第29話 梅下の遺物、白蓮の種
内裏の御花园には、純元皇后生前所愛の古梅樹が立っていた。薫子が蓮に手を引き、梅の根元を指した——蓮が見つけた紙片に記された「梅の木の下」は、この樹のことだった。「清和さん、少しだけ土を掘ってください。力を入れすぎると、遺物が壊れるかもしれません」
清和が小さな鎌で土を解き、すると木製の箱が見えた。箱の表面には純元の家紋「藤の花」が刻まれ、錠前には銀の鍵穴があった——これが前に嵯峨野の洞窟で見つけた銀の鍵に合うものだった。薫子が鍵を差し込むと、カチッと音がして箱が開いた。
箱の中には、乾いた「白蓮の種」と巻物が入っていた。巻物を広げると、純元の筆跡で「白蓮の種を炭火で炙り、漆黒の香の源に撒けば、毒香を根絶やすことができる」と記されていた。温香雅が種を取り上げ、鼻先で嗅いだ。「この種は十年以上も保存されていますが、香りがまだ残っています!浄化香に混ぜれば、効果が十倍になります!」
「北門の防香陣を強化しましょう!」薫子が決断し、陵子に京染の防香布を持たせて北門に向かわせた。清和が式神を北門の外に放ち、忠盛の大軍の動きを監視させた。「式神からの情報です!忠盛が二つの黒き香器を設置し、兵たちに『一時間後に香を散布する』と指令を出しています!」
温香雅が内薬司に急行し、白蓮の種を浄化香に混ぜ始めた。薫子と蓮がそっと手伝い、蓮が種を触れた瞬間——種から薄い青光が漏れ、浄化香の香りが一気に強くなった。「蓮様の力が種を活性化させたのです!」温香雅が驚いて叫び、薫子が蓮の額を撫でた。「你が母さんの遺物を引き寄せているのだね」
その時、御花园の隅から「平氏の香り」が微かに漏れた。薫子が気香で感知すると、黒衣の密使が内薬司の方向に潜んでいた——彼は温香雅の浄化香を破壊しようとしていた。「清和さん!内薬司を守ってください!」
清和が「束縛符」を握り、密使の背後から近づいた。密使が火打ち石を取り出し、浄化香の原料を燃やそうとした瞬間、清和が符を撒き、密使の体を固定した。「忠盛は你に何を命じた?漆黒の香の散布方法を話せ!」清和の厳しい問いに、密使が震えながら白状した。「香器は……北門の城壁に固定し、満月の光が当たったら香を散布する……それだけです!」
内薬司で浄化香の調合が終わると、薫子たちは北門の防香陣に向かった。陵子が京染の布を城壁に張り巡らせ、温香雅が浄化香を香炉に撒いた。すると、布と香りが一体化し、青い光の結界が北門の外を覆った。「これで、漆黒の香が侵入するのを防げます!」陵子が安堵してため息をついた。
蓮が白蓮の種の殻を握り、北門の外を見つめた。「薫子さん、平氏の人たちの気持ちが……苦しそうです」彼女の気香が、忠盛の兵たちの「恐れと無念」を感知していた。薫子が蓮の手を握り、「彼らも平氏の執念に巻き込まれた人たちです。でも、内裏の人々を守るため、我々は戦わなければなりません」
夕暮れが迫り、満月が夜空に浮かび始めた。式神が急いで報告する:「忠盛が香器のスイッチを入れました!漆黒の香が北門の外に広がり始めています!」薫子が城壁に近づき、気香で結界の状態を確認すると——漆黒の香が結界に当たり、青い光が微かに揺れた。「結界が撑えています!ただ、香器の力が強いので、長時間は持たない可能性があります!」
温香雅が追加の浄化香を撒き、「白蓮の種の効果で、結界の強度が上がっています!ただ、香器の源を壊さなければ、毒香は止まりません!」清和が刀を抜き、「今夜の満月が最高潮に達する前に、香器を破壊しましょう!我が式神が兵の注意力を引き、你たちが香器に近づく機会を作ります」
薫子が蓮を陵子に託し、「蓮様を守ってください。我々が帰ってくるまで、結界の中にいてください」蓮が小さく頷き、白蓮の香袋を胸に抱き締めた。「薫子さん、気をつけてください」
薫子、清和、温香雅の三人が北門の門戸を開け、外に進んだ。満月の光が地面を照らし、遠くに忠盛の大軍と二つの黒き香器が見えた。漆黒の香の苦みが風に乗って近づき、結界の青い光がさらに揺れた。今夜、この香器を破壊できるか否かが、内裏の存亡を分けることになる——薫子の手に握った白蓮の種の殻が、微かに熱を帯び始めた。
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