バカの知識

ちびまるフォイ

バカで気づくこと

株式会社すごいコーポレーションは苦境に立たされていた。


「くそ! どうして会社の業績があがらないんだ!」


「社長……」


「こんなに会社は頑張ってるのに。

 まるで会社は成長しない……なんでだ!」


「社長。外部のコンサルティングに見てもらっては?

 会社の中では気付けないこともわかるかもしれません」


「うーーん。そうだな、そうしてみよう」


社長はそこで社外のすごいコンサル専門家を生贄召喚した。


「というわけで、会社は苦境のまっただなか。

 うちの会社の業績を改善するための方法を見つけてほしい」


「お任せてください。私はこの道40年のプロです」


「若いように見えるが?」


「20歳です。前世もコンサルでした」


「それは頼もしい!!」


外部のコンサルの人は会社をくまなくチェック。

やがて細かい分析と数値がずらり書かれたレポートを社長に提出した。


「こちらが会社の現状と、それに対する成長戦略です」


「なるほど」


内容はあまりに専門的すぎて社長もわからない。

だが社長という立場上、わからないとはかっこ悪くて言えない。


「よければ解説も?」


「おお、助かるよ」


「ごほん。では説明させていただきます。

 この会社ではオーパーツのランデブーがコミットしており、

 それが原因でマッシブなプロトコルがトゥギャザーできてない。

 なのでPTSDサイクルをアジャイルしてドーンしましょう」


「ほほう、そうきたか!!」


まったくわからない。

だがなんかすごそうなことを言っている。


「ではさっそく実行フェーズにいきましょう」


「頼むよ!」


コンサルの指示の元、会社は大きな変革を迎え、

最終的に業績は見事な右肩下がりの急落を見せた。


「おい全然効果ないじゃないか!!

 コンサルのやつはどこへいった!!」


「さっきビルから飛び降りました」


「なんて迷惑な!」


「どうします社長。このままでは社員は路頭に……」


「……少し考える」


追い詰められた社長は、会社近くの公園に行った。

会社にはいられず、家にも居場所はなかった。

公園しか避難先がなかった。


「はあ……この先どうすればいいんだ……」


ベンチに座ってうなだれる。

すると、みすぼらしいホームレスが近寄ってきた。


「あんたいい服着てるねぇ。ちょっとめぐんでくれないか?」


「物乞いか。嫌だね、私は社長なんだ。

 お金の価値を誰よりもわかっている。

 なんの見返りもないのに金なんかぜったい渡さない」


「じゃあ、あんたの悩みを解決してやろう」


「ははは。お前が? 見るからにバカそうじゃないか」


「頭が良いやつが、必ず正しい答えを見つけるのか?」


「面白いことを言う。それじゃ答えてもらおうか」


社長は面白がってホームレスにお金をめぐんだ。

そして直面している難しい悩みをうちあけた。


「……というわけで、うちの会社は傾きすぎて斜塔みたいになってる。

 この業績をどう改善するのか。お前ごときにアイデアがあるか?」


「もちろん」


「本当かよ。外部のスーパーコンサルを雇ってもダメだったのに」


「あんた社長だろ? あんたが変わるのが一番さ」


「バカなこと。これまで私だったから会社は成長した。

 それを変えろなんて浅はかすぎる」


「でも業績傾いてんだろ?」

「う……」


「あんたずいぶん賢そうじゃないか」


「そうとも。有名大学を出て、幼少期から帝王学を学び。

 会社に入ってからも出世街道を爆進しているエリートさ」


「そしてそれを自分の功績のように思っている、だろ?

 俺から見りゃまるで裸の王様さ。ひとつ知識が抜けている」


「はあ? お前より優れている私に何の知識が抜けてると?」


「バカの知識だよ」


「……へ?」


「あんたはバカになる方法も手段も知識もない。

 だから頭でっかちで、鼻につくエリートで終わってるのさ」


「それがなんの役になるんだよ! ホームレスごときが!!」


「あんたの寄付ぶんのアイデアはこれまでさ。

 これを薬ととるか、毒ととるかはお前の自由だ。じゃあな」


「おいこらホームレス!! 逃げるな!!」


どれだけ呼び止めても男が戻ってくることはなかった。

悔しかったのは、これだけ学んで言い返せなかったことだった。


「バカの知識……。なんだよそれ……」


どうすれば成功するのかばかり考えていた。

しかしこれまで自分はバカ側の知識を得ようとしていなかった。


バカであることが必要だとは1ミリも思わないが、

自分に隙があると思いたくなくてバカの予備校へと編入した。


「では問題です、1+1= は? はい、社長くん」


「バカバカしい。2だろ」


「いいえ、バカの答えは……わからない、です!

