『エピローグ-秘密-』

□□□ 23日目(昼) エーテル王国 魔法都市アルカーナ



 女神様を信じていないわけはないのですが、実を言うと儀式は半信半疑でした。


 ですから儀式を終えてすぐに効果が現れた時、私は猛省してその日はいつも以上にお祈りをいたしました。


 明らかに魔王の声が聞こえてくる頻度が減り、治療魔法の効果が格段に上昇しました。さらに私の魔力自体が大きくなったのを感じます。


 そのことを話すとラナはまた、自分のことのように喜んでくれました。

 

 私たちは儀式を終えて、再びアルカーナに戻ってまいりました。直接、次の街に向かうよりもアルカーナから定期便で行く方が早い、とラナが気づいてくれたからです。


 また私では気づかないことを教えてくれます。ラナにはずっと助けられてばかりです。


 神聖な儀式なのだから、なんて理由で列車という近代的な交通手段を考えていなかったのは本当に盲点でした。


 視野の狭い自分が恥ずかしいという思いと、ラナはすごく機転が聞いて先入観を持たない聡明な方だな、と複雑な気持ちでした。ですが、ラナの優しい声で『これで大丈夫そう?』と言われた時、本当に安心しました。


 神殿からの帰り道もラナがずっとそばにいて守ってくれました。途中で魔獣が出た時はどうしようかと思いましたが、やっぱりラナは強いです。魔法も使わずに剣だけで倒してしまうなんて、本当に頼りになります。


 私たちはいつものレストランへと向かいます。


「今日はこの後どうするの、やっぱり勉強と課題かな?」


 歩みを止めずにラナは振り返りました。


 ラナはいつも私よりも少し前を歩いてくれます。それでいて、自然と周りを警戒してくれているのです。やはり想像できませんが、騎士か軍人のように特別なお仕事をしていたのでしょうか。


 ですがラナはいつも私を気遣ってくれます。


 野営のテントで私が課題をこなしている時、本を読んで待ってくれます。私よりもラナの方が体力はあると思いますが、それでも疲れているはずです。それなのに、私が眠くなるのを待って、必ず外の様子を確認してから寝るのです。護衛として当然の振る舞い、と言ってしまえばそれまでですが、私はラナの優しさだと、勘違いしたくなってしまいます。


 字があまり読めないと言ってましたが、私がおすすめした本も読んでくれます。お渡しした時は顔が引き攣っていましたが、恋愛小説だとわかると胸を撫で下ろした様子でした。どうやら、辞書か魔法の専門書を渡されると思っていたらしいのです。まったく、私のことをなんだと思っているのでしょうか。


 もしかして、私のことを勉強以外に興味を持たないつまらない人とでも思っているのでしょうか。心外です。


「うーん。実を言うと少しお買い物をしてみたくてですね。服とか自分で買ったことがありませんので」


 実際に興味があります。服は王宮に届いたものを侍女から渡されるだけですので、一度買い物をしたいと思っていました。それに、レストラン以外のお店にも入ってみたかったです。


 するとラナは赤い顔で自分の頭を撫でながら言いました。


「そっか……。じゃあさ。で、デートしようよ。ほら、あの本みたいに」


 あの本というのは私が貸している恋愛小説のことでしょう。そういえば、主人公の女性がデートに誘われるシーンがありました。


 たしか、一緒にごはんを食べて、買い物をして、街の外に出て丘でピクニックをする。そんなデートコースでした。


 もしかして、ラナは私を楽しませようとしてくれているのでしょうか。ラナの優しさにまた、心があたたかくなり、自然と口角が上がってしまいます。


「いいですよ」


「そっか……え! いいの?」 


「はい。でも、何をするんですか?」


「そりゃ、もちろんさ!」


 ラナは嬉しそうに両手を広げています。無邪気な笑顔が子供みたいで可愛いです。


「二人で一緒にごはん食べて」


「いつも食べてますよ」


「一緒に買い物して」


「いつもしてますよ」


「えーっと……街の外に出かけたり……」


「さっき神殿から戻ってきたばかりですよ?」


「あ、丘でピクニックとか」


「最初にお話した時の丘のことですか?」


「……うーん。ちょっと待って」


 ラナは腕を組んで悩んでいました。


 困らせるつもりはなかったのですが、いつもと同じことをするのにデートという言葉で、特別感を持せてくれる。そんなラナを見ていると、ちょっと意地悪したくなってしまったのです。


