第8話 ボーン・トゥ・ラヴュー(後編)
沢根──ザネリの言う『渡したいもん』に、詩貴は心当たりがあった。八月十日。今日は奏鳥の誕生日だった。
アルバイトの忙しさのせいか、当の奏鳥本人は自分の誕生日を忘れてしまっているようだったが、詩貴はしっかりと覚えていた。今日は仕事が終わって旅館に戻った後、サプライズとして彼を祝うつもりでいたのだ。
しかし、そこへ先にザネリの奴がやって来てしまった。詩貴は内心
彼の言う『渡したいもん』が奏鳥へのプレゼントなら、自分よりも先を越されてしまうことになる。
そして詩貴の嫌な予感は、そっくりそのまま当たってしまうことになった。
詩貴は店の裏から掃除を続けているフリをしながら、こっそり彼らのことを
店の
紙袋を受け取った奏鳥が嬉しそうに笑うのを見て──そこで詩貴は
悔しい。詩貴は
そのうち右腕のほうが痛くなってきてしまったので、詩貴はようやく
清掃に集中しているうちに、詩貴の気持ちはだんだんと落ち着いてきた。その代わりに今度は、自分でも馬鹿馬鹿しいと感じるほどの
一体自分は何に対して、こんなに苛立ってしまったのだろう。たかが嫌いな奴が、友人の誕生日を祝いにきただけじゃないか。
そう思う一方で、詩貴はやはり心の底の
反面、自分の方はどうだろう。奏鳥一人のことでこんなに
「……田くん、椀田くん」
ふと自分を呼ぶ声が聞こえて、詩貴は顔を上げた。徳野さんが心配そうに眉を下げて、床に
詩貴が返事をするのも忘れてぼんやりしていると、徳野さんは
「そろそろ休憩したらどうかな? 椀田くんは“お手伝い”なんだから、そんなに一生
詩貴は彼に心配をかけてしまっていたことに気づき、急いで背筋を正した。
「いえ、僕は大丈夫です。それより、お店の方は良いんですか?」
「そろそろピークが過ぎて客足も落ち着いてきたし、こっちは大丈夫だよ。椀田くんの方こそ、あんまり頑張られすぎたら俺の方が困っちゃうよ? これじゃ
へらへらと笑ってみせる徳野さんに、詩貴は
「わかりました。お言葉に甘えさせていただきます」
「うんうん。好きな飲み物はあるかい? ついでにオヤツも食べていくといいよ。今日のぶんのお
「……じゃあ、あのミックスフルーツアイス、っていうのを頂いていいですか?」
詩貴はちょうど頭を冷やしたい気分だったので、冷たいデザートを頼むことにした。
徳野さんは彼に向けて、親指を立ててウインクしてみせた。
詩貴は休憩室で一人、ぽつんと座って冷たいアイスクリームを口に運んでいた。甘酸っぱいアイスクリームは
閉店間近の客席の方には殆ど人はおらず、奏鳥も徳野さんの奥さん達も、片付けの方に
奏鳥達は客席を拭いて周り、奥さんはレジの精算作業に取り掛かっている。よく見ると、その中に徳野さんの姿が見当たらないことに気がついた。
詩貴が不思議に思っていると、不意に背中に何かが触れる感触がした。
「うわっ!?」
驚いて振り向くと、そこには手をひらつかせて無邪気に笑う徳野さんの姿があった。
「あはは、ごめんごめん。びっくりした?」
「……なんですか、急に」
驚きのあまり呆然とする詩貴をよそに、徳野さんは隣の席に腰掛けた。
「なんだか浮かない顔をしているみたいに見えたから、気分転換にって思ったんだけど。逆効果だったかな?」
先程のことを未だに引きずっているのが、顔に出ていたらしい。気まずくなって頭を下げた詩貴に、徳野さんは落ち着いた調子のまま話を続けた。
「ああ、君を責めてるわけじゃないんだよ。もしかしたら、成谷くんのことを気にかけてるのかなと思ってさ」
