ざまぁみろとは言わせない!

ただのネコ

序章 ざまぁみろでは困るんです

第1話 ざまぁの予感

「それじゃ、完全に『ざまぁ』案件じゃないか!」


 思わず立ち上がって叫んだモルクだったが、周りからの視線を感じて、頭を下げつつ座り直す。

 夕食時のレストランの中でやるには、ちょっと無作法だった。


「落ち着いてください、モルクさん」


 向かいに座る少女にもたしなめられる。


「すまない。クロエちゃんの工房設立祝いなのに、悪い知らせを聞かされちゃったもんだから、つい」


 クロエは丸顔に丸眼鏡のせいで幼く見えるが、ただの少女ではない。というか、少女という年でもない。

 冒険者になって5年目の立派な大人。ついこの間ゴールドランクに上がったので実力も折り紙付き。そして、今日からは自分の工房を持つ一人前の細工師でもある。


「ちっちゃな一人工房ですけど、うれしいですよ〜。モルクさんが一緒に来てくれたおかげです! 私だけで大家さんに会ったときは、露骨に貸し渋られてましたもん。『貸してもいいけど、賃料は月に金貨3枚で3ヶ月分前払いだ』ですよ!」


 金貨3枚も出せば、普通はもう3倍大きな建物を借りられる。

 完全にぼったくりだが、大家がそうした理由もモルクには分かる気がするので、あいまいに肩をすくめる。


「まあ、冒険者は収入が不安定な仕事だからなぁ」


「それはわかってるから、ゴールドランクになるまで待ったんですけどね」


 クロエの所属するフロマス勇士団ブレイブスはこのシャイアの街で、たった2つしかないゴールドランクパーティーの片割れ。それでも、支払いにおける信用度は冒険者ギルドの職員モルクの方が高く見積もられる。

 モルクがギルドの名を出して自己紹介した途端、大家の対応は丁寧になり、賃料も相場よりちょっと安めになりとトントン拍子だった。


 ちょっと落ち込んだクロエを励まそうと、話題を少しずらすモルク。


「仕方ないさ。あのイスタリオンだって家を借りようとして拒否されてたことがあったよ」


「"魔王殺し"のイスタリオンが!?」


 デイル王国最高の冒険者パーティーの名に、クロエは眼鏡の奥の藍色の目を見開く。


「当時はまだプラチナランクになりたてだったけどね。メンバーみんなで住める大きな屋敷を借りようとしたら、即金買取じゃなきゃダメだって言われたんだと。リーダーが頭抱えてたよ」


「プラチナランクでもそんな扱いなんですね。それじゃ、ゴールドぐらいは門前払いも当然かぁ」


 天井を仰ぐクロエ。とそこに馴染みの給仕娘が料理を運んできた。


「はい、お待たせしました。モルク、隠し子いたの? それとも、モテなさすぎてロリコンに堕ちちゃった?」


 クロエの前に角兎ホーンヘアの煮込み、モルクには羽鰯ウィングサーディンのから揚げにからかいを添えて。


「ゴールドランク冒険者を子ども扱いすんなっての」


 30歳ちょっとのモルクに、20歳の娘などいるわけがないし、手を出すつもりもない。

 モルク自身がからかわれるのはかまわないけど、クロエに失礼なのでちょっとにらんでおく。

 その抗議を受け、給仕娘はクロエに向かってすなおに頭を下げる。


「冗談だったんだけど、ごめんなさい。フロマス勇士団のクロエさんでしょ? 初めまして。今後もごひいきにしてくれるとうれしいな!」


「お味次第ですね」


「そこには自信があるよ。アタシが作ってからね!」


 陶器のジョッキに入った麦酒エールを押し付けて、料理下手で知られる給仕娘はケラケラ笑いながら引っ込んでいく。


 手を振って見送ったあと、クロエは少し肩を落として皮肉げに笑う。


「まあ、フロマス勇士団なんですけどね」


「そう、その話だった。本当なのか?」


「冗談でこんなこと言いませんよ。私、クロエ・フロマスは、昨日フロマス勇士団ブレイブスを追放されました」


 口元は笑ってはいるけれど、目は笑っていないのが痛々しい。


「いつものレクシアのかんしゃくじゃなくて?」


 モルクの脳裏に、フロマス勇士団のリーダーである角鬼族ウルクの顔が浮かぶ。レクシア・フロマスは良くも悪くも角鬼族ウルクらしい荒々しい気性の女だ。クロエとは考え方が合わないようで「クロエは追放だ!」と叫んでいるのをモルクも何度も目にしている。