 ではみなさんで声を合わせて!」


「(わからない……)」


「社長くん、声がちいさい!

 バカになることを恥ずかしがらないで!」


「「「 わからない!! 」」」


「ぐっと! みなさん、この授業でどんどんバカになりましょう!」


バカの予備校では積極的にバカになる方法を学ぶ。

社長が編入したことを後悔するくらいバカ知識が多かった。


これまで優れた成果を出し続けていた社長であったが、

ことバカの予備校においては落ちこぼれ筆頭となる。


「いやそれは違う。常識的に考えてーー」


「社長くん!! バカは話をさえぎらない!」


「ぐっ……。しかし明らかに間違ってるだろう!?」


「バカはそれすらわからないんです!

 ちゃんとバカになりきって話を全部聞いて下さい!!」


「ええ……?」


バカ会話講座でも赤点。

別の科目でもーー。


「社長くん、なんですかこの回答は?」


「アジェンダのイニシアチブするマイルストーンを書いたんだ。

 私くらい人を率いる立場になれば朝飯前さ」


「バカはそんなこと書かない!

 使う言葉は小学生が限界にとどめてください!」


「えええ!?」


バカ国語でも赤点。

そんな赤点を繰り返す社長もついに卒業を迎えた。


「社長くん、あなたは一番手のかかる人でしたが

 今はうちとして誇りをもって卒業を認められます」


「身になるものは何もなかったけど……」


「これがバカの認定証です。あなたはプロのバカです」


「バカにされてる?」

「バカになったんですよ」


こうして晴れやかに卒業を迎えた社長だったが、

バカの知識を得たからといって変わった実感はなかった。


「やれやれ。とんだ回り道をしてしまった。

 はやく会社にもどって業績を建て直さなくちゃ……」


社長は久方ぶりに自分の根城である会社に戻った。


会社では社員が業績を回復させるための方法を

あれやこれやと議論をかわしている真っ最中。


かつての社長であればそこに参加して、

マウントがてら自分の知識をひけらかしたものだが。


すっかりバカに染まった社長は、バカらしいことを聞いた。


「君たち……なにやってるの?」


「なにって社長。この会社がふたたび成長するプランですよ」


「わからないから教えてほしいんだけど、

 これってそれってどういうこと?」


オフィスがざわつく。

社員が自分に向ける目が驚きに満ちている。


「どしたの?」


「しゃ、社長から質問されるの初めてで驚きました」


「そんなこと……」


ない、と言いかけたが言葉を飲む。

あったかもしれない。


以前の自分は社長というプライドからなにも聞けなかった。

自分の知っていることで相手の話を潰していた気さえする。


「ちゃんとわかるように教えてほしいんだ。私はバカだから」


「もちろんです社長!」


「ただし、使う言語は小学生までだ。

 それ以上に難しい言葉使うと理解できなくなるほどバカだから」


「わかりました! かみくだいて説明しますね!!」


社員は嬉々として会社をたてなおすプランを語った。

そのどれもが鋭い着眼点だと、バカの目にもわかる。


こんなに優れたアイデアマンがいたのに、

どうして会社は傾いてしまったのだろう。


原因は社長である自分のほうが優れていると思って

自分の意見で進めてしまっていたと気づいた。


「私はすっかりバカになってしまった。

 だからみんな、私に教えてくれ。

 君たちの優れたアイデアを!」


社長のバカ化により、社員たちは遠慮せず声をあげた。

そのアイデアや戦略はどれも画期的で優れていた。



その後。


お菓子会社であるすごいコーポレーションは、

バーチャルお菓子の販売をやめることで業績をIアイ字回復させたのだった。

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