(1-2)

 しかし、『概念』って何だよ?


 めんどくせぇけど、試しに思ってみるか。


 そもそも、俺、腹減ってたんだよな。


(とりあえず、ここじゃないどこかに行きたい)


 ――パッチン!


 思考して指を鳴らした瞬間、白い空間がビリビリと震え、景色が一変した。


 俺は森の中に立っていた。


 古い巨木が天を突き、苔むした地面が足元に広がる。


 木々の合間から、白い雲がゆっくり流れる青空、その向こうに雪を頂く山脈が見える。


 風に葉ずれの音、チュピピと鳴く鳥。


 足元には小さな青い花が咲き、甘い香りが漂う。


 どうやら、天国みたいな白いところから、人間の世界に戻ってきたらしい。


 でも、元の世界とは全然違う。


 ゲームでおなじみの西洋中世っぽい風景だ。


 人間に戻った俺の体は……誰だこれ?


 水溜まりを覗くと、完璧な顔立ちをした十代半ばの金髪美少年が微笑んでいた。


 サラサラの金髪に、碧い瞳。


 シンプルな白いローブが風に揺れる。


 これが……俺?


「マジかよ……転生体ってことか? 元の肉体と関係なく、姿が自由ってこと?」


 頭の中に、女神たちの声が響く。


 姿は見せなくて声だけだ。


「うんうん! 概念体だから、姿は自由自在! 初期設定は金髪美少年! 私のイチオシデザインだよ!」


「ふふ、髪サラサラぁ。触ったら気持ちいいかもぉ」


「似合う……概念自在」


 と、感想だけ言うと、頭の中から三人の気配がいきなりぷわっと消えちまった。


 何しに来たんだ、おまえら。


 俺はまた一人、森に取り残される。


「っつうか、めんどくせぇ……飯食うはずだったんじゃん。とりあえず、街に行こうか」


 歩き出す。


 足音が軽い。


 体がふわふわ浮いてる感じ。


 木漏れ日が金髪を照らし、ローブの裾が草をかすめる。


 すると、前からプルプルした茶色の塊が飛び出してきた。


 ナメクジスライム。


 ヌメヌメした体表に、粘液が滴る。


 ゲームみたいな光景だけど、リアルに気持ち悪い。


 ピュルルッ!


 スライムがこっちに跳ねてくる。


 これがこいつの攻撃?


 でも俺、武器ないぞ。


 めんどくせぇ。


 倒すの面倒くさいけど、触られるのも臭そうでいやだな。


 ――概念操作、試してみるか。


(ナメクジスライム一匹=経験値百億)


 思考して指を鳴らす。


 パチンと響いた瞬間、世界がビリビリ震えた。


 スライムの体が光り、ぬぽっと俺に吸い込まれるように消滅。


「え、何これ!?」


 頭にステータス画面が浮かぶ。



【アルス・エターナル:レベル1→∞】


【経験値:10000000000/∞】


【マナ:∞、体力:∞、全ステータス:∞】



 画面がエラーだらけ。


 数字が崩壊してるじゃんか。


「マジかよ……レベル∞?」


 体に力が満ちる。


 いや、満ちるどころか、あふれるっていうか、いきなり宇宙って感じ。


 風が通り抜けるだけで、世界の法則を手にしちゃう感覚。


 なんかすげえぞ、これ。


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