第5話その笑顔の裏で、君は泣いていた
翌朝。
また同じ朝。
「おはよう、レオン。今日が入学式ね!」
けれど、今回は違った。
エリスが、俺を見て一瞬だけ悲しそうに微笑んだ。
「……なんでもない。さ、行きましょ。」
たったそれだけの違い。
それでも胸の奥に、ざらつくような違和感が残る。
◆ 午後の実技演習
「今日のペア演習は──エリス・クローヴァと、レオン・ハートフィールド!」
教官の声が響いた瞬間、教室中からどよめきが上がる。
エリスは小さく舌打ちして、俺を睨む。
「……またあなたと? ほんとに偶然?」
「偶然だよ。俺、運命と仲がいいから。」
「……バカ。」
でもその“バカ”は、少しだけ優しかった。
魔法の訓練で彼女の魔力が暴発し、炎の渦が俺たちを包んだ。
咄嗟に彼女を抱き寄せる。
「きゃっ……!?」
「大丈夫だ、離れるな!」
炎が収まると、俺の腕の中にいたエリスが息を荒げて見上げていた。
頬が赤く、唇が小刻みに震えている。
「……こ、こういうの、慣れてるの?」
「いや、初めてだ。」
「じゃあ……もっと顔、近いの、やめて。」
「……いや、離せない。危ないから。」
「ば、ばか……!」
でも、その“ばか”は震えていた。
たぶん、怒ってない。
◆ 夜・湖畔のほとり
その夜、俺は眠れず湖へ向かった。
月が水面を揺らし、夜風が冷たい。
そこに――やはり彼女がいた。
月光を背に、静かに湖を見つめている。
「エリス。」
「……来ると思ってた。」
振り返るその瞳は、まるで見透かすように優しかった。
「ねぇ、レオン。
あなたって、本当に“今日が初めて”なの?」
「……どうして、そう思う?」
「わからない。
でも、あなたを見ると懐かしい気がして……
ねえ、私たちって――どこかで会った?」
俺の心臓が跳ねた。
彼女が“覚えている”。
断片的にでも、過去のループの記憶を。
「……もしかして夢で、俺のことを見た?」
「夢、なのかな。
いつもあなたがいて、
私が泣いていて、
でもあなたは笑ってて……」
彼女の声が震える。
「ねぇ、私……前にあなたを、失った気がするの。
なのに今は、あなたがここにいる。」
月明かりが二人を照らす。
俺はそっと、彼女の肩を抱いた。
「……俺は、何度でもお前を守るよ。」
「どうして、そんなこと……」
「俺は……過去をやり直してるんだ。
何度も、君を助けられなくて……
でも、何度でも君を好きになってる。」
エリスの瞳が揺れた。
唇が震えて、声がかすれる。
「……ずるいよ。
そんなふうに言われたら、泣いちゃうじゃない……」
彼女の目から、一筋の涙が落ちた。
それは、月光を反射して小さく輝いた。
「お願い、レオン。
次の朝が来ても、また私を見つけて。
私、忘れちゃうかもしれないけど……
あなたのこと、ちゃんと覚えていたいの。」
「ああ。何度でも見つける。」
エリスが、そっと俺の胸に額を押し当てた。
心臓の鼓動が、ふたりの間で重なる。
「……温かいね。」
「37度、だろ?」
「ふふ、ばか。」
◆ 翌朝
「おはよう、レオン。今日が入学式ね!」
……また同じ朝。
けれど今回は、エリスが俺を見て、
ほんの少しだけ笑った。
「なんかね……変な夢を見たの。
あなたに“また会おう”って言われる夢。」
「……そうか。」
「ねぇ、また会えたね。」
そう言って微笑む彼女の顔は、
涙の跡を、ほんのり残していた。
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