スタートライン
遠山ラムネ
スタートライン
今日、もし会えたら、声をかけようと思っていた。
名前も学年も知らないけれど、制服から、どこの高校の人かは分かっていた。
彼が乗ってくるはずの駅が近付く。
この電車のこの車両で乗り合わせることは比較的多い。
もちろん、会えない日もあるけれど。
ゆっくり減速してホームに滑り込む。
ドアが開いて、人並みが揺れて、ちらほらと制服が乗ってくる、その中に。
いた!あの人
いた、けど……
ひとりじゃなかった。
隣の子の綺麗な髪は、肩の下でつやつやと揺れていた。
彼女……かどうかは、分かんない。
分かんないじゃん!
分かんないけど。
でも分かるよ、分かるんだよ。ちょっと見ただけでも。
あの子はあの人のことが好きなんだろうなって。
可愛い、可愛い子だな。でもどこか必死。
ああだから、やっぱまだ彼女ではないのかも。
私と同じ。
え、本当に同じか?
私、あんなふうに、可愛く可愛く必死になれるんだろうか?
その覚悟が自覚できなくて、勝てないだろうな、と、思った。
これは、恋には違いないのだろうけど。
でも私は今、泣けないし。
割り込んで遮ってアピールするなんて自信もないし。
だから。
同じ舞台に立てていない。
彼女の恋はリアル。
だけど私のはきっと……憧れとか推し活とか、それに近いようなやつで。
告白もしてないのに、失恋もしてないのに、なんか居た堪れなくなって目を伏せた。彼の名前を聞く資格が、今はまだないような気がした。
今日は、帰ろう。今日は、とりあえず。
明日になって明後日になって来週になってまだ、追いかけたかったら、そこからまた頑張る。
その時は勇気をもって、自信をもって、隣に誰がいても。
何かを通り過ぎるたび、スカートの上を影が横切る。。
明日のことも、明後日のことも、来週のことも、全然わからないけど。
私の恋は、いま、たぶん、始まったばかり。
スタートライン 遠山ラムネ @ramune_toyama
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