米澤穂信「Iの悲劇」めっちゃ面白いからみんな読もうの回

米澤さんといえば「氷菓」など古典部シリーズ他数々の有名作品がありますが、私が今回推すのはこちら。


※めちゃくちゃネタバレします


『Iの悲劇』あらすじ

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かつて無人となった某地方都市の限界集落「蓑石(みのいし)」。そこを再び人が住める場所に再生させる「蘇生プロジェクト」が始動。

主人公の万願寺(まんがんじ)は、市役所の「甦り課」に配属された、冷めた態度で仕事はそつなくこなす公務員。彼の任務は、移住を希望する数世帯を村に定着させ、プロジェクトを成功させること。しかし、理想を抱いてやってきた移住者たちの周囲で、不可解な事件や不穏なトラブルが次々と巻き起こる。

日常の謎連作ミステリー。

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万願寺は若くて優秀な公務員ですが、市長肝いりとはいえ明らかに失敗の見えている「蘇り課」に配属されてかなり不満たらたらのところからスタートします。彼の印象は、それこそ「氷菓」の折木のように優秀だが低温で斜に構えた男です。


移住してきた住民のトラブル、謎の部分は解決するわけですが、結局なんだかんだで櫛の歯が抜けるように移住者たちは市外へ出ていく。

物語の途中で万願寺は、なぜプロジェクトがうまくいかないのか市長を含めた上役たちに「愛着が足りないから」と説明します。また万願寺は(おそらく岐阜や長野辺りがモチーフの)市の山間部にある蓑石の積雪対策が、いかに行政の予算にダメージを与えるか同期と相談しつつも、熱心に根回しをしていたりする。

この辺で彼への印象はちょっと変わってくる。

何の特徴もない地方都市の、その更に消えた限界集落に移住者を定着させるプロジェクトに、彼は淡々としかし懸命に対応しているのです。


そして結末は、全ての移住者が出て行ってしまう。

実は万願寺の上司と後輩が市の幹部の肝入りで、このプロジェクトを潰すために半ば積極的に移住者たちのトラブルを誘発していたことがわかります。動機は、新たな集落を維持するための予算は市の財政を脅かし、他の行政サービスが割を食ってしまうため。限界集落が自然に消えたのは、市にとってはある意味で喜ぶべきことだった……という厳しく苦いものです。


万願寺は同僚の裏切りに合い、彼らに怒りをぶつけます。移住してきた住民たちが、彼の生まれ育った市に定着し、時を重ねていく姿を幻視しながら。

そう、万願寺というやつは……地元への愛着があったのです。だから市役所に勤め、その使命を全うし、新しい移住者たちにも愛着を持ってほしいと願う、善良な公務員でした。


万願寺……お前、冷笑系っぽいのに愛情深い奴だったんだな……やれやれ言いながら、どんなアレな住民相手でも対応をおろそかにはしなかったもんな……それなのに信頼してた同僚に裏切られてよお……悲しいなあ。


裏切った上司は言いました。

「君(万願寺)は思っていたよりもきちんとした公務員だった」


私はこの話が好きです。

米澤さんが色んな賞を取り過ぎて、無冠の作品はつい埋もれがちになると思うのですが、この作品は米澤日常の謎系作品ではトップクラスに良い……!!!

もっと多くの人に読んで欲しい。


でも一番好きなのは古典部シリーズなんだ。すまんな万願寺。





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