 背中を丸めて考えるラナを見ていると、おかしくて吹き出してしまいました。


「うふふ……」


 はしたないのですが、しばらくお腹を抱えて大きく笑ってしまいました。


「すみません。でも、やっぱりラナは優しいですね」


「え?」


「気を使ってくれてるんでしょ。私の好きな本を読んだから」


「あはは……」


 また、ラナは何かを誤魔化そうとしています。


 本当に嘘が下手で、素直な方です。改めてラナと出会えた幸運を女神様に感謝し、


「でも、ラナのそういう優しいところ、私は好きですよ。ありがとうございます」


 ラナにも感謝します。


 するとまた照れた様子で乾いた笑いを浮かべます。


 最近、ラナの様子を見ていると、もしかして私のことを好きなのでは、と思うこともあります。恥ずかしいので、私から口にはしませんが、もしそうだったら少し、いえ。とても嬉しいです。


 だって、私もラナのことを意識していますし、異性として好きなんです。

 でも、ラナは気づいていないでしょう。本当に鈍感な人です。



 いつものレストラン、いつもの店員さん、常連客の方々も顔を覚えてきました。しかし、今日はいつもと違う光景です。


 テーブルを挟んだ向いに、右腕をだらんと降ろして、しかめ面で睨んでくるソフィアさんがいます。綺麗な水色の髪が肩にややかかるくらいで、不揃いに切られています。


 気まずい沈黙が続く中、ラナが私をちらりと見ました。私が緊張していることに気づいてくれたみたいです。


 ラナはずっと庇うように私に体を向けたままソフィアさんに話を切り出しました。


「髪切った?」


「ああ、切って売った。あいにく、君に武器を全部奪われて、売るものも髪か内臓くらいでな。この街には内臓を買う店がないから、端金にしかならなかった。おかげで、裸で街を歩かなくてすんだがな」


 淡々とソフィアさんは恨み節を語ります。


 しかし、ラナに聞いたかぎり、肩を外されるという大怪我を負わされているはずです。そんな状態で霊峰に放置して心配ではありました。ですが、自分で霊峰からアルカーナまできて、髪を売って生き延びるなんて、想像もできない行動力に脱帽です。


