第30話 女子校らしさの検証と戦略的選択
いよいよ、ブレインストーミングででた大量のアイデアを整理する段階となった。
「素晴らしいアイデアが出ました。そのうえでこの方向で大丈夫なのか、を確認する必要があります」
「確認……」
「これらのアイデアで、本当に『女子校』の要素を網羅できているでしょうか?」
「網羅……」
委員長はホワイトボードに書き始めた。
「まず文化祭の基本構造を確認しましょう」
【教室展示】【飲食・物販】【演劇・発表】
「この3つの分野それぞれに女子校らしい目玉が必要です」
アイデアを3つのカテゴリーに分類していく。
田島が疑問を口にした。
「メイド喫茶って女子校らしいか?」
月美も頷く。
「言われてみれば……なくはないかもしれないけどちょっと違和感があるな」
野崎がハッとした表情で言った。
「女子校生がメイドになるって、よく考えたら誰のための設定なんでしょう」
「あ……」
田島が気づいた表情を見せる。
「俺たち、『男が喜ぶ女子校』を考えてたかも……」
委員長が力強く頷いた。
「そうです。我々は『男子高生の思う理想』と『女子校の現実』を混同している部分があると思います。それを踏まえてこれまで出てきたアイディアを種別わけ、整理していきましょう」
分野別に整理し始める。
【教室展示】の女子校らしさ
◎理想的:華道・書道展示、手芸・刺繍作品、文芸部作品展
△微妙:アクセサリー作り体験、お嬢様レッスン
×合わない:ゲーム系、技術系展示
【飲食・物販】の女子校らしさ
◎理想的:上品なカフェ、手作りスイーツ販売、ハーブティー
△微妙だが人気:メイド喫茶、普通の軽食
×合わない:がっつり系料理、男性向けメニュー
【演劇・発表】の女子校らしさ
◎理想的:合唱発表、朗読劇、ピアノ演奏
△微妙:ダンス、バラエティ系
×合わない:お笑い系、体育会系パフォーマンス
「こうやって整理してみると、雑然としてた情報がわかりやすくなるな」
と田島が感嘆する。
「でも──」
田島の言葉にクラスメイトたちが振り向く。
「正直、メイド喫茶やりたいよな」
田島の本音に、クラスメートたちが反応した。
「可愛い衣装着てみたい」
「お客さんも喜びそうだし」
月美も頷く。
「確かに人気は出るかもですね……」
「ネガティブなアイディアも改善すれば芽があると思います。人気と女子校らしさ、両方重要ですね。メイド喫茶の『女子校版』を考えてみましょう」
委員長が戦略的に分析する。
野崎が提案した。
「お嬢様カフェとか?」
「いいかもな!メイドではなく『お嬢様とお世話係』の設定とか」
田島も頷く。
改良版企画をいくつか検討する。
・お嬢様カフェ:制服ではなく上品なワンピース
・文学サロン:朗読を聞きながらお茶を楽しむ
・音楽カフェ:ピアノ演奏付きの上品なティータイム
月美が安堵の表情を見せた。
「これなら女子校らしさも保てるし、可愛い衣装も着られるな」
「改良版企画も含めて実現可能性を数値化しましょう」
委員長が4軸評価システムを導入した。
技術難易度、予算コスト、準備期間、人員必要数の4項目で評価。合計20点満点、低いほど実現しやすい。
「クラス全員で分担して評価作業を始めます。美原君は技術面、護堂君は予算面、網野君は人員配置を担当してください」
指示に従い、評価作業が始まった。
「それでは3つの分野に分けたアイデアをそれぞれ評価しましょう。まずは【教室展示】分野から」
ホワイトボードに「華道展示」と書く。
「華道展示は……技術難易度どうかな?」
美原が首をかしげる。
「正直、俺たち誰も華道やったことないから、3くらいじゃない?」
護堂が予算面を検討する。
「花材の費用考えると……予算は2かな。生花は意外と高いし」
「準備期間は……当日朝に活ければいいから2で」
網野が人員を考える。
「人員も2人いれば足りるかな」
ホワイトボードに記入する。
「華道展示:技術3、予算2、期間2、人員2 = 9点(現実的)」
次々と評価を進めていく。
田島が続ける。
「書道展示は技術2くらいかな。習字の授業でやったことあるし」
護堂が頷く。
「予算は墨と紙だけだから1で」
「書道展示:技術2、予算1、期間2、人員2 = 7点(現実的)」
網野が次の項目を検討する。
「手芸作品展は……作品作るのに時間かかるから期間3だな」
「手芸作品展:技術2、予算2、期間3、人員2 = 9点(現実的)」
月美が指摘する。
「文芸作品展は一番簡単そうだ。既存の作品使えるし」
「文芸作品展:技術1、予算1、期間2、人員1 = 5点(最も実現しやすい)」
「では【飲食・物販】分野も同様に評価しましょう」
美原が分析する。
「お嬢様カフェは人員が3人くらい必要だな。接客、調理、会計で」
護堂が予算を計算する。
「予算も食材費と衣装代で3か」
「お嬢様カフェ:技術2、予算3、期間2、人員3 = 10点(実現可能)」
田島が続ける。
「文学サロン:技術2、予算2、期間2、人員2 = 8点(現実的)」
「手作り雑貨販売:技術2、予算2、期間3、人員2 = 9点(現実的)」
「最後に【演劇・発表】分野も評価しましょう」
野崎が検討する。
「合唱発表は練習期間が必要だから期間3だな」
「合唱発表:技術2、予算1、期間3、人員2 = 8点(現実的)」
佐藤が続ける。
「朗読劇:技術2、予算1、期間2、人員2 = 7点(現実的)」
