第3話 雨夜に揺れる九尾
その日は朝から重い雲が空を覆い隠していた。
授業が終わり外へ出れば湿った風が胸の奥をくすぐった。
「……すぐにでも降り出しそう。早く帰らなきゃ」
小さく呟き雨が降り出す前になんとか家へと帰れば大雨が降り出した。扉を閉めた瞬間、雨音はいつもより大きく響いてる。
「……今日もいる……」
恐怖と少しだけ期待の混ざる胸のざわめきを感じて私は窓の外へと目を向ける。ゆらりと揺れる淡い光。まるで私を呼んでいるかのように昨日よりも鮮明に揺れている。
「……一体誰なの……?」
私は靴を履き直し、外へ出た。雨音が響く外に居たのは白く光る九本の尾を持つ男性だった。その存在は妖しく、でも何故か心を締め付けるように優しい。
「……ようやく、会えましたね」
「貴方は……誰?」
「茉莉。貴方を迎えに来ました」
その声は静かで、雨音よりも響いた。そして尾がゆらりと揺れた。まるで妖としての気高さとそして……私を守るという甘い独占欲を感じ取れた。
「迎えに……?貴方は……一体……」
「あぁ、
「契約……?花嫁……?」
その言葉は恐ろしい程に強く、そして甘く響いた。尾がそっと髪先に触れまるで指先で撫でるような動きだった。
「怖がらなくていい。茉莉、私はあなたを傷つけない。そして……傷つける者を消して許さない」
その言葉と共に、雨音が消え、世界が白雅さんの存在に染まったかのようだった。胸の奥が熱くなり私は彼から視線を外せなかった。
「さぁ茉莉、行きましょう。共に私の世界へ」
その声に私は自然と頷くしか無かった。差し伸べられた手に触れれば雨音は遠くなり妖しく笑みを浮かべたお狐様に私は目を離せなかった。
雨座村の伝承が昔話ではないことを理解しそして、私はもうこの妖の甘い執着から逃れられないということも……この瞬間に理解した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます