第12話 飼い犬じゃねーぞ
手早くシャワーを浴び外出用の服装に着替えて部屋を出ると外の方が涼しく感じた。気温はあまり変わらないのに蒸し暑いのがないだけでこうも体感が違うのか、この調子なら夏のピークが過ぎても熱中症で倒れるやつが減らないだろう。だけど今こうして額をさすって目の前がくらんでいるのは気温のせいとかじゃない。
額にクリーンヒットだもんな。
「兄貴歩くの遅ーい、スタコラ歩く!」
美郷は悪戯されたことを根に持っているようで俺の背中を結構な力で叩いてきた。その力が思いのほか強く俺の身体は強制的に二、三歩前に進む。地面を映す瞳をそのままに学祭の楽し気な雰囲気が耳に届いてきた。アーケードに向かって学生や地域の人がごった返し、中にはオープンキャンパスに来ている女子高校生の姿もある。俺はさっと目を背けるも、それ以上に多種多様な祭りの屋台が連なって、俺はそれを少し億劫になりながら眺めていた。いつの間にか俯いた俺の視界は足元ばかりを映し自然界にはない機械の冷風が、やきそばの香ばしい香りを運んでくる。その匂いにつられてもう一度顔を上げる。
「都ちゃーん」
「美郷さーん」
視界の先には高槻都が立っていた。
「一緒に回りましょう」
「ほんまにぃ仲良し兄妹の邪魔しちゃ悪いわぁ」
「いいの、いいの兄貴は荷物もちだから」
その間わずかに二秒。俺が付け入るすきもなく決まっていく予定にたじたじになっていると二人は息ぴったりに歩き出す。
「ちょっとなにぼさっとしてんの、早く早く」
振り向いた美郷が手招きする。俺は飼い犬か! そうツッコミを入れて大股で二人に近づくと高槻都と目が合った。彼女は控えめに笑い気恥ずかしさから目をそらす。それをにやにや眺める美郷に少しむかつきながらようやく祭りの入り口に立った。
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