「奏鳥を?」
詩貴は思わず顔を上げた。店内はあんなに混雑していたのに、彼が仕事をしながら詩貴の様子を細かく見ていたことに、
「うん。日中も彼のことを見ていただろう? 心配なのかなとか、彼と何かあったのかなって思ったんだけど……お
「……いえ。ちょっと、友人関係のことで悩んでいて。ごめんなさい。僕、手伝いにきたのにこんな風に悩んでばかりで……」
口をついて謝罪が出ると、さらに申し訳ない気持ちが増してくるので、詩貴は流れるような早口で謝り倒してしまった。
一方徳野さんは、相変わらず優しげな笑みをたたえたままだった。
「いやいや、謝らなくていいさ。むしろ助かってるんだから。俺で良ければ話を聞くよ? これもお駄賃みたいなもんだと思ってさ」
そう
詩貴はしばらく悩んだ。徳野さんは詩貴にとって、あくまでも赤の他人で、その上手伝いとはいえ
しかし──詩貴は
「あの……もしもの話なんですけど。徳野さんにとって一番嫌な相手が、徳野さんにとって一番大事な人と仲良くしていたら……、僕みたいに……こんな風に辛くなったりしますか」
話しながら、詩貴はやはり自分は会話が下手だと痛感した。今の自分が抱えているものを、これ以上上手く打ち明ける表現が思いつかなかった。これでは自分が何に困っているのか、徳野さんには伝わらないだろう。
やはり申し訳ないと思い、眉を下げて肩を縮める詩貴に対し、徳野さんは途端に
「ええと……単刀直入で悪いけど、それはもしかして英くん……英里くんのことかな」
「……っ」
詩貴は驚きのあまり目を見開いた。徳野さんの
気まずさに硬直する詩貴を、彼は慌てて
「ああ、思い詰めないで。大丈夫だよ。むしろちょっとわかるなって思ったからさ」
意外な言葉が返ってきたので、詩貴は思わずきょとんと目を
「あの子、たまにちょっとピリピリしてるっていうか、あれじゃあ仲良くなれなくても仕方ないっていうか……あ。これじゃあ俺、英くんのことすごく悪く言ってるな?」
どうやら彼にも親戚なりに、ザネリに対し思う所があるらしい。徳野さんは苦笑いを浮かべているものの、どこか愉快げな様子で頭をかいた。
それから彼は、首を傾げながら「俺が言いたいのはそういうことじゃなくて……」と
もしかして困らせてしまっただろうか。やはり話すべきではなかっただろうか。詩貴がまた口をついて謝ろうとしたその時、先に口を切ったのは徳野さんの方だった。
「例えば、俺はピーマンが食べられないんだ」
「えっ?」
話が思わぬ方向に
「けれど、俺がピーマンが食べられないからって、誰かに責められる
詩貴には彼が、何のことを語っているのかがわからなくなってしまった。しかし話を続ける徳野さんの様子は、真剣そのものだ。むしろここからが大事だと言わんばかりに、彼は顔をしかめ、人差し指を立てて訴え始めた。
「でも、どれだけピーマンが誰かに大事にされようが、愛されようが、俺がピーマンを食べられるようにはならない。それは俺がピーマンを嫌いだからだ。仕方のないことなんだ」
眉間にしわを寄せていた徳野さんの表情が、ふと緩んだ。「だからね」、彼の顔つきは元のにこやかな笑みへと戻った。
「嫌いなものは、嫌いで仕方ないんだよ。俺や成谷くんはたまたまあの子と仲良くなれただけで、椀田くんはたまたまダメだっただけさ。そのことで椀田くんが悩む必要なんてないよ」
徳野さんは慣れた顔つきでウインクをした。
彼の例え話は、詩貴には正直あまりしっくりと来ていなかった。しかしその
