最後になに食べたい?(3) ~ドンコの肝~

さて、季節は変わって「冬」です。


冬に....ですか


冬に「最後に食べたいもの」ですか?



あ り す ぎ て こ ま り ま す



大粒のイクラ、茹でたての毛蟹、タラの白子の鍋、平目のエンガワ、ホタテバター焼き


え?

私の家は裕福だっただろうって?


違いますよ。

けっこー貧乏でした。

というか、食以外はホント貧しかったです。

服はお下がりだし、学習机なんて無い。明治から使っていたボロの木製机でした。

塾なんて無いですよ、他所の家にはあったTVゲームも無い。

上に上げた高級食材は「たまに」しか出ません、だから記憶に染みついているわけで。

普段の食事は、納豆とか干物とか、小麦粉を練って作った「はっと」とかね。

高校に入ったらバイトしろが家訓でした。


でも何でか、食い物だけはたまーに良かったの、うち。


大人になって理由は分かりました。

親父は「付き合いに金を使う人」で、身内にはあんまり投資しなかった。

で人と付き合う為に、通いの料亭とか寿司屋には良く金を払っていた。

なもんで父は「お得意さん」なので、季節になると寿司屋から「表向きタダ」で色々と食材は貰っていた。

子供の時はそんなことよく分からずに、毛蟹とか貪っていた訳です。


まあ家庭の事情はここまでにしまして、タイトルの本題に行きます。


東北には「ドンコ」と呼ばれる魚がおります。

正式名称は「エゾイソアイナメ」と呼ばれるそうです。


冬になるとこの「ドンコ」が食卓に上ります。

食べ方は当時、味噌煮一択でした。


見た目はそれほど綺麗な魚ではありません。

値段も比較的安いです。

ただ、身が柔らかく鮮度が落ちるのが早いので、それほど市場にも出回りません。


味噌煮にされた身は、ホロホロと崩れるように口に入って行き、味噌と溶け合って旨味と共に喉に流れていく。

強いて言うなら「優しい味」の魚です。


そして「肝」ね「肝」


母がドンコの肝を箸で摘まんで、幼子の私の口によく運んでくれました。

トロトロして、生臭くなく、濃い磯の旨味が舌に広がっていきます。


それから時は経て、あるコミックが日本を席巻しました。


「美味しんぼ」


この作品は主張が強いこともあって、賛否両論巻き起こす事もありますが

私は、稀代の名著であると思います。50巻辺りまでは。


まあ美味しんぼの始めの方で作者が主張したのが

「フォアグラよりアンキモの方が美味い」

これですね、これに日本人は痺れたわけですよ。


美味しんぼが発刊されたのは1983年。当時の為替市場は1米ドル=230-240円でした。

つまりまだまだ、海外からは安くみられていた訳ですね。


当時の日本人の多くも、日本のモノより海外のほうが優秀なんだろうなという意識はありました。


そこに良い意味で鉄槌を下したのが「美味しんぼ」ですね。


フォアグラとアンキモを対決させたという、前例のない食の比較でした。


結果、天然のアンキモはフォアグラを凌駕するという話だったんです。

つまり私たち日本人は、もっと海外に胸を張っていいという意気込みの表れだったんじゃないでしょうか。


で私は、アンキモを買って酒で洗って調理して食べて見ました。

はい、美味しかったです。

フォアグラも食べました。はい、美味しかったです。


でも、そんなものよりね


ドンコの肝ですよ、ドンコの肝


味噌の香りに包まれたドンコの肝は、とても柔らかくてなめらかで

舌の上に磯の豊かな香りと旨味を広げながら、やんわりと喉に落ちていく....


これに勝る魚の肝は無いと、豪語してもいい。


ドンコの調理法がもっと広がらないかと考えます。

確かに味噌煮がベストなんでしょうが、ブイヤベースとかトマトベースで煮たら、また新たな世界が広がるんじゃないかなドンコ。


三陸に旅をすることがありましたら、どうか味わってみてください。ドンコ、そして肝


まるがに、肝いりのお薦めです。



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