「それはそれは……で、何しにきたの、ってか、よくわかったね。ここが」


 アルカーナに滞在してることは流石にラナも話していないはずです。ラナの顔は少し強張っています。


 ソフィアさんは私を狙っていました。もしかしたら、高精度の魔力探知ができるのかもしれません。


 そうなると、この先の旅で逃げ切ることは不可能です。ソフィアさんを殺してはいけないと言ったのは私ですが、考えが甘かったかもしれません。


 ですが、人を殺してまで生き延びたいなんて考えにはなりませんし、ラナがお友達を殺すなんて耐えれません。そう思っていると、ソフィアさんはふっとため息をつきました。


「……これを返しにきた。それと」


 ソフィアは白いジャケットをラナに渡しました。丁寧に洗って綺麗に畳まれています。


 左手で前髪をあげる仕草をして、呆れたように言いました。


「ポケットにこの店の領収書が何枚も入っていたぞ。だから、ここを見張っていた」


「げっ……」


 完全にラナのミスです。一瞬頭を抱えたくなりました。


「安心しろ。こんなところで戦う気はない」


「そっか。じゃあ、どこで戦うの」


「お前と戦う気もない。怪我が治ってないしな」


 ソフィアさんはそう言って目線を右肩におろすと、少し上げる素振りをされます。ぶらぶらとしたままで、まだ治っていないみたいです。


 しかし、その状態を見ると気になることがあります。


「あの、病院はいかれましたか?」


「はぁ?」


 私がおずおずと聞くと、ソフィアさんはあからさまに不機嫌な態度で睨みつけてきます。


 怖いです。さっきまでラナと淡々と話していたのに、態度が違いすぎます。


「服を買ったら、有り金はほとんどなくなった。病院なんて行けるわけないだろ」


「……ラナから聞きました。ラナに負けた時に、肩を外されたと。放置すると後遺症になるかもしれませんし、早く病院に行きましょう」


「余計なお世話だ……。あと、負けたを強調するな。というかラナってなんだ。君は、自分の名前も思い出せないんじゃなかったのか。もしかして、記憶が戻ったのか?」


「あ、これはローラにつけてもらった名前でさ。まあ、思い出すまでの……」


「はぁ!? そんな犬みたいな扱いを受けてるのか。やっぱり貴族はいけすかない。君も金と名前をもらってずいぶん、嬉しそうだな。わたしの幼馴染みというから、期待したのにとんだ見込み違いだ」


「犬って、そんな言い方……」


 どうやらソフィアさんは私のことが嫌いのようです。まあ、そうでしょう。だって殺そうとするなんて普通じゃありません。


「あのー。私のことを嫌いになるのは良いのですが、病院には行きましょう」


 ソフィアさんの態度は頑なで、私に心を開く様子もありません。


 ですが、一応ラナの大切な人です。お二人が戦う原因となった私にはすべきことがあります。


「だから、お前の……なんだ」


 私は立ち上がってソフィアさんの右隣に腰掛けました。


 ラナは止めようとしていましたが、私が小さく頷くと伸ばした手を止めてくれました。


「お願いします。ソフィアさん、あなたはラナにとって大事な人です。この間、ラナはとても辛い思いをしながら戦ってくれました」


「な、なんだよ。大事な人って。それとなんの関係がある」


「だって、ラナはソフィアさんのことだけは覚えていたんですよ。大事な人に決まっています。そして、ラナの大事な人が傷つくのが、私は嫌です。病院に行きましょう。もし嫌であれば、せめて私に治療をさせてください」


 私はなるべく優しくソフィアさんの右手を掴みます。ですがそれだけでソフィアさんは顔をしかめて痛がっています。おそらく、悪化しているのでしょう。早く病院に行った方がよさそうです。


「私はお前を殺そうとしたんだぞ。よくそんなことが言えるな」


「そうですねー。でも、どうして私を狙ったんですか?」


 訝しんだ視線で私を見てくるのですが、そんなことを言うくらいなら理由をはっきり言って欲しいです。もしかして、私に封印された魔王のことを本当に知っているのでしょうか。


「だから、私の勘だ。そして私の勘は正しいんだ」


「ねぇ、それむちゃくちゃだよ」


 一貫して勘であることをソフィアさんは押し通します。ですが、その勘は見事に当たっているので私は誤魔化すしかありません。


 とてもこざかしいのですが、少しでも私に同情してもらうため、弱々しくソフィアさんに話しかけます。


「まだ、私を殺そうとしていますか?」


「……殺すのは前のめり過ぎた。拘束する程度にしておく。もっとも、それも今はする気もない。右腕はこんな状態で、あいにく武器もそいつ……ラナに全部取られてる。なにより、こんな街中ではな。周りに危害が及ぶと困る」


