ACT.16 破綻

 おれはあえて速度を落とし、DC5の直後に忍び込んだ。

 真っ青に光るテールランプを睨みつけ、アクセルをじわりと踏み増す。


「さて――得意のブラインドアタック、封じさせてもらうよ……」


 後攻に入った理由は、それ一つ。

 だが前を走る戸沢は、バックミラー越しに薄く口角を上げた。


「“不得意な先攻を取ったときの対策”……忘れるなよ」


 湿った夜気に紛れて、その声は不気味に沈む。


 スタート地点。智が腕を組んだまま呟く。


「よし……後攻、取ったな」


 だがその横顔の奥には、別の声がざわついていた。


(この作戦……本当に通るのか?)


 WHITE.U.F.Oの面々もざわつく。


「珍しいな。戸沢さんが先攻?」「普段はライト消して後ろから刺すのに……」


 そう。ブラインドアタック――

 後攻でなければ成立しない、奴の十八番。


 しかし今、後ろにいるのはおれだった。


 ワンエイティとDC5。

 6気筒と4気筒が、東名パワードのシーケンシャルを吠え立てながら闇夜へ飛び込む。


 ギャラリーポイントには、オレンジ髪のツインテールと緑髪のポニテ。

 ……いや、緑のヒマワリは普通に寝ていた。


「おいヒマワリ、来たぞ! ワンエイティとDC5! しかも後者が先を走ってる!」


「……んあ。マジか……」


 2台が一閃して駆け抜ける。

 DC5は吸い込まれるような鋭いタックイン。

 ワンエイティは白煙を撒き散らしながら角度を付けて滑り込む。


「イィーネ……!」


 ヒマワリが指先を顎に当て、震える声で呟く。


「ポジション、そろそろ入れ替わる」


 モミジが冷徹に分析した。


 右ヘアピンを抜けた瞬間、DC5はタックイン。

 おれはドリフトで角度を残したまま追従。


 タイヤの皮が削れ、焦げた匂いが夜気に散る。

 2台は直線へ飛び出す。


 DC5の4気筒は鋭く叫び、

 ワンエイティの6気筒は腹の底に響く重い鼓動で応戦する。


 シフトアップ。

 そして――地獄の3連続ヘアピン。


 ブレーキを深く踏み込み、一気にギアを落とす。

 息をつく前に3つ目へ突入。

 おれのワンエイティは戸沢のテールへ迫っていく。


「……覇気がないね」


 戸沢の突っ込みが、いつもより遅い。


 ――違う。これは“わざと”だ。


「まさか……技を使わずに負ける気はない、ってわけか!」


 予感は当たった。

 ライトを消す気だ。奴は必ずやる。


 だが、おれはそれに“誘われて”いく。

 破綻寸前の罠の中へ――。


 左U字ヘアピン。勝負の分岐点。


「今だ!」


 DC5がわざと遅らせたブレーキで外へ膨らむ。

 その瞬間、反射的におれは内へ――


 ――飛び込んだ。


 前に出てしまった。


 全てが崩れた。

 後攻で封じるはずの技を、自分の手で蘇らせてしまったのだ。


「こちら3連続ヘアピン後のU字! ワンエイティ、前に出ました!」


 無線の声に、場が揺れた。


「ぢぐしょーっ!! サギさん封じるって言ってたのによお!」


 熊久保が荒れる。


「落ち着け、熊久保。私は……最初から予感してた」


「えっ?」


「前に出ればブラインドアタックは封じられる。だが、開始直後に“そうはならない”と気づいたんだ」


 その言葉に、3人娘と六荒が息を飲む。


 WHITE.U.F.O側では――


「予定通り。戸沢は相手を前に行かせて後攻に入った。で……」


「ブラインドアタックが来る」


 ギャラリーポイントの双子にも戦慄が走る。


「DC5が後攻になったぞ、モミジ!」


「ふふ……予想通り。ここからは地獄だよ」


 モミジは冷徹に言い切る。


「大崎翔子は前に出たことで、最悪の状況に陥った。戸沢の精神攻撃……あれは、速さじゃない。“心”を壊す技だ。前にいたC33乗りだって、逃げられなかった」


「運命は決まったも同然だね」


 次のカーブ。

 ワンエイティ先行。DC5後攻。


 ――そして。


 ヘッドライトが、消えた。


「見せてやるよ。“闇”の走りを」


 闇に沈むDC5。

 戸沢龍――十八番、ブラインドアタック発動。


The Next Lap 

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