第20章:美咲の救済、光への一歩
ゴール後。
遙は荒い息を整えながら、トラックの端に立つ美咲を見つけた。
美咲は、ただ呆然と立ち尽くしていた。遙たちの走りに、完全に圧倒されていた。
その時、倒れたままの飯屋が、美咲に向かって叫んだ。
「役立たず! あんたなんか、もういらない! 所詮、万年2番手の負け犬だったわね!」
飯屋の冷酷な言葉が、スタジアムに響く。
美咲の顔が蒼白になった。
飯屋は美咲を一顧だにせず、チームメイトに助けられてその場を去っていった。
美咲は、完全に孤立していた。
遙が美咲に歩み寄る。
「美咲…」
遙の声は、優しく、そして強かった。
美咲は遙を見上げる。その瞳には、初めて見せる脆さが宿っていた。
「遙先輩…私は…」
美咲の声が震える。
その時、杏奈が駆け寄ってきた。
「美咲!」
杏奈は息を切らしながら、美咲の前に立った。
「美咲、あなたは卑怯者なんかじゃない!」
美咲はハッとして杏奈を見つめた。
「ユニフォームを盗んだこと、知っているよ!でも、それは飯屋に利用されたからでしょう!?」
杏奈の言葉は、激しく、そして真っ直ぐだった。
「美咲が失ったのは、才能じゃない。仲間との絆だよ。でも、まだ間に合う! まだ取り戻せる!」
美咲の瞳から、涙が溢れた。
「私…私は…」
恵美も杏奈の隣に立つ。
「美咲、私たちは美咲を見捨てないよ。あなたが本当に走りたかったのは、こんな道じゃないでしょう。」
遙が美咲の肩にそっと手を置く。
「美咲。一人で抱え込まないで。私たちは、美咲を助けたい」
美咲は、その場に膝をついた。
涙が止まらなかった。
鳴海高校で「万年2番手」と呼ばれ続けた屈辱。遙たちへの嫉妬。飯屋に利用され、裏切られた絶望。
すべてが、一気に溢れ出した。
「…ごめんなさい。ごめんなさい…!」
美咲の声は、悔恨に満ちていた。
遙は美咲を優しく抱きしめた。
「美咲。あなたは、もう一人じゃない」
夕陽がスタジアムを染める。
美咲の心の闇は、ようやく光に照らされ始めた。
それは、遙たちが信じた「赦し」の力が、形を変えて実を結んだ瞬間だった。
飯屋の裏切りが、美咲を闇から解放する決定打となり、杏奈の言葉が、美咲に「救いの手」を差し伸べたのだ。
チームが遙と美咲の元に駆け寄り、皆で美咲を囲んだ。
美咲は、初めて本当の仲間に囲まれた感覚を味わっていた。
クロスビートのメロディが、静かにスタジアムに響き渡る。
それは、美咲の新たな始まりを告げる、希望の序曲だった。
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