「まあ、優しいんですね」


 ちょっと無理のある言い方でした。ですが、ソフィアさんは無闇に暴力を振るう人でもないということがわかり少し安心しました。


「……おい、こいつ本当に貴族か。というか、変な呪いにでもかかってるのか、言ってる意味がわかんないんだが」


 ソフィアさんは呆れた顔で私を指差して、ラナに向かいました。


 魔王を封印しているので、ある意味呪いのような状態ではあります。とラナは言い出しかねません。口は固いのですが、本当に嘘が苦手なのです。良いところではあるのですが。


 黙って目を逸らして誤魔化すと、すぐに目線で私に助け舟を求めてきます。


「貴族ですよ。プレシス家の長女です。学生証でよければ、お見せしますよ。まぁ、ある意味呪いにはかかっているかもしれませんねー」


「だんだん、バカらしくなってきた。お前と話すと調子が狂う」


 ソフィアさんはそう言うと、頬杖をついてふんと息を吐きます。


 さっきまでの刺々しい雰囲気が少しだけ柔らかくなったのを感じます。こざかしいことをしなくとも、ソフィアさんは元々優しくて頼りになる方だったのかもしれません。


 そう思うと、とたんにソフィアさんに興味が湧いてきました。


「私はソフィアさんとお話するのは楽しいですよ。もっとお話ししたいです」


 私がぐっと顔を近づけると、ソフィアさんは少し身じろぎました。心なしか顔が赤いです。ラナもよく同じような顔をするのですが、お二人は少し似ている気がします。


 ソフィアさんは私の手をさっと振り解きました。


「……とにかくだ。わたしはお前のことをまだ脅威だと思っている」


「そうなんですね。でも、またラナに守ってもらいますよ」


「……勝手にしろ。おい、次は負けないぞ」


「だろうね。困るから、もう会いたくないよ。こっちは」


 ラナは珍しくぶっきらぼうな態度です。こんな表情のラナは初めてみて、少しだけ低くなった声にどきりとしました。


「え、あ、会いたくないって。君は、わたしの幼馴染みだろ。いきなりなんで……」


 すると、ソフィアさんは立ち上がって、前屈みになってラナに詰め寄りました。どことなく顔が焦っています。


 ですが、その発言にはラナは呆れた顔をしています。そして、いつものように背もたれに体を預けて天井を見る態度をとります。ラナは時々、お行儀が悪いです。


「こっちは殺されかけてるんだけど。それに、面と向かって殺すなんて言われてるし、この後どうにかして逃げるよ。ってか、まだ追ってくるなら、左肩も外して駐在している兵士に突き出すよ」


 ラナは脅し文句を言うのですが、ぜんぜん怖くありません。やはり嘘が下手で、本気で言っているようには聞こえませんでした。しかし、ソフィアさんは気づいていないようです。額にずっと汗をかいています。


 ですが怖いというより、不安が勝っているようです。


「いや、君を殺そうとしたわけじゃ……」


「一緒だよ。どのみち、ローラを狙うんでしょ。なら、会いたくないよ」


 ソフィアさんはとても強いとラナが言っていました。ラナは優しいですし穏やかですが、なぜか戦うことに長けています。きっと冷静に分析して、ソフィアさんと正面から戦うことを断固避けるべきだと判断したのでしょう。


 ですが、いくら私の護衛とはいえ看過できない発言でもあります。


「ラナ、それはひどいですよ」


「え?」


「大事な幼馴染みにそんなこと言うのはひどいです。ソフィアさん、傷ついちゃいますよ」


 ソフィアさんは落ち込んではいませんが少し苦しそうな顔をして、胸の下で片腕を組んでいます。ラナは私が指摘してようやく気づいたようです。


 ラナは時々、人を突き放す言い方をするので、私も少し怖くなる時があります。


「いや、別に傷つくとかではない。えっと……」


「……はぁ」


 ラナは少し困った顔をして、仕方ないという表情に変わります。ラナは優しい人なので、もう気づいているはずです。


 ソフィアさんも記憶がないのです。そんな状態で大切なラナに出会えるなんて奇跡で、すがりたくなる気持ちは痛いほど理解できます。


 その上で、大切なソフィアさんではなく、私の護衛という役目を選んでくれたのです。大切な幼馴染みと共に記憶を取り戻すことは諦めてくれたのです。


「でも……」


「わかった。譲歩する……」


 今度はソフィアさんが少し必死な顔でラナに声をかけました。


「ん?」


「君がこの間、言っていた条件だ。一年、自由にしてていいから。その代わり、この女を監視させてもらう。何もなければ、絶対に危害は加えないし、一年経ったら、わたしはどこかへ行くし、二度と現れない。約束する。武器も君が持ってていいから」


