『第四話-魔法が使えないということ-』-6
□□□ 16日目(夜) エーテル王国 魔法都市アルカーナ
結局、最後の告白者の撮影が終わった頃には日が暮れかけていた。
「すごいね。結局何人いたんだろう?」
「えーっと、ごめんなさい。四百人目あたりから、ちょっと数えてなくてですね。それに、お名前もちょっと全員は覚えられなくて……。失礼なことをしてしまいました」
「……冗談だよね?」
「本当ですよ。一人目のキースさんは、私の顔が好きだと言ってくれました。二人目のダニエルさんは、声が好きだと言ってくれました。三人目のキャサリンさんは……」
次々と告白者の名前と告白してきた理由をすらすらと言っていく。名前だけでなく理由まで覚えようとしていたのかと思うと思わず言葉が出なくなる。ローラは本当に丁寧すぎるくらい誠実だ。
「ローラ」
「三十二番目のリッターさんが……。あ、はい。なんですか」
「楽しかった、学校?」
俺が問いかけると、椅子に座ったまま笑顔で小首を傾げてくれた。
「はい。とても楽しかったです。誰かと一緒に授業を受けることも、同い年の方に話しかけていただけることも、先生とお話しするのも。こんなに素敵なことだったんですね」
ローラは胸に手を当てて、今までの思い出を懐かしんでいる。すごく短い学生生活、これからローラは本格的な王女の試練の旅に出る。
八ヶ月で大陸を巡って、五つの神殿を巡礼する。列車を使っても、道中には魔獣がいる。アルカーナの霊峰に行った時ほど楽な旅にはならないだろう。
だからこそ、ローラがこの二週間、楽しいと思っていたなら心から嬉しい。俺はローラの椅子を片付けようとして持ち上げる。
「じゃあさ……」
旅が終わったら、本当にアルカーナ魔法学園の学生になろう。卒業しよう。ローラを勇気づけようと、そんな絵空事を話そうとした時、後ろから声をかけられた。
「ラナくん」
振り返ると、女子学生が三人いた。名前は覚えていない。最近もよく話しかけてくれる二人と、もう一人の顔はなんとなく覚えている。マナレス結晶を壊した日に、話しかけてくれた女の子だ。
「ちょっと話があるんだけど。ローラさん抜きで。いい?」
「え、それはちょっと困るんだけど……」
「いいですよ。ラナ、私は研究室に行っているので後で来てください」
俺の意思に反して、ローラは俺を残して、歩いていってしまった。すぐに話は終わるだろうと思って、とりあえずローラの言う通りにする。
「えっと。なにかな?」
と言いつつ、少しは予想もしている。
最近も話しかけてくれる黒髪の女の子がまっすぐに俺の顔を見てくる。
「ラナくんのことが好き。女の子みたいな顔なのに、時々キリッとしてるところがかっこいい。手先も器用で、ボタン付け直してくれたこと嬉しかった。付き合ってくれない?」
驚いた。
好きだと言われることは素直に嬉しい。人に好きと言われることがこんなに嬉しい気持ちになるとは思わなかった。
そして、俺にとってはなんでも無いことが、この子にとって大事な思い出になっていることにも驚いた。
心があたたかくなる。けど、俺はこれからひどいことを言わないといけない。
「ごめん。付き合えない」
その言葉を伝えた時、胸にちくりと棘が刺さったみたいになる。
俺は名前も覚えていない女の子に頭を下げる。勇気に応えられないこと、思いに気づかなかったこと、それを俺は受け止めないといけない。
顔を上げた時、その女の子は目に涙を浮かべていた。どうして、会ったばかりの俺のことをそんなに好きになってくれたのか。理由なんてない、人は簡単に人を好きになる。俺が一番よく知ってることだ。
「……ありがとう。ばいばい」
そう言って、黒髪の女の子は去っていった。
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