第1話 編入
白い大きな校舎の広場には、編入試験の結果を今か今かと待ちわびている生徒で溢れかえっていた。
その中に、一振りの刀を帯刀した黒髪の青年が一人紛れていた。
ここは、中立国家エルミエル共和国にある学校…
名門ルドガル学園、中立国家にある為、様々な国から沢山の若者がこの学園に通っている。
この世界の学園は殆どが初等部〜高等部までを過ごした後、学園の進学科に進み各国のエリートコースに進むか、騎士団の幹部になるのかと様々な選択肢が用意されている。高等部を卒業した者はそのまま騎士団に入団し、戦場に送られる者や魔物退治をする者の他にも一般の職に就き充実した日々を過ごす者と様々である。
そんな中、十八歳になったヒナタはこの学園の進学科の編入試験を受け結果を見に広場にて一人佇んでいた。
「は〜、師匠も人が悪い」
ヒナタが悩んでいる事それを知るには少し過去を遡る。
〜3ヶ月前とある山小屋にて
「ヒナタよ…」
白髪の和服姿の老人、ゲンジ・ササキは食事中にヒナタに話しかけた。
「どうしました?」
「お前さんもついに、独り立ちする日が来た」
「…今更、僕に何処に行けと?」
「お前には3ヶ月後、共和国のルトガル学園の進学科の編入試験を受けに行ってもらう」
「……とうとう頭がおかしくなりましたか?」
「まぁ、聞け…ルドガル学園の学園長とは昔からの知り合いでな、お前さんの話をしたら是非にと推薦状を書いてくれたんだ」
「それは、裏口入学では?」
「そうなるな」
「試験はどうするんですか?」
「勿論受けてもらう」
「あの〜、僕が学校に通ったことがないの知ってますよね…」
「安心せい、学園の試験は実技試験さえ何とかなれば編入試験には合格できる」
「学歴はどうするんですか!」
「そっちも俺がなんとかする」
「ルドガル学園っていったら名門中の名門じゃないですか…筆記試験は確実に落ちるとしてそうなったら絶対点数足りないと思うんですが…」
「総合点数で合否がでるから安心せい」
「それより、ヤマトから共和国って…」
「馬車で乗り継ぎしても2ヶ月だな」
「飛行機や車は?」
「そんな金、この家にあるとでも?」
「………」
「まぁ、明日から行っても間に合うだろう」
「そんいう問題じゃねぇ〜!」
〜そして現在
「あの人は本当に…」
ヒナタがそう考えてるうちに広場の掲示板にて合否の表紙が貼り出された。
「よっしゃ〜」
「あぁ…駄目だったか」
「やった~」
そう喜びの声が聞こえてくる中、僕は自分の名前を探した。
「あった…下から四番目の成績だけど合格できた!」
(実技が簡単でよかった…筆記は予想通りボロボロだったけど…)
「「きゃ〜」」
「ん?」
後ろから歓声に似た叫び声が聞こえてきた為、思わず声が聞こえた方向を見た。
「あの方々が来られたわよ」
「あぁ…なんてお美しい…」
「同じ学園に通えてよかった…」
人波が割れるように道をつくり六人の男女がそこを歩いて行た。
「遠すぎて姿がよく見えないな…まぁいいか」
(確か…合格者の集合場所は講堂だったな)
僕は人混みを避けつつ地図を確認しながら学園の講堂に向かった。
「えーと、確かこの辺りだっはず…あれ何処だ?」
「どうしたんだい?」
声が聞こえた方に顔を向けると、そこには水色の髪をした美しい女性が立っていた。
「…………」
ヒナタは、今までゲンジとしか会話することがあまりなかった為、完全な人見知り状態になっていた。そのせいでどう会話を続ければいいのかわからなくなっていた。
(あれ?どうやって喋ればいいんだっけ…)
「あれ、大丈夫かい?」
(同世代の人間と喋るのなんて4年ぶりだな…心臓がバクバクしていてヤバい)
「…大丈夫です」
「良かった…聞こえてるみたいだね」
「実は、講堂に向かいたいのですが何処に行けばいいのでしょうか?」
「もしかして編入生かい?」
「はい、先程試験に合格して貰った用紙に講堂に行くよう書いてあっので」
「名前を聞いてもいいかな?」
「ヒナタ・アカツキです」
「僕は、今年から進学科3年になるニーナ・エルミエルだよ。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
「講堂はこの先を左にまがれば着くよ」
「ありがとうございます」
「頑張ってね。それじゃあ」
「はい!」
ニーナさん、いや…ニーナ先輩に言われた通り講堂に向かった。そこには、白い天幕を張った受付場があった。
「編入生の方でしょうか?」
「ヒナタ・アカツキです」
「確認しました中へお入りください」
中へ入るとそこにはとても広い空間が広がっていた。
(広い、学園の生徒数が一万人以上いるとは聞いてたけど、この講堂全員余裕で入れるんじゃ…)
「えーと、席は確かB-13か…あった」
僕は、渡された番号札の席に腰を下ろした。
「まだ誰もいない…」
講堂にはまだ誰もいない為、ヒナタは一万人もの人間が入ることのできる講堂に一人座っていた。
(これ目立たなきゃいいけど…)
ヒナタは帯刀している刀の柄を撫で始めた。他の人間から見たらただの変人である。
(やはり、刀は落ち着く…)
「隣いいかしら」
「どうぞ〜……ん?」
隣の席にキリッとした目に凛とした黒髪の美女が座っていた。
(まさか、見られたか…)
「……何かよう」
「嫌…何もありません」
(あれだ、世間で言うクールビュティーってやつだ)
「あっ、僕はヒナタ・アカツキよろしく」
「…悪いけど私は刀を撫でてニヤけているような変態と仲良くする気はないの」
(やっぱり見られてた…!)
「…せめて名前だけでも教えていただけないでしょうか」
「………レイナ・アルカナよ。これで満足かしら」
「ありがとうございます」
(…この人話しづらい)
ヒナタは気まずい空気の中、講堂で他の生徒が来るのを待つのだった。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
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