第26話 中宮の幻香、蓮華毒の痕跡
中宮の蔵書庫は、薄暗い燈火の光が古い書物の上をゆっくりとなぞる。薫子が澄子に指図して皇后の香器関連の記録を探し、清和が式神を使って書庫の隅々まで警戒させていた。「皇后が『黒き香器』について記したものがあれば、弱点が見つかるはずです」薫子が巻物を一冊ずつ開くと、その中の一冊に「幻香の調合術」という見出しがあった。
「これだ!」巻物を広げると、皇后が「幻香+冥香」を混ぜて敵を混乱させる術法を記していた。さらに読み進むと、「此の香に蓮華毒を混ぜれば、嗅ぐ者は三刻みで意識を失う」という恐ろしい記述があった。薫子の気香が突然動いた——書庫の外から、巻物に記されたのと全く同じ「幻香の香り」が漏れてきた!
「清和さん!外に異常があります!」薫子が手に持った燈火が震え、清和が即座に「結界符」を撒いた。符の光が書庫の入口を覆い、幻香の侵入を一時的に防いだ。「澄子さん、この巻物を持って温香雅さんに急報してください!幻香に蓮華毒が混ざっている可能性があります!」
澄子が巻物を抱えて走る間、薫子と清和は書庫を出て中宮の御殿に向かった。御殿の戸は半開きになっており、黒い煙が中から漏れ出していた。「これは皇后が残した幻香だ!」薫子が袖の京染の布を取り出すと、布は紫がかった薄い色に変わった——蓮華毒の反応だ!
その時、陵子が月光院から急いで戻ってきた。彼女は蓮を僧に託し、内裏の危機を知って駆けつけたのだ。「薫子さん!月光院の周りに平氏の密偵の気配が消えました——彼らはこっちに来たのでは?」陵子の言葉が当たり、御殿の床に信吉の指紋が残っているのを発見した。
「信吉がここに潜入した!」清和が指紋を確認し、「彼は皇后の遺物、つまり純元の遺物を探していたはずです。幻香は、彼が見つからないように周囲を混乱させるために燃やしたのかもしれません」
温香雅が澄子に連れられて趕来し、銀の匙で幻香の煙を採取した。「確かに蓮華毒です!少量でも嗅ぎ込むと頭痛やめまいが起こり、多量では意識を失います!解毒剤は『薄荷の葉』と『桔梗の根』を混ぜたもので、内薬司に用意があります!」
「陵子さん、御殿の入口を京染の防香布で封鎖してください!清和さん、式神を使って幻香の拡散範囲を調べてください!」薫子が指令を出すと、三人は速やかに行動を開始した。陵子が布を張り巡らせ、清和の式神が中宮の周囲を飛び回り、温香雅が解毒剤の配布を指示した。
幻香の煙が徐々に薄れ始めた時、薫子の気香が蓮からの「不安な香り」を強く感知した。彼女の額から漏れる純元の香りが、幻香の影響で乱れていたのだ。「蓮様……」薫子が手を胸に当てると、蓮の声が心の中で聞こえた——「信吉さんが月光院に来ます……危ない……」
清和が式神からの情報を受け取り、顔を青ざめた。「薫子さん!式神が月光院の近くに信吉の気配を捕捉しました!彼は蓮様を狙っています!」
中宮の御殿の幻香は封じられたものの、新たな危機が月光院に迫っていた。薫子が陵子に「御殿の防衛を任せます」と託し、清和と温香雅と共に馬を連れて月光院の方向へ疾走した。夕暮れの嵯峨野の山道に、蓮の救いを求める足取りが響き渡り、信吉の悪巧みがまだ終わっていないことを悟った。
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