第6話 シャドウハンターギルドの設立


私が初めてシャドウを倒したのも束の間、ディアウラは新機関を設立の場所に悩む私に「自分の土地を使うか?」と言ってきた。意味が分からずアマリと首を傾げていると、ディアウラは続ける。


「別空間から飛んで、聖域を使うんだ」

「…聖域?」

「聖者という存在が始まった、伝説の地…アルファーナ。そこの一端だ」


「アルファーナ」


確か母の持っていた書物に書いてあった。聖者は大昔、闇にとさざれた世界を救うため、アルファーナの地で修行し、その聖なる力を手に入れた。そして世界を覆っていた、闇の根源である「闇の心臓」を破壊し、世界は光を取り戻した─。


ざっくりこう覚えているけど、本当にアルファーナがあるのだろうか。そして、その場所に飛べることができる。しかし…なんでディアウラはアルファーナなんてところに行けるのだろうか?


「アルファーナは聖人たちが憧れる場所でね、限られた力を持つもの以外、繋がることができない。俺はうっかり繋がってしまって、その修行がてら通っていたら、ある人、天界人から使ってない場所を好きに使っていいって言われたんだよ」


アルファーナも詳しく知らないし、天界人など、聞いたこともない。でも嘘っぱちを言ってるようにも聞こえなかった。


「でも、その空間に一般人をつないでしまったら迷惑なんじゃない?」

「そうだね、じゃぁアルファーナに建てたギルドの中のみ繋いで行き来できるようにしよう。俺の魔法でね」


空間を操作するなど、この男、桁外れの魔力を持っているようだ。私は、ここ最近に出会った魔術士達の顔を思い出し、頭痛がしてきた。


「でも、シャドウに襲われたりしないし、王宮からはバレにくいし、その方がよさそうだね」

「秘密基地みたいで面白そう!」


私達が賛成すると、ディアウラは嬉しそうに頷いた。はじめは危険な存在に思えた彼も、味方にすると頼もしい仲間だなとおもう。


「じゃぁ早く片付けよ!一刻も早く作らないと」


私は腰かがめて散乱してしまった食器のカップを持ち上げた。するとふわりとそのカップはふわりと浮かぶ。


「全部俺に任せなよ。君はそうだな…ギルドの名前でも考えていてくれ」


なんて言ってる間に散らかっていったものが巻き戻されるように浮かびあるべきところに戻っていく。アマリはその様子を楽しそうに見てはしゃいでいた。まさかもう、ギルドの建物も出来上がってたりして。もう私は考えるのをやめた。


ギルドの名前…シャドウを狩る組織なわけだから、シャドウハンターギルド…だけじゃ味気ないよね。


「アマリ、いい名前を考えたよ!」


アマリがニマニマしながら私の袖を掴んだ。

私は腰を低くして、なんだろう?と聞き返す。


「ムーンライト!」

「ムーンライト…月あかり、か」


なるほど、夜を照らす月光のイメージが浮かぶ。まさしくイメージがぴったりだ。…すごく良いかもしれない。


「うん…いいね!さすがアマリだ」

「えへへ、ずっとね、トナマお兄ちゃんみたいだなぁって」


私は思わずあまりを抱きしめた。かわいすぎるこの生き物。

そんな光景を笑顔で見ていたディアウラは仕事が終わったらしい。気づけば部屋はきれいに片付いていた。


「ついでに建物も作っておいたから」


…やっぱり。だんだんと慣れてきた私はそれほど驚きもせずただ頷いた。


─そして数日後、私達はさまざまな準備をした。不思議なことに、奇妙なほど簡単に物資が現れ、あれよあれよと今日から営業開始になった。そもそもエメロドカスルに運営許可申請などを送る必要などもない市民のためのアンオフィシャルな民間組織なのだ。


シャドウハンターギルド「ムーンライト」


ディアウラの魔法で生成された施設内だが、物理世界のようにすべてのものは使える。しかもゴミが出ないという夢の空間だ。外から持ち運ぶのは食料物資だけ。


なんと居住できるスペースもあり、寝泊まりも可能。安定した居住地のない私やアマリに配慮したレイアウトだ。

このムーンライトは、私たちが暮らしていた空き家の一角から入り口を作っており、「チケット」をもつ者しか入れない仕組みになっている。そのチケットはシャドウや一部の王宮から離れた聖者たちの気配をたどり、必要なものに人に付与され、譲渡は不可なのだと言う。システムさえも作ってしまうディアウラに私は、感嘆しっぱなしだ。


「うふふ、まさかあの聖域、アルファーナに行けるなんて!投資してよかったわ!」


当日にはスターシアを呼んだ。スターシアのおかげでこのムーンライトができたのだから、多少変な人でも感謝せばならない。


「そうそう、あなた達、せっかくオーナーになったのだから、制服が必要でしょ?私デザインしてきたのよ」


スターシアは大きなカバンをどこからともなく呼び出し、その中から衣服を取り出す。それは美しい月と星の模様が描かれた屋敷で使用人の者が着るようなフォーマルで小綺麗な衣装だった。


「俺にはないの?スターシアさん」

「ないわよ!貴方はギルドで使われるほうでしょ」

「ちぇ、俺が場所を提供したのに…」

「トナマ坊ちゃま、アマリ嬢、よく見せてちょうだい!…あら!可愛い!私ったらやっぱりセンスあるわね!」


きゃあきゃあと嬉しそうにスターシアさんは私たちの姿を眺めている。ひとしきり満足したら、まじめな様子でディアウラを見た。


「ところで、貴方みたいな人が、いなくなった王宮はさぞかしてんてこまいなのではなくて?」

「どうだろうな。形式的には揉めるとは思うけど、実質オレの仕事はほぼ何もしない管理職みたいなものだったし。ルルミィナが居る限り結界が弱まったりはしないだろう」


ルルミィナ、その人が王宮の中で中心にいる聖女…なのだろうか。スターシアはその名を聞いてあらあら、と含みのある笑いを見せた。


「ルルミィナちゃんね。私、彼女のことなら知ってるわよ。それもよく…」

「そうか。さすが高名なスターシアさんだ。彼女の聖なる力は俺なんかよりも及ばないくらいだからね」

「すこーし、アレだけど…あ、クライアントの情報を流すのはダメだったわね。おほほほ…」


2人の反応からして、ルルミィナはなかなか癖のある人物らしい。私はその話題には触れないことにした。


それより、事前に「チケット」を渡した人たちがいる。彼らは来るだろうか?


「さて、そろそろ時間だな」


そう、エメロドカスルの国ではムーンライトの営業時間が来ようとしていた。そしてついにその時間がやってきた─と、同時に


「たのもー!」


バン、と勢いよく扉が開く。姿を現したのは王宮のローブを身にまとった、聖女。なんと初っ端からやってきたのは、王宮聖女だったのだ。

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