第1話 雨座の家で


朝、ゆっくりと目を覚ませばいつもより家の中はひんやりとしてそして静かだった。

まるで誰も息をしていないかのように思えてしまう。私は小さく息を吐き身支度を整え台所に向かった。


「起きてたのね。食事は自分でやって。」


優しさの欠片なんてない、母のいつもの言い方。返事をすれば小言を増やすことになるので私は何も言わずに支度を始めた。家族は私に興味が無い。怒られるわけではないけれど見てもらえない。


これが"普通の家"だと思うようになったのはいつ頃かももう分からない。私は台所に置かれていた冷たいおにぎり1つを手に取り静かに外へ出た。


「……今日もいつも通りの天気。」


雨座村は今日も薄い霧と湿った空気を纏っていた。遠くの山から風が降りてきて細い道に雨の気配を運んできていた。


「あっ……おはようございます」


「……あ、うん。」


村の人たちとも目は合わない。嫌われている訳では無くただ"関わらない方がいい"と思われているだけ。村の人たちの反応にも慣れた。この村の伝承のせいか、村の人たちは時々何かを避けるかのように私から距離をとる。


「……つまんないな」


小さく呟いた言葉は曇った空に溶け、今日も居場所のない学校へと通う。家でも学校でも私に居場所はない。ため息を吐きながら何とか今日が終われば灯りのついてない家へと帰る。


靴を脱ぎ温かいお茶を飲むためにお湯を沸かしていればテーブルの上にある1つのメモが目に入った。それを見て私はもう一度ため息を吐いた。


「……夕飯いらないなら朝教えてくれればいいのに。」


別に泣きたいわけじゃない。なのに胸の奥がすっと冷たくなる感覚がする。ふと窓の外を見てみれば何かがふわりと揺れた気がした。きっと気のせい……そう思いながらも私はその灯りから目を逸らせなかった。


雨座村に伝わる狐火の伝承。"雨の日に狐火を見たら九尾のお狐様に連れていかれる"そんなのただの昔話……あんなもの本当にあるはずがない。



私はまだ知らなかった。あの光はただの光じゃなくて"私をずっと見ていた誰かの気配"だったということ。そしてこの伝承がこの日を境に昔話なんかではなくなるということを

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