3. 選択

 天国では、小さな女の子と一緒だった。その女の子は、私と同じ時期に死んだようで。共に手を繋ぎ、担当だという神の元へ行く。


 すると、その担当の神というのが、


「やっほー! 君たちが僕の担当?」


陽気な、ハープを持った男性だった。


「まずは楽しく音楽を奏でよう!」


私の行った天国というのは、どうやら、音楽に長けた場所のようで。そういえば、私も音楽をやっていたな、なんて思い、思わず顔が緩む。

 男性を取り巻く先輩幽霊たちが音楽を奏で、私もまた、渡されたカスタネットでリズミカルに音を奏でる。女の子もタンタンと楽しそうに音を鳴らしていた。


 そんなことを、いつまでやっていただろう。


 女の子は飽きてしまったらしく、むすっと、頬を膨らませる。そして、ふと呟いた。


「……ママのところに行きたい」

「えっ?」

「わたし、ママのところに行く!」

「えぇっ!?」


女の子の発言に、神はぎょっとする。


「そんなに驚くことですか?」


先輩幽霊が聞けば、神は言いづらそうに


「……その子のママ、地獄にいるんだよ」


なんて答えるものだから、息を詰まらせる。


「どうしても行きたいの?」

「どうしても!」

「苦しいよ?」

「行くもん!」


一歩も引かない女の子に、神は告げる。


「行けないことはないよ。でも、本当に痛くて苦しい場所だよ。それでも行くの?」


女の子は地団駄を踏みながら、「行く」と繰り返し、走り出す。


 神はそれを止めなかった。その先は、元来た場所。つまり、天と地の境界である。


「止めなくていいんですか?」


先輩は聞くが、神は首を振る。


「……待つよ。またここに来たいと思ったら、受け入れる。それまで、好きにさせるよ」


私は無情にも女の子を止めなかった神に怒りが湧いてきた。女の子は、地獄がどんな場所か、知るはずもない。それなのに止めないとは!


 気がつけば私も女の子を追って走っていた。案内人に「前の女の子を追ってください!」と頼み込み、「えっ、あちらは地獄ですよ!?」などと言われながらも、「構いませんっ!」と案内を頼む。

 本当は通行の許可が必要なところ、『規約を破る』という形で、地獄へと落ちていく。


 そこに広がっていたのは、目を瞑りたくなるような悲惨な光景……まさに、地獄だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る