それから程なくして、私とジジはNPO主催の保護猫譲渡会にボランティアとして参加した。


 会場で愛想を振りまいていたジジが突然、黒い影となって走り出し、向うに見えるベージュのカシミアらしきコートの背中をバリバリバリと駆け上がった。


 慌てて飛んで行くと

 あの、懐かしい声が聞こえた。


「ジジ!久しぶり!!」


 追って来た私と目が合うと、“カレ”は深く頭を下げた。


「あなたには長い間、本当にご迷惑をお掛けしました」


 優しいカレの目を見てしまうと私は聞かずにはいられなかった。


「あの土地の事、知っていたのですね?」


 もう一度深く頭を下げたカレは話し始めた。


「すべては私の父と当時の役人が暗躍した事が発端でした。あの土地は人が住んではいけない場所だから、区画の全てを僕は買い戻したのです」


 だとしたら……


“新聞記事”を見て以来、私が心の中で幾度となく繰り返して来た問い掛け……


『あの土地が汚染土壌と知りつつもカレは足繫く通い、そこでできた野菜料理を余すことなく平らげた……いったいなぜ?』


 私はカレの目を見つめた。

 ……色んな思いが私の目尻に涙を溜めさせた。


「ようやく肩の荷を下ろせた僕は……せめてジジをお嫁に迎える事ができればと思い、来てしまいました」


 私の心の中の問い掛けの答え……聞かなくても分かった。


「ジジだけお嫁に出す訳にはいきません」


 そう言って彼の胸に飛び込むと、ジジは抱きしめ合った私達をキャットタワーにして……ふたりのとなった。




                 

                         おしまい




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独り暮らしの萌香さんと屋根裏好きの子猫 縞間かおる @kurosirokaede

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