『第二話-完璧な旅行計画-』−3
階段教室の教壇にローラはすっと立っている。心なしか、教師もローラの纏う雰囲気に萎縮している気がする。
「皆様、初めまして。ローラ・プレシスと申します」
ローラは青いワンピースの裾をちょこんと持ち上げ小さくお辞儀をし、丁寧に挨拶をする。どうやら、研究生は制服を着ないらしい。ちょっと期待していたから残念だ。
教室の中に鳥のさえずりのように澄んだ音が響く。誰一人騒ぐことなく、力の抜けた拍手をするだけだ。
プレシスというのは、エーテルの貴族の名前らしい。わざわざ王女を平民の身分にするわけもないかと、少し安心した。
よく考えたら当たり前だ。貴族であれば護衛がいても不思議ではない。実際、この教室の学生にも貴族がいるんだろう。俺と同じように教室の後ろに、執事服を着た男が三人立っている。全員、腰に短剣を持っている。魔法使いもいるかもしれない。
最初は俺が一緒にいたら変じゃないかと思ったけど、教室にいること事態には違和感はないらしい。
ただ、服装はどうしようもない。身なりのいい執事服に対して、俺は白いジャケットと黒いズボンとブーツ。学生からは少し訝しむような視線を浴びている。
「ローラさんは二週間、基礎課程を過ごした後は研究のフィールドワークです。みなさんと卒業の時期はずれますが、仲良くしてくださいね」
「慣れないことばかりでご迷惑をおかけいたしますが、何卒よろしくお願い申し上げます」
そして、挨拶と最初の授業が終わった昼休み。案の定予想していた事態が発生した。
「ローラさんは、魔法もう使えますか?」
「はい。非精霊魔法が少々使えます」
「趣味は?」
「食べることと読書です」
「こ、恋人はいますか?」
「いません」
「編入って、前の学校は? もしかして、シュトレーゼ? 俺、ジェリ出身だけど」
「いいえ。今までお勉強はずっと家庭教師で、学校に通うのは初めてです。生まれてからずっとエーテルに住んでおります」
ローラは戸惑うこともなく、丁寧に一つ一つの質問に答えていく。
さっきまで萎縮していた男子学生たちであるが、大した度胸だ。
「…………」
いや、いきなり一目惚れしている俺が言えることではなかった。
「すぐにフィールドワークってことは、今学生寮? 授業終わったらお茶にいかない?」
「いいえ。ホテルに泊まっています。すみません、授業が終わったら、課題と予習をしなければいけなくて。ぜひ今度ご一緒させてください」
「もう研究室決まってるの? どこどこ?」
「マリーン先生の研究室です」
「髪綺麗すぎない? どうやってお手入れしているの?」
「うーんと。石鹸? で洗います」
「あの男の子って執事?」
「護衛のラナです」
女子学生の質問にも丁寧に答えている。こんなに次々と質問されたら、少しぐらい物怖じしそうなものなのにとついつい感心してしまう。
そして、あまりに予想外の問題が起きた。
「ねぇ、ローラさんの護衛なんでしょ。変わった服装だけど貴族じゃないの、すっごい若いけど武官候補?」
「え? いやー違うと思うけど」
「ねぇ、彼女いる? 髪の長いのと短いのどっちが好き?」
「えーと、特に好みとかないかな。けど、今は長い子が好きかも……」
「女の子みたいな顔だけど、護衛ってことは強いんでしょ、もしかして魔法使い? 加護受けてる?」
「一応、水と風は受けてるはずだけど……」
「ねぇ、休日は何しているの。護衛って言っても、お休みくらいあるでしょ。みんなで遊びにいかない?」
と言った調子でなぜか俺も質問攻めにあっている。それも女子生徒だけだ。
考えていなかったけど、俺の容姿もそれなりに目立つ気がする。銀髪もオッドアイも大陸では珍しい。まさか、珍獣扱いされるとは思わなかった。
俺が戸惑っていると、人混みをかき分けて、ローラが近づいてきた。
「ラナ」
他の女子生徒と比べると背が低いのが目立つ。それでも、急に近づいてきたローラに思わずたじろいで、女子学生たちが二手に分かれている。
「あ、なに?」
ローラはいつものようににこりと笑う。
「お昼ごはんに行きましょう。皆様、ごきげんよう」
丁寧に頭を下げる。俺もならってとりあえずぺこぺこ頭を下げて、二人で食堂に向かった。
ローラは食堂のメニュー五種類をもちろん完食した。
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