街道に歴史あり

 出石からの帰りはピストンだったのだけど、出石から福知山に向かう国道四二六号も歴史街道だったんだって。出石の殿様も参勤交代やってたのだけど、その時に通っていたのか。


「もう少し正確には出石城からまず東に向かい鯵山峠をまず越えたそうです」


 その鯵山峠でお城から見送りに来た人を帰したとか。国道四二六号から国道九号、江戸時代なら山陰街道に出るのはわかるけど、次にどこに泊ったの?


「それがわかりません。距離とルートを考えると一日で福知山に行くには少し無理がありそうな気はします」


 ナビで四十キロぐらいらしいけど、江戸時代で言えば十里になるらしい。十里は江戸時代の人なら一日に歩く距離の目安らしいけど・・・ひょぇぇ、そんなに歩いてたのか。だけど哲也に言わせると、


「鯵山峠はまだしも登尾峠は険しかったはずです」


 トンネルで走ったとこだよね。それと参勤交代の一日目なのも絡んでくるのか。大名行列って隊列を組んでしずしずと歩くイメージがあるけど、実際はかなりせかせか歩いていたそうなんだ。それこそ普通の旅人と変わらないぐらいのペースだったらしい。


 だけど国元からの出発の時はそうじゃなくて。なんて言うかな、領民に威儀と言うか、威風を示すためのしずしずと行列を組み、さらに見送りの人数も加えた大行列にしてたそうなんだ。


「それと多分と言うか、おそらくですが・・・」


 出発初日はあれこれ行事もあったはずだって。それはいかにもありそうだ。学校なら校長先生の長い話とか、学年主任のクドすぎる注意とか、生活指導の先生の脅しみたいな説教とかみたいなもんだろ。持ち物チェックとかもあるかな。


 要するに参勤交代の初日はペースが上がりにくい要因があるはずだってことだ。そういうものは今も昔も変わらないことが多いし、行事の時間だって昔の方が長いはずよね。その上に登尾峠の険しい道があると言う事か。


 そうなると福知山より手前、もっと言うと登尾峠の手前ぐらいのどこかで泊まったはず。大名行列が泊るとなると本陣になるはずだけど、


「調べてもわかりませんでした」


 本陣となると宿場町がセットになるはずだけど、調べてもネット情報ぐらいじゃ出てこないみたい。でもさぁ、大名行列が通った街道と言っても、一つしか通らないから、そもそもなかったのじゃないかな。


「そんな気がしています。さすがに野宿はしないでしょうから、あるとすれば寺院に泊ったと考えています」


 それありそう。お寺なら建物も立派だし、頼んでおけばご飯だって出たはず。お寺と言えばインスタ映えで有名なお寺がこの辺だったはずじゃない。なんて寺だったっけ、部屋から見える紅葉が綺麗な、


「安国寺ですね。あそこはこの道沿いにあります」


 そこそこ、道沿いだったら寄ってみようよ。まだ紅葉の季節には早いかもしれないけど、部屋から見る庭の景色を見るだけでも良さそうじゃない。


「無理です」


 それって国道からかなり離れていて寄り道するには遠すぎるとか、


「少し入りますが、そこまで遠くないはずです」


 わかった。観光客が押し寄せて、近づくのも大変でバイクを停めるところがないとか、


「その辺はバイクですから行けばなんとかなると思います」


 じゃあ、どうしてよ。


「安国寺の一般公開はドウダンツツジの紅葉の季節のみで、なおかつ土日休日は公開していません」


 な、なんだって。公開時期はまだわかるけど、土日休日は公開していないってウソでしょ。お寺だって書き入れ時のはずだよ。それこそ紅葉祭りぐらいやっていてもおかしくなないはず。


「観光寺院じゃなくて、普通のお寺だからで良さそうです」


 そっちか。妙に有名になってしまったから公開対応こそしてるけど、普段は近くに住む人の檀家寺みたいな感じなのかも。そういう寺は観光収入じゃなく、檀家の法事とかがメインの収入のはずだし、法事となれば土日とか、休日が多いはず。


「言ったら悪いですが紅葉以外に見どころがないはずです」


 そうかもね。紅葉で有名な観光寺院は京都ぐらいに行けばいくらでもあるけど、そういう観光寺院は紅葉だけで食べてる訳じゃない。他に有名なお堂とか、仏像とかがあって、紅葉はあくまでもプラスアルファのはずだよ。


「安国寺なりに価値あるものはあるとは思いますが、関西人の基準は京都や奈良ですからね」


 そ、そうなる。関西人にとって京都や奈良の神社仏閣は、それこそ小学生の遠足で行くレベルなんだ。それぐらい身近にあるけど、関西人にとって観光に出かけるお寺ってあれぐらいは普通にあると思い込んでるのは認めざるを得ない。


 だってさ、他のところの観光名所的な神社仏閣に行っても、こんなものなんだの感想がすぐに頭に思い浮かんでしまうじゃないの。


「他の地域の人が京都とか奈良にあれだけ憧れるのがもう一つ理解できないところもあります」


 わかる。あんなとこ、行っても混んでるだけだって思っちゃうもの。それが良い事だか、悪い事かはわかんないけど、関西人にとって京都や奈良ってそんなところだよ。そんな事を話してるうちに国道九号に戻って来たぞ。こっちは江戸時代の山陰街道だから宿場町も本陣もあったはず。福知山にはありそうだけど、福知山の次は、


「東が莵原宿と言って現在の三和のあたりで、西が和田山です」


 福地山の次は和田山だったのか。そっちは出石の殿様は通ってないんだよね。


「いやお国入りの時は通っていたようです」


 はぁ、行きと帰りでルートが違うってどういうことよ。


「帰国の時は養父にあった本陣に泊まっていたそうです。ですから国道四二六号には本陣はなかったと考えています」


 養父の本陣にお国入りのために泊まる理由は、出発の時と逆で、そこでお国入り用の威風堂々の大名行列にするためだって。見栄を張るのも大変だな。今の庶民の娘で良かったよ。


「それは言えますね」

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