第4話ツンデレの温度、37度
また朝。
また同じセリフ。
「おはよう、レオン。今日が入学式ね!」
もう慣れた。
三度目の“入学式”ともなると、もはや恒例行事だ。
だが今回は、俺の中で何かが違っていた。
エリスを惚れさせたいという気持ちよりも――
ただ、もう一度、あの笑顔が見たいと思っていた。
◆ 午後の魔法実験室
エリスが魔法実験をしている。
彼女の周囲には金色の魔法陣が幾重にも展開され、
その姿はまるで光の中の聖女だ。
「――よし、安定した……!」
「すげぇ……」
思わず口からこぼれた。
彼女が振り返る。
「ちょ、ちょっと! 勝手に入ってこないでよ!」
「悪い、でもすごかったから」
「あ、当たり前でしょ! 私は学院主席なんだから!」
「あぁ、知ってる。でも……綺麗だった。」
「なっ……!?」
顔が真っ赤になった。
彼女は慌てて魔導書で口元を隠す。
「ば、ばか……っ、そういうこと、軽々しく言わないでよ!」
「軽くない。
だって――俺、何回も君を見てきたけど、
何度見ても、今日の君がいちばん綺麗だと思った。」
「……っ!」
手にしていた杖が震え、魔法陣が少し乱れた。
「……あんた、ほんとに……何者なの?」
「ただのバカ騎士だよ。
でも、君に惚れてるバカだ。」
「~~~~っ!!!」
エリスは顔を覆い、魔導書で俺の頭を小突いた。
(手加減されてた。たぶんデレ度+20%)
◆ 夜・学院の屋上
風が涼しい夜。
俺は屋上にいた。
そこに――またエリスが現れた。
「あなたって、ほんとに落ち着かないわね。」
「お前こそ、いつも俺のあとを追ってくるじゃないか。」
「ち、違う! たまたまよ!」
彼女は頬を赤らめながら隣に腰を下ろす。
月明かりが髪に反射して、白銀の光が揺れた。
「ねぇ、レオン。」
「ん?」
「あなた、前にもこんなふうに、私に“綺麗だ”って言ったことある?」
「ある。何度も。」
「……そう、やっぱり。」
彼女は微笑んだ。
その笑顔は懐かしくて、胸の奥が温かくなる。
「夢でね、あなたがそう言ってくれたの。
それを聞くと、不思議と安心するの。
たとえ世界が壊れても、またあなたに会える気がする。」
「……それは夢なんかじゃない。
俺たちは――」
言いかけて、やめた。
言葉にすれば、すべてが崩れてしまいそうで。
代わりに、そっと彼女の手に触れる。
「な、なにしてるの……っ!?」
「寒いだろ。
ほら、手、冷たい。」
「……っ、べ、別に寒くなんか……!」
「はいはい。ツンデレ恒温37度、確認っと。」
「だ、誰がツンデレよ!」
でも、その手は――確かに、少しだけ温かかった。
風が吹く。
月が滲む。
「ねぇレオン。」
「ん?」
「……私、あなたといると、胸が変になるの。
夢の中で何度もあなたに会ってたのに、
どうして初めて会ったような気がしないんだろう。」
「……それは、俺たちが――」
彼女の手をぎゅっと握る。
「何度も、恋をやり直してるからだよ。」
エリスの瞳が見開かれる。
次の瞬間、月明かりの中で、彼女は小さく笑った。
「……バカ。そういう台詞、ずるい。」
その声は、ツンの中に溶けたやさしいデレ。
俺の胸の奥で、何かが弾けた。
◆ 翌朝
「おはよう、レオン。今日が入学式ね!」
また同じ朝。
でも――。
エリスの顔が、ほんのり赤い。
「な、なに? なんで見てるの?」
「いや、夢を見た気がして。
すごく、あったかい夢。」
「……ふ、ふーん。
そ、それなら……いい夢だったんじゃない?」
彼女は照れ隠しに顔をそらす。
俺は笑った。
たとえ世界がリセットされても――
この温度だけは、確かに残っている。
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