「聞いたよ。今日、成谷くんの誕生日なんだろう? 旅館に戻ったら思いっきり祝ってあげなよ。彼、きっとすごく喜ぶよ。仕方のないことは一旦置いといて、もっと楽しいことを考えよう」
---
その日の晩。奏鳥は旅館への帰り道を、一人のろのろと歩いていた。
仕事はあと三日間あるというのに、奏鳥は既にぐったりと疲れてしまった。そのため今日は徳野さんに勧められるがまま、彼の店でしばらく休んでから帰宅していた。
沢根のくれた誕生日プレゼントは、タオルやティッシュなどの軽い消耗品の詰め合わせだ。しかし、それすらも今は重たく感じられる。奏鳥は紙袋をぎゅっと抱えて、坂道をゆっくりと上っていった。
休憩時間の終わり
袋の中に衛生用品ばかりが入っていたことに最初は笑ったが、奏鳥はたとえタオルでもティッシュでも、誕生日にプレゼントを貰えたこと自体が嬉しかった。
なにしろ彼の誕生日は夏休み真っ盛りなので、今までは母以外の人物から祝われたことがあまりなかったのだ。その上──ふと苦い記憶が
そんなことよりも、だ。奏鳥は紙袋の底にひっそりと入れられていた、小さな封筒のことを思い出した。
封筒の中には、誕生日祝いのメッセージカードと、数枚のギターピックが入っていた。奏鳥はギターを弾き鳴らす趣味を、沢根には話していなかったはずだが、そこは色々と
プレゼントに隠されていたギターピックに気がついたのは、沢根がとっくに店を後にして、奏鳥が閉店後に休憩をしている最中のことだった。お礼を言う暇がなかったが、沢根なりに自分のことを想ってくれていたのが、奏鳥にはいたく幸せだった。
そうだ。今日は仕事で体こそくたびれたものの、心はこんなに幸せな一日だ。
奏鳥はそう思って浮かれるあまり、重い足を無理やり引きずって駆け出した。ふくらはぎが少々痛むが、そんなことは気にせず
お陰で旅館へたどり着く頃には、彼の足は筋肉痛でかちかちになり始めてしまった。
紙袋を抱えたままフロントへ向かうと、ロビーに旅館のスタッフが数人集まっているのが見えた。
何かあったのだろうかと不思議に思い、目を凝らすと、その集まりの中に詩貴が混ざっているのが目に入った。
まさか、詩貴が何かしでかしたのだろうか? いやいや、あの
奏鳥はあまりに気になって、受付を早々に済ませて集まりの方へと向かった。見れば詩貴は、どうやらスタッフと何かを相談している様子だった。その表情は何かをしでかしたどころか、むしろ楽しげだったので、奏鳥はひとまず安心した。
「はい。急な話だったのに、本当にありがとうございます。よろしくお願いします」
詩貴は笑顔でスタッフに頭を下げる。スタッフも「とんでもないです」とまた頭を下げた。彼らは一体、何の相談をしていたのだろう。
「なあ詩貴、何の話をしてたんだ?」
奏鳥は無邪気に尋ねながら駆け寄った。
すると、先程まで柔らかな笑みをうかべていた詩貴の表情が、奏鳥の姿に気づいた途端、
「あっ……奏、鳥……」
「え……えっ? どうしたんだ詩貴? ……俺、今なんかした?」
奏鳥は、自分が“うっかりや”だということをすっかり忘れていた。
たった今、プレゼントを抱えて帰路を走っていたのに。今日は自分の誕生日だという意識が、頭からすっぽりと抜け落ちていたのだ。
そんなこんなで、詩貴のサプライズ作戦は失敗に終わってしまった。客室で普段よりもさらに豪華になった夕食を囲みながら、彼は気まずい気持ちで俯いていた。
せっかく徳野さんに奏鳥を引き止めてもらい、その間に旅館のスタッフへサプライズを更に