網野が提案する。
「撮影スタジオは技術1でいけるんじゃない?スマホで撮るだけだし」
「撮影スタジオ:技術1、予算2、期間2、人員2 = 7点(現実的)」
ホワイトボードに整理された評価表を眺める。
しかし、実際にアイデアを検討してみると予想外の課題が見えてきた。
美原が困った表情を見せる。
「華道って、どのくらい難しいんでしょうか……」
「俺も分からないな」
田島も首をかしげる。
「生け花とか、やったことないし」
護堂も同感だった。
「書道も習字の授業くらいしか……」
月美がツッコミを入れる。
「結局みんな、何も知らないじゃん」
「思うんだが、手芸とか茶道は一応うちにも部活あるじゃん。だから、そういった企画は彼らに任せればいいと思うんだ」
網野が提案。
「合唱とか演劇も、部活でやってもらえばいいんじゃない?」
月美も同感だった。
「そうなると部活ではできない企画が、クラス企画、ってことになるな」
佐藤がそれに続く。
「整理しましょう。部活展示とクラス展示を分けて考えます」
「部活に任せるもの:合唱、演劇、茶道、華道、手芸作品展示」
「クラス独自でやるもの:?」
委員長が整理する。
田島が疑問を口にする。
「何が残るんだ?」
野崎が答える。
「部活がない分野です。例えば……メイド系、体験系、オリジナル企画」
月美が理解した。
「つまり……部活レベルを目指さなくてもいいってことか?」
「そうです!『体験』や『交流』中心の企画にすれば」
委員長が頷く。
美原も同感だった。
「確かに、お客さんと一緒に楽しむ形なら」
護堂も理解を示す。
「技術力より、おもてなしの心が大事ですね」
【部活展示に任せるもの】
・華道部:本格的な生け花展示
・茶道部:正式なお茶会
・合唱部・演劇部:舞台発表
・手芸部:作品展示
・文芸部:作品発表
【クラス独自でやるもの】
・お嬢様カフェ:部活にはない接客体験
・美容体験コーナー:簡単なメイク・ネイル
・お嬢様レッスン:マナー教室ごっこ
・撮影スタジオ:女子校生風写真撮影
クラスメートたちが前向きな反応を見せた。
「お嬢様カフェなら、俺たちでもできそう」
「撮影スタジオって面白そうだな」
「美容体験も、基本的なことなら教えられる」
月美も期待を示した。
「部活と被らないから、オリジナリティもあるし」
「お客様に『頑張ってる』って思ってもらえれば成功です」
野崎が戦略を説明する。
「完璧を目指さず、心を込めた『らしさ』を目指しましょう」
委員長が方針を明確化した。
美原も技術指導の方針を変える。
「技術指導も『上手にできるコツ』じゃなく『失敗しないコツ』で」
護堂も予算面で現実的に考える。
「予算も『最低限だけど心のこもった』範囲で」
月美がふと呟いた。
「でも、本物の女子校の文化祭だって、みんなそんなにプロ級じゃないよな……」
その言葉に、クラス全体がハッとした。
「そうか……完璧じゃなくても、頑張ってる姿が魅力なのかも」
田島が気づきを口にする。
「むしろ、一生懸命やってる女子校生を『応援したい』って思ってもらえれば……」
佐藤が続ける。
「お客さんが温かい目で見守ってくれるような雰囲気……」
野崎が目を輝かせた。
「それです!『頑張る女子校生』というコンセプトで統一すれば」
委員長が頷いて整理し始める。
「展示では手作りの温かさを見せて……」
美原が続ける。
「カフェでは一生懸命な接客でおもてなし……」
護堂も加わる。
「発表では心のこもった歌声や演技……」
野崎が全体像を描く。
「来場者が『応援したい』気持ちになる動線ですね」
月美が納得する。
「これなら俺たちらしいし、女子校らしくもある」
全員が新たな決意を固めた。
「完璧じゃなくていいなら、やれる気がしてきた」
「むしろ、その方が俺たちらしい」
委員長が戦略を確認する。
「『頑張る女子校生』これが我々の新戦略です」
月美が立ち上がる。
「よし、これで行こう!」
委員長が決定事項を確認した。
【教室展示】:美容体験・お嬢様レッスン(クラス独自企画)
【飲食・物販】:お嬢様カフェ(クラス独自企画)
【演劇・発表】:撮影スタジオ(クラス独自企画)
【部活展示】:華道・茶道・合唱・演劇等は各部活が担当
統一コンセプト:「部活にはできないクラス独自のおもてなし」
「明日からは『失敗しないコツ』の習得に入ります」
「完璧な技術ではなく、心を込めた『らしさ』の練習です」
美原が全校展開を提案する。
「全校説明会でも、この『頑張る女子校生』戦略を提案しましょう」
田島が笑った。
「なんか『下手可愛い』って感じだな」
月美が頷く。
「それ、わかりやすい!下手だけど可愛いから応援したくなる、みたいな」
委員長も納得した表情で頷く。
「『下手可愛い』……いい表現ですね。まさにそれが我々の戦略です」
「これなら俺たちにもできそうだ」
田島も前向きになっている。
「完璧じゃなくていいって分かって、逆にやる気出てきた」
「『がんばる女子校生』戦略により、成功確率は大幅に向上しました」
委員長が成功への道筋を示す。
「社会現象化への新たな道筋が見えてきました」
月美がクラス全員を見回した。
「みなさん!がんばりましょう!」
新たな戦略への扉が、今まさに開かれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます