第2話 エミールとお茶

「最初は、普通に人形フィギュアを買いに来たお客さんだと思ったんだよね。でも、フロマス勇士団ブレイブスのファンなのかって聞いたところから様子がおかしくなって」


「まあ、あまりよく思ってない奴もいるのは知ってるさ」


 肩をすくめるエミールに、クロエはカウンターの側の椅子をすすめる。


「コ……、黒茶カルディでも飲む?」


「ミルクたっぷりで頼む」


 言われる前から、手はミルクの瓶に伸びていた。

 ほとんど乳白色の液体が入ったマグを渡して、クロエは自分の椅子に座り直す。


「最初の依頼、大変だったみたいだね」


 モルクから一通りの流れは教えてもらっていたが、あえてその話題を振ってみる。エミールの眼から見てどうだったのか、を知っておきたいからだ。


「僕とナプラは逃げてきた人たちの護衛してたから、それほどでもないな。レクシア達はかなり大変だったみたいだが……むしろ喜んでたなぁ、レクシア。3人だけとはいえ、ガキどもを助けられたんだし」


 他人事のように言っているが、エミールの顔もまんざらではない。

 レクシアもエミールも、そしてクロエも、かつてモンスターに襲われて滅びる村から冒険者に助けられた経験がある。

 あの日の無力な自分たちを、今の強くなった自分たちが助けた。そんな気分に違いない。


「モルクさんは、どう?」


 すこし、攻めてみる。

 だが、エミールは軽く肩をすくめてかわした。


「レクシアはすっかりなついたな。ナプラはまあ、例によってあんまり関心が無い」


「レクシアが、そんなに?」


「ああ。今はまだ『モルクさん』呼びだけど、そのうち『師匠』になりそうだ」


「最初は一番反発してたのにね」


 二人して笑ってから、今度はもう一段強めに踏み込む。


「エミールは、どう思うの?」


 エミールはほぼミルクの黒茶カルディに口をつけ、ゆっくり飲み込む。

 その時間で、考えをまとめたらしい。


「……思ってたより役に立つな。レクシアのアホがシルバー落ちでいいって言っちゃったのに、ゴールドのままにしてくれたし」


「報酬ももらえたんでしょ。領主様にかけあったって聞いてる」


「それもあったなぁ。タダ働きにならなかったのはラッキーだ、うん」


 そもそもマカン村からの依頼として出発したから、マカン村が壊滅した時点で依頼料は払えない。命からがら逃げてきた人たちに請求できるほど非道では無いし。

 それを、モルクが領主に詳細報告して、領民を守ったとして報奨金をもぎ取ってきたのだ。


「でも、戦闘はイマイチだな。ゴブリンに槍で攻撃されたのは、カッパーの頃以来だ」


(そりゃ、私がそうならないように壁をやってたからね)


 口には出さないが、エミールやナプラの身を守ってきたのは自分だとクロエは思っている。まあ、真っ先に敵に突っ込んでいってしまうレクシアが一番問題なんだけど。


「まあ、そのうち慣れてくるだろ。新メンバーを教育するのも先達の務めさ」


 実は教育される側、とは知らずエミールが大きな口を叩く。

 クロエは少し喉のつかえを感じて、黒茶カルディを飲む。でも、飲み下せなかった欠片が漏れた。


「戻ってこい、とは言わないんだ」


『モルクじゃダメだ。戻ってこい、クロエ』

 そんな言葉を、期待してしまっていた自分にクロエは気づく。もう、細工師としてやっていくつもりだったのに。


「私、役立たずだったかな」


 藍の眼の客の吐いたトゲが、まだクロエの心に刺さっていたらしい。


「そんな事はない!」


「でも、エミールも追放に賛成したよね?」


「それは……その……」


 エミールは自慢の長い髪を右手でかき混ぜる。

 はぁ、と息を吐いて、エミールは人差し指を伸ばしてぐるりと回す。


「これ、ずっとやりたかったんだろ」


「これって?」


「この店」


 まあ、そうだ。

 クロエは好きな人形を作って暮らしたかった。ゴールドランクになる前から、冒険者になる前から、フロマス村が無くなる前から、それよりもっと前からずっとずっと。


「5年前の僕らには、取れる選択肢はほぼ無かった。普通の職人とかの給料で、村の再建なんて出来っこない。だから、冒険者になった」


 そう、「仕方がない選択」だったのだ。まあ、なったらなったで楽しかったのだけど。もっと続けていきたい、と思う程度には。


「でも、今はもうゴールドだからな」


「割とお情けで残してもらった感じでは……?」


 胸を張るエミールをちょっとからかうクロエ。今更ほほを伝ったしずくをさっとぬぐう。

 エミールも、それには触れずにわざとらしく口をとがらせる。


「うるさい。だからまあ、僕らはさっさと別の4人目を見つけて、モルクを叩き出して、ガンガン稼いで、フロマス村を再建する。そしたら、クロエ……」


 飲み干したマグをカウンターに置き、エミールは真正面からクロエを見る。


「クロエも、一緒に村に住もう」


「うーん。村ぐらいのサイズで、人形フィギュア作りの需要がどこまであるかなぁ」


 クロエは斜め上を見上げて皮算用。

 趣味の品である人形フィギュアは普通の生活の役には立たない。趣味にお金を費やせる人がたくさんいる大きな街じゃないと成り立たない商売だ。

 エミールは何故か大きく肩を落とした


「……村の特産品、とかで良いんじゃないか」


「それでもいいかもね。もう一杯飲む?」


「くれ。あと〈高速旅行ファストトラベル〉使えるようになりたい。アレ、無いとホント不便だわ」


「まずは〈速度スピード強化バフ〉覚えるところからだけど……それこそ、モルクさんから教わったら?」


「やだ」


 クロエはクスクス笑いながら、エミールのために白い黒茶カルディを入れ直した。



★。*†*。☆。*†*。★。*†*。☆。*†*。★。*†*。☆。*†*。★。*†*。☆


「ああ、コじゃないや、黒茶カルディが美味しい。どうも、クロエです!」

「レクシアはともかく、エミールがなんで追放に賛成したのかは引っかかってたんですよね。役立たずじゃなくてよかったぁ」

「でも、もう少し冒険者続けたい気持ちもあったんですよね。背中を押すにしても、もう少しこう事前の相談というか……まあ置いとこう」

「これでインターミッション1『クロエの工房にて』はおしまい……って短くないですか!?

 次話からは第2章『灰の森の暴走ゴーレム』が始まります

 森精族エルフの森で一体何が? そういえば、そっちに行ってた冒険者パーティーがいたはずだけど……」

「次話 第2章第1話『悪い知らせ』 読んでくださいね!」


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