せめて目立つロビーなんかではなく、隠れて相談するか、気づいていない奏鳥にあのまましらを切り通せば良かったものを。
詩貴は慌てふためいた
落ち込みのあまり、詩貴は思わず本来の目的である『奏鳥を祝って喜ばせたい』という気持ちを忘れかけていた。
「な、なぁ詩貴。これってカニだよな? 何ガニなんだ?」
そんな詩貴の
「えっと……そっちの細身の方がズワイガニで、表面がでこぼこしてるのはタラバガニだと思う」
話しながら、詩貴は不思議と落ち込んだ気持ちが上向いてくるのを感じた。
「ズワイガニ……タラバガニ……」とまるで七輪へ呪文をかけるように復唱している奏鳥からは、初めて見る料理へ心を弾ませているのが聞かずとも見てとれた。
今日は誕生日祝いコースのため、旬ではない冷凍ガニをわざわざ取り寄せて貰ったが、奏鳥が嬉しそうな様子で何よりだ。詩貴はほっと
その後も二人は焼きガニを
予定通りには行かなかったものの、奏鳥の喜ぶ顔を見ているうちに、詩貴の気持ちは少しづつ晴れやかに変わっていった。
そして、夕食の後。食器を片付けているスタッフから、デザートに付くドリンクを選ぶよう言われたので、二人は
すると奏鳥は、目を輝かせながら詩貴に尋ねた。
「もしかして、ケーキとか出んの?」
詩貴はほんの少し気まずそうに、顔を赤くして頷いた。
「うん。本当はカットケーキが二つ出る予定だったんだけど、さっきホールケーキにしてもらえないか相談してたんだ。その方が誕生日っぽいと思って……」
奏鳥もぶんぶんと首を縦に振った。
「ホールって、丸ごとのやつだよな!? すげーな、そんなの食うの久しぶりだ!」
ホールケーキといっても、実際は二人でも食べられる、四号ほどの小さなケーキだ。
それでも名前の書かれたプレートが乗ったケーキが、色とりどりのろうそくと一緒に出されると、奏鳥は手を叩いて喜んだ。詩貴は照れ臭くなって「そんなに騒がないでよ」と水を差したが、奏鳥の
ろうそくは好きな数だけ差して火をつけていいとのことだったので、奏鳥は何を思ったのか、直径十二センチしかないケーキにろうそくを歳の数だけ刺してしまった。
小さなケーキに対してろうそくを十六本も刺してしまったので、なんだか見た目は不恰好になってしまったが、本人はいたって楽しそうだった。
詩貴はそんな彼の様子を見て、ふとろうそくの火をつける際に、部屋の灯りを消すよう思いついた。
これもまた“父さんの受け売り”というやつだが、海外ではろうそくの火を消すときに、願いごとを唱える文化があるのを思い出したのだ。部屋を暗くして、ろうそくの灯りのみの景色にすれば、より雰囲気が出るのではと考えた。
ろうそくに点火棒で火をつけながら、詩貴は奏鳥に願いごとを考えさせた。
リモコンで部屋の灯りを消すと、暗くなった和室の中で、ケーキとちゃぶ台と、そして二人の顔だけがぼんやりと赤く照らされる。その小さな灯りは、奏鳥の
「願いごと……うーん……」
奏鳥は願いを真剣に考えているようだ。その間にろうそくが溶けだしてしまったので、詩貴は「なんでもいいんだよ、
抱負という言葉を聞いて決心したのか、やがて薄明かりの向こうの奏鳥は「俺、いつか詩貴と一緒にでっかい舞台に立ちたいな」と願いを唱えた。
暗がりの中赤く照らされた彼の顔が、あまりに真っ直ぐだったので、詩貴は
“詩貴と一緒に大舞台に立ちたい”──奏鳥の願いを聞いた途端、詩貴の脳裏に、二人が並んで
奏鳥一人の前でピアノを弾くことすら、あんなに苦心した自分が、いつか彼と共に舞台に立つ。そんなことが可能なのだろうか?
