わたしの、失恋。
豆ははこ
わたしの、失恋。あなたに、失恋。
「ごめんよ」
「ごめんね」
彼氏と、親友の
二人が、そろって頭を下げている。
わたしとの付き合いの長さなら、彼氏よりも、朱美のほうが長い。
「大丈夫。失恋しただけだから」
わたしは、笑顔で答える。
わたしの笑顔は、二人の罪悪感を貫いたらしい。
「悪いのは、俺だから」
彼氏、いや、もう元彼だろうか。辛そうな表情をする。
「そうだね。だから、朱美がわたしから彼氏を奪った、なんてことにならないようにしてね」
わたしは、答える。笑顔で。
「……もちろん。そんな噂が出たら、ちゃんと説明するよ」
罪悪感が高まったのか、元彼は、わたしの目を見ない。
「私も悪いのに……なんでそんなに……」
優しいの?
そう、言いたいのに。
わたしに申し訳ないからと、言えずにいるのだろう。
朱美の目だけが、わたしを映す。
そう。
たしかに、わたしは失恋をした。
だけど、相手は元彼じゃない。
朱美は、わたしのように女の子を好きにはならないから。
だから、わたしは。
朱美の好みの男子と付き合った。
いままで、何人も。
朱美は、いい子だから。
わたしの彼氏を、取ったりしない。
いままでは、ずっと。
今回は、そう。
わたしが、取らせた。
ねえ。彼氏と、話してみて?
ねえ。朱美と、会ってみて?
少しずつ、少しずつ。
二人に、与えた。
ほんの、少しずつ。
でも、確実に。
そう。与えた。
ひそやかな、でも、溶けないものを。
溶けずにかたまった、それは。
いま、こうなった。やっと。
二人はきっと、うまくいく。
良い
大切な
そんなにまでして付き合って、付き合ったのに。
別れたりはしない、できない。
そうして、いつか。
なにかのときに。
きっと、朱美はわたしに連絡をしてくるだろう。
「こんなこと、言えるはずないのに。ごめんね」
そんな言葉で始まる、やりとり。
それは。
結婚のお知らせか、それとも?
どちらでも、どんなことでも。
わたしはきっと、笑顔で言おう。
メッセージアプリなら、応えよう、かな?
「なんでも聞くよ?」って。
「ごめんね、ごめんね。やっぱり……」
そう、やっぱり。
頼りになるのは、きっと、
だから、いまは。
笑って、失恋しよう。
そうだよ、
だから、いまは。
「さようなら」
できるだけ、冷静に。
すると。
「ごめん、ごめんね……」
朱美の、
後ろ髪を引かれない、というと、嘘になる。
けど。
振り向かない。
振り向いちゃ、いけない。
だって、わたし。
笑顔な、ことが。
ばれて、しまうから、ね。
≪了≫
わたしの、失恋。 豆ははこ @mahako
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