第2話 雨の中の気配


次の日の朝、外はまだ雨の余韻で湿った空気がしていた。霧に包まれた村の道を歩きながら、微かに胸の奥にざわめきを感じた。まるで誰かに見られているかのような……。


「……気の所為……だよね」


振り返ってもそこには誰も居ない。でも確かに背筋を撫でるかのような、冷たくも温かい感覚があった。怖い訳ではない。ただ……心臓が少し早く打った。


学校ではいつもと同じように誰とも関わらずに過ごしていた。昼休みに教室の外を歩いているとクラスメイトがひそひそと話す声が聞こえてきた。


「ねぇ見て白露さん、また1人で過ごしてる」


「まぁ仕方ないでしょ」


そんな声が耳に届く。私はため息を吐き少し胸が締め付けられる感覚に気付かないふりをして放課後まで何も言わずに過ごした。


帰り道、ため息を零しながら濡れた道を歩いているとふわりと優しい風が私を包んだ気がした。まるで滑らないように支えてくれたような感覚だった。


「……え?」


振り返っても誰もいない。それでも誰かに守られている気配がそこにはあった。家の近くに来れば、森の中で微かに光が揺れた。狐火のような、雨に濡れた光。少しだけ目を凝らすと尾のような形をしていた。


「……誰なの?」


問いかけても返事はない。ただ少し冷えていた胸の奥に温かさが灯った。家に入り、お茶を用意していると窓の外でまた光が淡く揺れる。

雨座村の伝承"雨の日に狐火を見たら九尾のお狐様に連れていかれる" そんな昔話のはずなのに胸がざわつく。


その日の夜、眠りにつく直前、窓の外にある影が微かに揺れた。気の所為と言い聞かせても胸の奥の温かさは消えなかった。


あの光の主は、次の雨の日に私の名前を呼ぶということを私はまだ知らなかった。

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