『第四話-魔法が使えないということ-』-5

□□□ 16日目(昼) エーテル王国 魔法都市アルカーナ



 今日は基礎課程の修了日、ローラが学園で過ごす最後の日だ。


 明日から、ローラのように研究生としてフィールドワークにでたり、研究室で研究したり、そのまま授業を受けたり、みんな色々なコースを選ぶみたいだ。


 正直、俺が魔法を使えないことが知られてから居心地が良いわけではなかった。


 俺を見る目は相変わらずだし、魔法が使えない護衛は侮られるから、ローラに言い寄ってくる男子学生も増えた。


 それでも、ローラは誰にでも優しく、いつもの淑やかな姿で学園生活を乗り切った。


 そして修了式の中、ローラは見事基礎課程の優秀学生というものに選ばれた。全体で五位、全ての科目で十番以内の成績だ。


「ローラ・プレシスさん。おめでとうございます」


 そして教壇に立つ魔女は淡々とローラの名前を読み上げた。


 あの日、俺たちを見て似合わないなんて言ってきた魔女は、理事長だった。


 詳しくは知らないけど、今の大陸の魔法の発展に貢献したすごい魔法使いらしい。噂によると世界を救った伝説の魔法使いらしいけど、流石に言い過ぎだと思う。


 修了式が終わると、ローラはすました顔でいつもの人だかりを相手にしている。


 けど、今日だけは俺のわがままを貫きたかった。


 俺は人だかりをかき分けて、ローラの元に駆けつけて、腰を持って抱き上げる。


「すごい、ローラすごいよ! おめでとう!」


 護衛が貴族の令嬢を呼び捨てにして抱き上げる、異様な光景に周りの学生は訝しんで見ていた。けど、それでもローラの頑張りが報われたことがとにかく嬉しかった。


 ローラは学校が終わったら図書館で課題を終わらせて、ホテルに戻ってもいつも遅くまで勉強して、本を読んでた。わからないことがあれば、担当科目の先生の研究室にも通って、ノートを作る。本当にずっと頑張っている姿を一番近くで見ていたから、自分のことのように嬉しかった。


 ローラは少し惚けた顔をして、いつもみたいに小さくありがとうと言ってくれる。


「では、修了式も終わりましたし、そろそろ」


 他の優秀学生との記念写真を撮り終わり、マリーン先生への挨拶も終わった。


 ついでに、俺とローラとマリーン先生は三人で記念写真を撮った。もちろんマナレス結晶を囲んで。


 そして、俺たちがホテルに戻ろうとした時、予想していたことではあるけど、事件が起きた。


「ローラさん、恋人になってください!」

「ごめんなさい」

「ローラさん、彼女になってください!」

「ごめんなさい」

「ローラさん、付き合ってください!」

「ごめんなさい」


 ローラは大講堂の壇上に置かれた椅子に座りながら笑顔で、告白してくる男子学生(時々、女子学生)を次々と断っていく。


 まるで女神への謁見だ。誰が決めたわけでもないのに、気づけばローラに告白して、断られて、写真を一緒に撮る。そんな流れができている。


 まだ行列の終わりは見えない。夕方までには終わるだろうか。


 ここの学生たちが、フィールドワークに向かうローラと会えるのは今日が最後だ。並んでいる人たちの気持ちはなんとなく理解できる。


 そして、羨ましいとすら思った。

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