奏鳥がふうと息を吹きかけ、ろうそくの火が消えていく。一度の息では全部の火を消しきれなかったので、彼は必死にケーキへ息を吹きかけ続けた。
一方詩貴は、部屋の灯りがなくなり暗闇に包まれていく中、呆然としていた。
「おーい詩貴、灯りつけてくれよ。真っ暗になっちまったぞ」
「ああ、うん。そうだね」
詩貴は慌ててリモコンのボタンを押し、部屋の灯りをつけた。奏鳥はへらへらと笑いながら、「へへ、抱負って言われたから勝手に願っちまった。ダメだったかな?」と照れ臭そうに身をよじった。
「ううん。凄く……いい願いだと思う。僕が叶えてあげられるかはわからないけど……」
そう答える詩貴の表情は、肯定しているはずなのにどこか切なげだった。
奏鳥は彼のそんな顔を見て、思い出したようにあっと声を上げた。
「なぁ、詩貴。俺、お前にちゃんとお礼を言うの忘れてた」
お礼なんて、と詩貴が
「ありがとう。俺と一緒に音楽始めてくれて。バイトも一緒に来てくれて、こんなに祝ってくれて……」
真剣に、
四月のあの夕方から、約四ヶ月。今までのことを噛み締めるように思い返しながら、奏鳥は感謝を述べた。
「本当に、ありがとう。俺、たぶん今日が今までで一番幸せだ」
奏鳥はにっこりと歯を見せて、満面の笑みを浮かべた。
彼の笑顔を見て、詩貴はふと自分の中で何かがすとんと──文字通り、
「そうだ……僕、ずっと奏鳥のそんな顔が見たかったんだ」
「え、俺?」
詩貴は頭の中で、西陽の差す春の教室を思い返していた。
四月の放課後、初めてお互い名乗り合い、震える自分の手をかたく握った奏鳥の手。太陽みたいに金色に瞬いていた瞳。自分がこんなにも
「うん。“僕も”多分、君のそういう顔が見たくて……こんなに必死だったんだ」
詩貴は「必死すぎて、色々失敗しちゃったけど……」と気まずそうに笑いをこぼした。
あの日。自分はわけもわからず楽しくて、思わず笑ってしまい、奏鳥からは『多分お前のそういう顔が見たくて、お前に話しかけたんだ』と言われていた。詩貴はあれからずっと、自分も奏鳥のことを笑わせたいと思っていた。
やり方の
一方奏鳥の方は、詩貴が恥ずかしそうにはにかむのをぼんやりと眺めながら、彼がたった今口にしたことを心の中で
自分のことを笑わせたい一心で、不器用ながら頑張っていた彼のことを思うと、不思議と胸が高鳴るのを感じた。
何よりあの春の日──自分が何気なく言ったことが、詩貴をこんなに
奏鳥は自分でも感じとれるほど、全身に暖かな多幸感が巡ってくるのをおぼえた。思わず正座したまま膝を握っていると、詩貴は微笑みながらナイフをとった。
「奏鳥、ケーキ食べよう。半分にするから、プレートが乗ってる方が奏鳥のぶんだよ」
奏鳥が頷くと、照れ隠しをしているのか、詩貴は早々にホールケーキのろうそくを取ってしまい、半分に切りはじめた。その間も、彼は嬉しそうに口角を上げている。
奏鳥は自分の誕生日に、家族以外の誰かがこんなに嬉しそうな顔をするのを初めて見た。
プレートが乗っている方の半分を器用に取り皿に乗せると、詩貴はケーキを奏鳥へ手渡した。やはりその笑みはどこか気恥ずかしそうだったが、今は彼のそんなぎこちない様子でさえ、奏鳥の
「改めて、誕生日おめでとう。奏鳥」
詩貴の照れ笑いがゆっくりと、穏やかな微笑みに変わっていく。
ああ──本当に、今日が今までで一番幸せだ。奏鳥はまるで、脳裏に銃声が
“俺はお前を愛するために生まれてきた”──英雄の愛の歌が、彼の胸中に響き渡る。奏鳥は返事をすることも忘れて、思わず詩貴の
奏鳥には、見慣れていたはずの友人が、突然世界ごと姿を変えてしまったかのように思えた。
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