人が後ろに目配せする



「あれ?魔法使えなくなっちゃった」

残念そうな小柄ちゃん


「おそらくあいつが何かしたな」

老人の後ろにいる、場に似つかわしくないローブ男を指すインテリくん


「やっぱり仲良くする気はなさそうだね」

軽薄そうな男子が敵意を滲ませる


「あいつらの装備、鉄かな、鈍重そうだね」

理系女子がつぶやく


「連中の立ち振る舞いを見るに、黒帯級の達人は居そうにないな」

ガタイがよくも無駄な筋肉がない男子が分析する


「いける?」

カリスマくんが問いかける


「俺も問題ないと思う」

木刀を携帯した男子が応える


「やっちゃう?」

金属バットを担ぐ女子


「待てお前ら、落ち着けお前ら、先生が話するから、な?」

必死になだめようとする中年男性


「やるか」

カリスマくんが号令をかける


「やめろお前ら!」

中年男性が止めようとするが、パンッと破裂音

がする


「うわっ!それ本物だったんだ!」

「ああ、弾あんまり持ってこれなかったんだけどな」

自称ヤクザの息子が、ためらいなく拳銃の引き金を引き、ローブの男が額から血を噴き出しながらその場に崩れ落ちる


「あ!魔法使える!」

「よっしゃー!」


炎が、氷が、雷が、武力が、暴力が、恐怖が、理不尽が、瞬く間にその場を支配し制圧する


「ああ、なんてことを…」

中年男性が顔面蒼白で跪く


「先生!こっちこっち!」

ゆるふわ女子が中年男性の手を取りバルコニーに誘う


「ほら」「ああ」

木刀くんが落とした老人の首をカリスマくんが受け取り、中年男性に並ぶ


そして外に向けて首を掲げ、叫び出した

「王宮に紛れ込み!国に戦火を呼び込み!民に困窮をもたらした諸悪の根源!魔王は勇者センセイが討ち取った!!!」

青少年たちが勝ち鬨をあげる

「「「「「うおー!!センセイ!センセイ!」」」」」

民衆たちが呼応する

「「「「「センセイ!センセイ!センセイ!センセイ!」」」」」


「お前たち、なんてことを」

困惑しつつも、民衆を悲しませまいと、誇らしげに振る舞う中年男性であった



「一件落着だね」

「これからどうする?」

「国取りでもするか?」

「うーん、魔族に侵攻されてるんでしょ?逆境は嫌いじゃないけど、俺達を攫ったこの国のために戦う気はないかな」

「同感」

「じゃあさ、俺達で国作らね?」

「お!いいね!おもしろそう」

「私はのんびりできたら何でもいいかな」

「拙者はスライムやゴブリンを最強に育てたいでござるw御三家は速攻ボックスにぶち込んで、一番道路のモンスターだけで殿堂入りするのがマイフェバリットプレイスタイル故w」

「あ!そのゲーム知ってるー!あたしエボルブイが好きー!あたしもいろいろ飼ってみたいなー」

「俺は自分のガレージを持ちたい」

「ステージ作ろうぜ!コンサートできるやつ!」

「帰りてーよ、サンピースがクライマックスだったのに続き読めねーのかよ」

「それは俺の転移魔法のレベルが上がればなんとかなると思うぞ」

「なら安心してこの世界満喫できるね」

「俺、ここの街並み好きだな、ここで画家になる」

「わかる、あの構造物、地球とは全く違う歴史が、ロマンがこの街にはあるんだ」

「わたし先生のお嫁さんになるの」

「そうか、先生のこと支えてやってくれ」

「先生はどうするんだ?」

「ここの国民のことを見放せないから落ち着くまで残るんだって」

「まじかよ、いい人すぎんだろ」

「そりゃ俺達の担任買って出てくる人だし」

「ははっ、言えてる」

「よし、じゃあ俺達は行くか」

「頑張ってねー」


思い思いに話をしていた青少年たちは自然と団結し、2つの道を歩み始めた。



このあと、新生センセイ王国が学問と芸術の街として栄えたり、青少年たちがもののついでに本物の魔王を蹴散らしたりするのは、また別の話。

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