回るメリーゴーラウンド
だぶりゅー
回るメリーゴーラウンド
ある街の一角に、閉園した遊園地がある。昔は多くの客で賑わい、そこそこ立派なジェットコースターにお化け屋敷やら観覧車など、まあ一通りのものは揃っていた。
廃れた空気の中で、真ん中に位置しているのがメリーゴーラウンドである。もうペガサスの乗り物も日に焼けて塗装が白くなり、馬車の乗り物の金メッキも剥がれ内側の金属が錆び付いている。中心の柱は壁紙が剥がれこちらも鉄骨がところどころ剥き出しになっている。
僕は小さい頃ここに遊びに来たことがあって、もちろんメリーゴーラウンドにも乗ったことがある。サーカスのテントのように広がる屋根にはLEDの装飾が付き、夜帰り際に側を通ると煌めく馬たちが見えたものだ。
閉園したはずの遊園地になぜ来ているか。本来は不法侵入もいいところであるし、何かしらのイベントがあったりする訳でもない。ただ、ここに来てベンチに1人座り、メリーゴーラウンドを前にしてボーッとしていると日常から離れられる気がするのである。
目を閉じれば、周りに駆けている子供たちや風船を持った着ぐるみのキャラクター、ポップコーンや飲み物にお土産を売る小店、そんなが見える。
スピーカーから流れ出る音、子供の騒ぐ声、メリーゴーラウンドの回る音…
その日はあまりにもはっきりと音が聞こえるものだから、瞑っていた目を開けるとどう言うことだかメリーゴーラウンドが回っているではないか。
__君は長い夢を見ていたね
客が乗り換えるために動きが止まった時、ふと一頭の馬が声をかけてきた。
__昨日はどんなことがあったんだい。よほど疲れていたと見える。
「昨日は…」
私が話し始める前にメリーゴーラウンドは動き出した。
また止まると、私は話しかけた。
「昨日は葬式でね…ちょっと心が寂しくなってしまったんだ。」
__そうかい、それはなんとも。お気の毒にと言うのも難だな。
動く。止まる。
星空を映したような角のユニコーンも話に交じってきた。
__キミはよく頑張っているさ。1日ぐらいゆっくりしたって構わないよ。
__1日とは言わず、もう少しゆっくりしてったって構わないさ。
客が乗り降りする。
今度は雪が積もっているのかと言わんばかりの白馬も交じった。
__疲れた時は休むといいさ、でもここは楽しむところだ。現実なんていったん忘れて、子供の頃に戻ってパーッと楽しみな。周りのことなんて気にしなくてもいいのさ。
静けさが戻り、またしばらくすると跨ってみようと言う気が起きたので、他の客と一緒にメリーゴーラウンドに乗ることにした。
__そうさ、それでいいのさ。上に下に、身を任せて。流れる景色を楽しむんだ。
初めに話しかけてくれた馬に乗ったから、また話しかけてくれた。
一周、また一周、もう一周。
「こりゃあいい、久しぶりに乗ったが、風が心地いいね。」
__もっかい乗るかい?
「ああ。」
こうしてメリーゴーラウンドは回り続ける。一周も、二周も、何周も。
僕の気が晴れるまで、ずっと回り続ける。
回るメリーゴーラウンド だぶりゅー @Daburyu-28
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます