最後になに食べたい?(2) ~香茸~

舞茸の話が思ったより長くなったので、分割します。


さて秋の「最後に食べたいもの」その2ですが。


香茸コウタケ


このキノコの名前を知る人は、そんなに多くないのではと思います。

スーパーでは、そうそう売っているものでは無いはずなので。


私がこれを見たのは昭和の50年代あたりだったかなあ。

親が山から帰ってきて、そのキノコを喜々として見せてくれました。


それは直径20センチ弱くらいあったかな。

正直なところ、見た目美味しそうではありません。


形も、不格好です。

なんか表面がカサカサしていて、触れると痛そうな感じ。


魚のウロコを中途半端に剝いで無造作に焼いた表面のような外見。

それが『香茸コウタケ』との出会いでした。


翌日「香茸の炊き込みご飯」が、食卓にのぼりました。


具材は、香茸・油揚げ・鶏肉・人参だったかなあ。

味付けは出汁と醤油と酒、シンプルイズベスト。


うちはよく、炊き込みご飯をやります。好物でした。


しかし違う。

今日の、炊き込みご飯は違うぞ。


な ん だ こ の 香 り は


それは「山野が生み出した芳香」か?

いや山野から生まれて、その上空を飛ぶ仙界の香りか?

大地が生み出す野生の頂点に立つ香りか???


ええもう、安っぽい誉め言葉なんかどうでもいい


すっごいい香りのキノコご飯だぁ!!


香りの正体の香茸は、結構こまかく刻まれてご飯に炊きこまれていました。


一杯目は夢中にかき込みましたが、二杯目で冷静になって茶碗の中身を見ました。


この、細切りの茶色い物が「香り」の正体か。

あのガサガサした不細工なキノコが、こんな芳香を放つのかと


そりゃうちの両親も上機嫌になるわけだわと、納得させられた一品です。


香茸の料理を食べたのは、現時点であの一度きりです。

山野を歩き慣れている両親でも、そこそこ手に入らない品だったんだなぁ。



時は過ぎて平成。

私も大人になり、伴侶を持つくらいには成長した。


そんなある秋の日、テレビを観ていると「香茸」が映った。

秋の幸を伝える報道番組で、ああ私の親もあの位の大きさの「香茸」を採ってきたなぁ

と、昔の思い出に浸りかけた時、レポーターが発した言葉。


「この香茸、なんと一本4万円だそうです!!」



ブッ!!


吹いた、マジで吹き出した。


まあネットで調べると、通販でも可能らしいです。

値段も、1万円弱いでも、手に入るらしいです。小ぶりですが。


でも、直径20cmの舞茸って、そんなお値段なのね、買うと。


あの時の味を、もう一度味わいたいのは、事実です。


でも4万円出せるかと言ったら無理、1万円でもやっぱり無理。


自力で山に行って探し出せるかと言われたら、それも無理です。


長年の経験と知識と執念と勘と長い時間を経て


それはようやく辿り着く、天然のSSRアイテム。


戦前戦中を生きて来た世代の偉大さを、ただ思い知る。

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