第3話恋とループの観測者
「おはよう、レオン。今日が入学式ね!」
まただ。
目を開けると、昨日と同じ朝、同じセリフ、同じ笑顔。
「……はいはい、おはよう、ループ3回目。」
「るーぷ? なにそれ?」
「あ、いや。なんでもない。」
どうやら俺の“時間やり直し地獄”は、今回も継続らしい。
だが、落ち込んでばかりはいられない。
今回は目的を変える。
惚れさせるより前に、なぜループが起きているのかを探る。
◆ 魔導学院・図書塔
「時の魔法」について調べようと図書塔にこもっていた。
埃だらけの本を読み漁る俺に、突然声が飛ぶ。
「またサボり? あなた、授業に出ないと単位落とすわよ」
エリスだ。
きっちり制服を着て、いつも通りツンの構え。
「研究だ。ちょっと“時間魔法”のことを調べてる」
「時間魔法? まさか、使えると思ってるの?」
「いや、使えたらいいなと思ってな」
エリスは呆れ顔で肩をすくめた。
が、ほんの一瞬だけ、表情が陰る。
「……それ、簡単に触れる魔法じゃないわ。」
「ん?」
「時間魔法はね、昔“人の命を巻き戻す”禁呪として封印されたの。
使えば、世界が壊れるって言われてる。」
彼女の声は、どこか怯えていた。
まるで――知っているような口ぶりで。
「お前、詳しいな。」
「……読んだだけよ。文献で。」
「そうか。」
そう言って彼女が立ち去る背中を見送りながら、
俺は確信した。
エリスは“何か”を知っている。
◆ 夜・学院中庭
静まり返った中庭で、俺は魔法陣の実験をしていた。
手にしているのは、彼女のノートの写し。
「“時を繰り返す者、愛を忘れるな”……か。
……愛を、忘れるな、ね。」
自分でも苦笑する。
恋愛バカすぎる呪文だ。
だが、試す価値はある。
魔力を流し込んだ瞬間、
空気が震えた。
「なにしてるの?」
振り向くと、そこに――エリス。
寝間着姿。
銀の髪が月光に揺れて、まるで幻想みたいだった。
「あ、あぁ……ちょっと夜風を浴びてただけ。」
「嘘。あなた、また変な実験してるでしょ。」
「いや、実験というか……君の研究を、ちょっと真似してた。」
「……はぁ。ほんと、あなたって――」
呆れながらも、彼女は隣に腰を下ろした。
ふたりで月を見上げる。
「ねぇレオン。」
「ん?」
「……時々、夢を見るの。
同じ光景を、何度も繰り返す夢。」
「!」
「あなたが笑って、私が怒って……そして、光の中で――」
「――消える。」
「……どうして、それを。」
沈黙。
風の音。
俺は笑ってごまかすしかなかった。
「もしかして、俺たち、夢の中で付き合ってたんじゃないか?」
「なっ……!? バカ言わないでよ!」
「じゃあ、惚れてたんだな?」
「惚れてないっ!」
「夢の中でも?」
「――っ、知らないっ!」
彼女は顔を真っ赤にして立ち上がり、逃げるように去っていった。
残された俺は、月を見上げる。
胸の奥で確信が膨らんでいく。
「やっぱり……彼女も、少しずつ“覚えてる”んだ。」
◆ 翌朝
「おはよう、レオン。今日が入学式ね!」
……また戻ってきた。
だが、今度は違う。
机の上に置かれたノートのページに、見覚えのない文字があった。
“――誰かを好きになるたび、世界はやり直す。”
それを書いたのは、彼女か、それとも未来の彼女か。
わからない。
だが俺は笑った。
「いいだろう、ツンデレさん。
今度は、俺の番だ。」
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