「あの……私たちこれから、学術研究のフィールドワークで街の外に行かなければならないのですが」


 ソフィアさんの言っていること自体には納得できます。


 ですが明日にはアルカーナから次の街に出発しなければなりません。四六時中、ついて回る気でしょうか。


「わたしもついていく。あの……邪魔にならないようにする。そうだ。料理くらいならできるぞ。君もわたしの腕前は知っているだろ」


 私ではなく、ラナにばかり声をかけるところは多少、いえ、微かに不愉快です。


 ですが、このままどこから来るかもわからないよりは、近くにいて離れていてください。と言える方がよいかもしれません。


 ソフィアさんはラナのお話であれば聞いてくれそうです。


 頑なについてこようとするソフィアさんに困っているラナがまた助けを求めてきます。思わず笑ってしまいました。


「いいですよ。じゃあ、一緒にフィールドワークで回ってください。ソフィアさん」


「え、本当に? でも……」


「いいじゃないですか。みんなで旅をするなんて楽しそうです。でも、私からも条件をつけてもいいですか?」


 これは嘘です。本当はラナと二人の方がいいです。


「……いいぞ」


 ソフィアさんは険しい顔で口を開くまで身構えています。


「後で一緒に病院に行きましょう。それと、仲良くしてくださいね。私は同い年くらいの女性とお話ししたことがほとんどないので、色々と教えてください」


 これは本当です。ソフィアさんと仲良くなれたら楽しそうです。


「……はぁ。わかった。病院は行く。だが、お前と仲良くはできない」


「えぇー。では、ラナとは仲良くしてくださいね」


 ソフィアさんは再び深いため息をつきました。


 こうして、ソフィアさんも一緒に旅をすることになりますが、目的は私の監視ということでしょうか。


 向いでラナが落胆しています。どういう感情なのか気になりますが、懐かしい幼馴染みと仲直りができること自体は嬉しそうで、私の心は少しだけもやっとします。


 ラナと目を合わせていると、いつもの店員さんがにこやかに現れました。


「ご注文はいかがですかー?」


「あ、では私はいつものをください」


「じゃあ、わたしもこの子と同じものを」


「はーい」


「あ、ちょっと、ソフィア。ローラって意外と食べるから、止めておいた方が……」


「なんだ。わたしだってわりと食べる方だ。余計なことを言うな」


「……俺、水で」


 やはりラナは少食です。ソフィアさんも私と同じ量を食べるというので、同年代の女性であればこれが普通なのだとわかって安心です。


 最近、ラナに大食いだと思われてるのではないかと、少し気にしていました。


 私はソフィアさんに小さく会釈をし、ラナと目線を合わせてから椅子に戻ります。


「ラナ」


 と少しだけ、ソフィアさんに見せつけるように耳打ちをします。


「これってルール的にどうなの?」


 ラナはきょとんとした顔で聞いてきます。


「うーん。守るとは言ってくれていないので、試練のことは秘密です」


「秘密?」


「はい。私とラナだけの秘密です。これからも」


 そう言って、思わず笑ってしまいます。


 ですが、今日はソフィアさんと仲良くなりたいのでソフィアさんお隣に戻り話しかけます。だって仲良くならないと、ソフィアさんの弱点がわからないし、ラナの好きなこともわかりません。


 ラナはまた、ぼーっとしています。今は何を考えているのでしょうか。


 もし、私と同じことを考えていてくれたら嬉しいのですが。


 頭の中で最後の言葉を繰り返します。二人だけの秘密。ラナにとっては、大切な幼馴染みにすら話せない世界で二人だけの秘密です。


 きっとこれからもこざかしい私は、ラナに守ってもらってばかりです。


 でも、嘘をつけないあなたに代わって私が嘘をつきます。そうやって二人で秘密と約束を守ってください。


 だって、この運命の選択は本当なんですから。

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