第19章:遙と鈴村、絆のバトン
バトンが遙に渡る。
アンカーの遙は、猛烈な加速で鈴村梓を追った。鈴村の孤高の美しさを保った走りは、まるで冷たい鋼鉄のナイフのよう。遙はコーナーを抜け、直線に入った。
遙は猛然と腕を振り、鈴村と並んだ。しかし、鈴村はここでさらにもう一段階、爆発的な加速を見せた。
――速い。
遙の体から、一瞬にして力が抜けた。肺が燃え、足が鉛のように重い。
ダメだ。もうこれ以上、行けない。
遙の脳裏に、高校時代、パスが回ってこなかった孤独な光景が蘇る。再び一人だ。負ける。この最高の舞台で、仲間たちの想いを、私の限界で終わらせてしまう――。
その一瞬の絶望が、遙の走りを止めた。
「遙!行け!君の魂を、世界に響かせろ!」 和子コーチの絶叫が届く。 「遙!魂を見せろ!お前の走りが、未来を創るんだ!」 鈴木コーチの咆哮。
そして遙は、自分には聞こえるはずのない声を聞いた。
――遙先輩。一人じゃない!(美咲)
遙の胸に、結衣、雪乃、奈緒、そして美咲の「万年二番手」の屈辱まで含めた、チームの全ての**「不協和音」が、「不完全な強さ」という名の濃密な酸素**となって流れ込んだ。
「まだだ!まだ終わらない!」
遙の孤独は、今、四人の絆の力に塗りつぶされた。遙は、自らの限界の壁を、
激しいギターリフ(Seek and Destroy)
が突き破るように、力強く蹴り破った。
ドッ、ドッ、ドッ!
遙の走りが伸びる。それは、個人の走力を超越した、チームの魂そのものだった。
直線で鈴村を抜き去り、圧倒的な差でフィニッシュ。
歓声がコロッセウムを揺らし、鈴木コーチは「はっ!」と冷静に戻る。
チームが遙に駆け寄り、抱き合う。
「やった…! 遙さん、最高です!」
奈緒の肩は痛むが、その痛みさえも、この喜びの前では些細なものだった。
飯屋は倒れたまま、悔しさに地面を叩く。
夕陽がグラウンドを染め、遙の走りは絆という名の、永遠に響くバトンそのものだった。
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