(1-3)

 と、そこにまた三女神の声が頭の中に浮かんだ。


「きゃー! もう初改変しちゃった! ナメクジスライムでレベル∞だよ!」


「すごぃすごーぃ。世界法則、即変わっちゃったぁ。次はもっと派手にぃ」


「……早い。面白い……望み通り」


 俺は笑った。


 めんどくせぇけど、確かに面白いかも。


 なんでも俺の思った通りってことだろ。


 しかも、それがいくらでも使えるチート能力。


 なにしろ、俺のマナは無限だからな。


 と、自分の能力に満足していると、地面がゴゴゴと震えだした。


 なんだよ、おい、地震か?


 森の奥から、地鳴りとも違う轟音が聞こえたかと思うと、木々がなぎ倒され、炎が噴き上がった。


 ――な、なんだ、こいつ。


 現れたのは怪物化した超巨大なめくじスライムだ。


 見上げるほどの巨体はボロアパート一棟くらいある。


 ヌメヌメの体表が黒鱗に覆われ、口から溶岩のような粘液が滴る。


 ぷるんぷるんの巨体がずいずい動くたびに揺れ、赤い瞳が俺を見下ろしている。


 なんだよ、こいつ、めんどくせぇ。


 消えろ、早く!


 俺は瞬き一つせず、指を鳴らす。


 (巨大化したなめくじスライムなんて最初から存在しない)


 ――パチン!


 世界が一瞬静止し、巨大ななめくじスライムが、光の粒子となって崩れ落ちる。


 跡形もなく消滅して森に静寂が戻った。


「……なんだったんだ、あれ。バグか?」


 俺が首を傾げると、頭の中に、女神トリオの嬌声が響く。


「えぇぇ!? スライムが怪獣に!? でも消えた!?」


「だーりん、早すぎぃ。私もぉ、びっくりぃ」


「加速中……改変バグ」


 改変バグ?


 しかも加速中ってどういうこと?


 ……って、聞こうとしてもすぐに姿が消えてしまう。


 思わずため息が出てしまう。


「めんどくせぇ……街行くか」


 森を歩く。


 こういうところを歩くのは久しぶりだななんて、最初は気分も良かったけど、いくら歩いても景色が変わらなくて飽きる。


 木々がざわざわして鳥が飛ぶのもなんか不気味だな。


(見通し良くしてくれ)


 パッチン!


 ポンと木々が消えて、周囲が草原になる。


 馬車の轍がくっきりとした道の先に街が見える。


 お、いいね。


 あそこまで行けば何か食う物が手に入るだろ。


 ていうか、思考するだけで、食う物くらい簡単に出るんだよな。


 でも、せっかくだから、この世界のうまいもの食いたいよな。


 とにかく街まで行ってみるか。


 よし、急ごう。


(俺の歩く速度、十倍速)


 指を鳴らした瞬間、ぐいっと背中を押されたように足が速くなる。


 足が地面に着く前に風みたいに進む。


 すげぇ。


 めんどくせぇ移動も楽勝じゃん。


 道の先に、あっという間に、石の城壁で囲まれた街が見えてきた。


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