「最初はそうだったんですよ。でも今回はエミールとナプラも賛成したので、決定事項です」


「3対1じゃどうしようもない、か。でもナプラはともかくエミールまでかぁ」


 重要事項は多数決、と決めているフロマス勇士団だから、これまではレクシアが追放だと叫んでも残り2人が反対して却下されていた。モルクにはむしろ、レクシア自身が却下されること前提で気軽に「追放」を口にしているようにすら見えていた。


「ゴールドランクになった途端に黄金大山羊ゴルゴラドンの毛刈りクエストってのはちょっとわがまま言い過ぎたかなーと私自身にも反省ポイントはあるわけで」


「アレか……命の危険は少ないけど、面倒だもんなぁ」


「おかげで、この金毛が手に入れられたんですけど」


 クロエは胸ポケットから黄金の毛を束ねたものを取り出し、灯りに透かす。

 モルクから見ると、クロエの藍色の目が金の細糸で彩られる。モルクの髪も金ではあるが、あんなにツヤもないし細くてふわふわでもない。


 うっとりとした目で黄金羊毛を見ていたクロエだったが、やがて毛はそのままに視線だけをモルクに移す。


「ギルドには、明日みんなで連絡しに行く事にしてるんですけど……ぶっちゃけ、ギルド受付のモルクさんから見て、どう思います?」


「最初に言った通り。ヤバい。クロエちゃん無しのフロマス勇士団がゴールドランクの依頼に行ったら、『ざまぁ』になるのが目に見えてる」


 最近流行りなのだ。ある集団が才能あるメンバーを追い出し、追い出された方は新たに別の集団を立ち上げて大成功。一方、追い出した方は状況が急速に悪化して落ちぶれていく、という流れ。追い出した側の評判が元々悪く、傍観者からしても「ざまぁみろ」と言いたくなる話ばかりだったので、いつの間にか『ざまぁ』案件とまとめられるようになっている。

 大きなところだとある王国そのものや、別の国の細工師ギルド。このデイル王国でも一番大手だった商会が一気に潰れ、追い出された下働きが立ち上げた商会にとってかわられた。


 そして、フロマス勇士団は短期間でゴールドランクまで駆け上がったこともあって嫌っている同業者も少なくない。冒険失敗の暁には、いい気味だとあざ笑う連中は確実にいるだろう。


「ですよね」


「クロエちゃんはその方がいいかもしれな……」

「良くないです」


 モルクの言葉に上からかぶせる即答。


「いつか皆でフロマス村を再興しようってのがフロマス勇士団ですから。レクシアもエミールも、ざまぁな事になるのは嫌です。ナプラはフロマスじゃないけど、アイアンランクの頃から付き合ってくれてるし」


 クロエが姓として名乗るフロマスの村は、10年ほど前に魔物モンスターに襲われて壊滅している。レクシアもエミールも、フロマス村の生き残りだ。その連帯感が、追われた恨みに勝ったらしい。

 黄色い光をまといながら、真剣な目でクロエはモルクを見据えて願いを紡ぐ。


「だから私は、モルクさんにフロマス勇士団を鍛え直してほしいんです。他の人たちに、ざまぁって言われないように」



★。*†*。☆。*†*。★。*†*。☆。*†*。★。*†*。☆。*†*。★。*†*。☆


「はーい、読者の皆さんこんにちは。クロエ・フロマスです!」

「作者から『クロエは正ヒロインだけど本編での出番は少なめだから、次回予告で読者様にアピールしておきなさい』って言われたので、各話の最後にお邪魔させていただきますっ!」

「って、出番少ないんですか、私! とほほー」

「さて、ギルド受付のモルクさんがどうやってゴールドランクのフロマス勇士団を鍛え直すのか?

 そもそも「モルクさんに鍛え直される」こと自体をフロマス勇士団が受け入れるのか?

 次回、序章第2話『金か銀か』 読んでくださいね!」


「最後に応援のお願いです!

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 ……ほんとに大丈夫?」

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