第25話 月光院の急報、香陣の乱れ
蓮の隠れ家から漏れる「不安な香り」が気にかかり、薫子は早朝、信頼できる侍を月光院に派遣した。正午すぎ、侍が慌てて内裏に戻り、額の汗を拭きながら報告する:「薫子様!月光院の僧が言うところによると、昨夜、蓮様の周りに『平氏の香り』が近づいたそうです!幸い僧たちが簡易な防香陣を布けたので、襲撃は避けられましたが……蓮様が『母さんの香りが苦しい』と泣いていました!」
薫子の心が一緒に締まった。蓮が感じる「母さんの香り」は、純元の遺物を持つ忠盛が近づいた証だった。「清和さん、月光院に式神を増やしてください!忠盛が蓮様を見つけて、黒き香器の力を高めるために使おうとしている可能性があります!」
清和が即座に「守護式神」を放ち、式神の羽音が内裏の空を掠めた。「式神は月光院の周りに警戒線を張り、一歩も離れません。ただ、忠盛の兵力が五百人と聞いたので……もし彼が月光院と内裏を同時に攻撃したら、我々は二正面で戦わなければなりません」
その時、温香雅が香事殿の防香陣を調整しながら、小さく驚いた声を上げた。「薫子さん!防香陣の香りが乱れています!本来は青い光を放つはずが、今は薄い赤みがかっています——何かが陣の力を弱めています!」
薫子が陣の中心にある香炉を確認すると、香炉の灰の中に細かい「香印の粉」が混ざっていた。「これは……平氏の密使が残した『乱れ香印』です!この粉が香炉に混ざると、防香陣の効果が半分になります!」她が気香で周囲を感知すると、香事殿の柱の隙間から「平氏の香り」が薄く残っていた——密使が夜陰に潜入して陣を妨害したのだ。
清和が腰の「浄化符」を撒き、符の光が香炉を包み込んだ。赤みがかった光が徐々に青に戻り、温香雅が安堵してため息をついた。「幸い発見が早かったです。もしこのまま十五夜になったら、漆黒の香が内裏に侵入しやすくなっていました」
午后、帝の寝室で緊急会議が開かれた。帝が薄い布団に座り、貴族たちに話しかけた:「忠盛の脅威は内裏の存亡にかかっている。今後、薫子の指令は朕の指令と同じものとし、貴族たちは全力で協力せよ」
貴族たちが一斉に頭を下げ、「遵います」と答えた。其中一人の老貴族が進んで言った:「薫子様、私の領地には弓の名手が多数います。十五夜までに内裏に呼び寄せ、北門の防衛に当てさせましょう」
他の貴族も続けて協力を申し出、「私の家臣で薬草を知る者がいます」「船を用意して、長崎の港の動きを監視します」と話し合いが活発になった。薫子が貴族たちに礼を言い、「皆様の協力があれば、必ず忠盛を打ち破れます。十五夜の満月の夜、内裏の平和を共に守りましょう」
会議が終わった後、澄子が薫子に密かに話しかけた。「薫子様、皇后の旧蔵の『香器解説書』に、黒き香器の弱点が記されているかもしれません。中宮の蔵書庫にその本があったはずです——今夜、一緒に探しに行きませんか?」
薫子が頷いた。黒き香器の弱点を知れば、十五夜の戦いで有利になれる可能性が高かった。「今夜の丑の刻(午前2時)に中宮の蔵書庫で待ち合わせましょう。清和さんにも同行していただき、式神で周囲の警戒をさせます」
夕暮れ時、九州の長崎から密偵が新たな情報を送ってきた。「忠盛が明日、黒き香器を内裏の方向に運び始める計画です!五百人の兵は三隊に分かれ、北門を主攻撃します!」
薫子が情報を確認し、清和と温香雅に指示を出した。「清和さん、北門の周りに『結界符』を追加で布けましょう。温香雅さん、漆黒の香の解毒剤をさらに増やしてください。明日から、内裏は完全な厳戒態勢に入ります」
夜が深まり、内裏の灯りが一つ一つ消えていく中、薫子が香事殿の窓から月光院の方向を見つめた。式神から送られる情報によると、蓮は僧の手伝いで簡単な「香り感知の練習」をしていた——純元の血を引く彼女が、やがて戦いに関わることを避けられない運命だった。
その時、中宮の方向から澄子の小さな声が聞こえた。「薫子様、蔵書庫の準備ができました!」薫子が深く息を吸い、清和と共に中宮に向かった。黒き香器の弱点を見つけるこの夜が、十五夜の勝利のカギになるかもしれない——そう思いながら、彼女の足取りは力強かった。
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