第47話 16-3


 顕如だが石山本願寺内で重臣衆と何度も会談をしていた。下間頼総を追放した後だが顕如と歳が近い若手の下間頼簾、下間頼龍、下間仲孝らを取り立てたのである。 彼らと今後の本願寺の方向を決めようとしていたのである。

「見事な茶器と軸です。信長公も喜ばれるでしょう」

 頼龍が目の前に置かれた茶器と軸掛けを見ながら言った。

 織田信長だが足利義昭の求めに応じて京に屋敷を建てたのである。義昭だが信長が京に居ないと三好三人衆にいつ攻め込まれるか分からず恐ろしいのでと頼んだのである。信長だが義昭の求めに応じ突貫工事で春には完成見込みであった。

 顕如だが信長の新御殿の完成を祝うために茶器と軸掛けを送るのである。1572年の春、顕如は表向きは信長と和睦する事にしたのである。


 信長だが京を守る前線の城として淀川の北側は摂津高槻城、淀川の南側も交野城を抑え浅井長政、朝倉義景に注力するため石山本願寺と単独で和睦するのに応じたのである。

 ただし、信長は三好三人衆の三好長免、長虎親子、岩成友通と篠原長房との和睦は拒否したのである。

 和睦の条件は三好三人衆が包囲する摂津中島城の細川昭元と河内高屋城の畠山秋高、高政兄弟の助命と城の安全の確保を求めたのである。信長だが室町幕府将軍、足利義昭の家臣に手を出してはならないと主張したのである。

 

 摂津と河内を抑えたい篠原長房や三好三人衆からすれば呑めない条件であったが長房と三好三人衆だが妥協はして細川昭元、畠山秋高、高政兄弟の安全は約束したのである。


 摂津だが荒木村重、中川清秀が信長に味方し松永久秀も良く分からない動きをしており石山本願寺が単独で信長と和睦に応じた手前、三好三人衆や篠原長房も中途半端な形であったが和睦ではなく信長の求めに応じてまずは停戦したのである。


「頼龍。信長公に挨拶した後に花の御所に行って将軍様(足利義昭)にもしかと挨拶して親交を深めて欲しい」

 勘如は頼龍に語り掛けると

「はい。必ずや将軍様の心を読んで我々に振り向いてくれるよう掴んできます」

 頼龍はにこやかに返したのである。


 頼龍たちは茶器と軸掛けを持って京に向かったのである。


 そのような事情のため細川昭元の摂津中島城の監視をしていたお菊とおいちは4月も後半になると任務を解かれたのである。

 表向きの理由は昨年と同じだが浄土真宗を起こした親鸞聖人の行事が5月に集中するので本願寺の巫女としてお菊とおいちに活動するよう求められたのである。


 昨年と同様であるがこの時期は年末と正月と同じく門徒衆が布施だけでなく行事に参加するため本願寺に多数訪れるのである。

 ただ昨年の年末や今年の正月と違うのは本願寺が信長と和睦し信長との戦いが収まるのではと感じた門徒衆が増えたのか以前のような緊張感は少し和らいでいた。本願寺の中も似たような雰囲気であった。


 一郎と小次郎も軍の訓練から今回は親鸞聖人の行事の支援に回されていた。

「ありがとうございます!津島なんですか?あたしたち、近いですよ!」

 千代目だが布施を持って来てくれた尾張からの商人の夫婦と嬉しそうに話していた。一郎も一緒に懐かしそうに何か話をしていた。


「尾張津島から来てくれたって」

「信長公の領土じゃん」

「千代目と一郎は尾張だからね。地元の方が来たんで懐かしいって盛り上がってるんじゃないかな。でも千代目と一郎が一番安堵してるんじゃないかな」

 お菊はこずえと話していた。

「尾張や三河は門徒衆が多いけど信長公が本願寺と揉めたから肩身が狭いんだよ。でも今回、本願寺と信長公が和睦したので以前よりは堂々と動けるようになったらしい」

 平助も横から口を出した。

「長島願証寺はどうするのさ?」

「信長公は願証寺を放棄しろって言ってるらしい」

「延暦寺と同じだ」

「さすがに願証寺は断ってるらしいけど」

 平助が小声で言うと

「じゃあ延暦寺みたいにまた戦になるよ?」

 お菊が心配そうに言うと

「それはここの偉い人が決める事さ。俺らは関係ない。さ、仕事だ、仕事」

 そう言うと平助は黙々と布施に持ち込まれた品物を蔵に運んで行ったのである。


 ところが本願寺の親鸞聖人絡みの行事が終わろうとする5月の暮れに突如、松永久秀の軍が織田方の安見氏の守る交野城に攻め込んで来たのである。久秀だが昨年の高槻城の戦いの最中も交野城に攻め入るが失敗している。安見氏は元は久秀の家臣で久秀が信長に付すと一緒に信長の配下になったが久秀が再度三好三人衆に戻ってもそのまま信長の家臣として活動し久秀と敵対してしまったのである。

 そして本願寺、篠原長房と三好三人衆に松永久秀を撃退するため佐久間信盛と明智光秀の軍を向かわせると連絡が織田側から入ったのである。


 本願寺は信長と和睦している。長房も三好三人衆も信長とは停戦状態である。

 そこで監視名目で兵を送る事にしたのである。

 三好三人衆だが長房と三好長免、長虎親子が兵を出し本願寺は下間頼廉を大将に心眼、弥生、マリアや金閣銀閣、お菊、小次郎、おいちら雑賀衆とお凛の堺衆が動いたのである。


 石山本願寺を出てしばらく、交野城を包囲していた松永久秀だが佐久間信盛、明智光秀の軍が向かっていると聞くやすぐに交野城の包囲を解いて拠点の信貴山城に撤収してしまったのである。

 これで戦は避けられたかと思われたが佐久間信盛、明智光秀の軍だが交野城からそのまま東高野街道を南下し河内高屋城に進軍し始めたのである。


 高屋城だが半年近く幕府、織田方の畠山秋高、高政兄弟が籠城していた。長房、三好三人衆もそれに対峙すべく三好康長と三好義継を配置し互いに半年近く睨み合っていた。


 本願寺だが信盛、光秀の軍と戦う気はなかったが万が一に備えて信盛、光秀を追うように南下し高屋城を目指したのである。

 ただお菊、おいち、お凛は半年にも渡る野営に恐怖していた。高槻城の戦いで風呂に入れなず野営するのが苦い思いになっていた。

「うわぁ。また野営やって」

「半年間もようやるわ」

 おいちとお凛がぼやいたが

「今回は大丈夫よ。安心して」

 弥生が横から入ったのである。

「へ?」

 お菊たちは変な声を出したが。


 幕府は義昭の命で畠山秋高、高政兄弟の支援に三淵藤英を派遣し城内に物資を搬入するなど補給路は確保していたがこちらも三好康長、三好義継への攻撃は戦力不足を理由に避けていた。

 康長、義継の部隊も高屋城を落とすのは戦力不足と判断しこちらも包囲もせずに監視に留まりこれが互いの長期の睨み合いの表向きの理由になっていた。

 

 佐久間信盛と明智光秀の部隊は高屋城の近くに到着すると康長、義継の抵抗も受ける事無く畠山秋高、高政兄弟の高屋城に入ったのである。細川藤英の部隊と高屋城内で合流するもそのまま動かなかったのである。

 

 信盛、光秀の部隊を追い掛けていた長房、三好三人衆、本願寺の部隊も康長、義継の軍が拠点とする陣に入ったのである。

 康長と義継の陣だが元々あった寺を陣としていたので設備は揃っており高槻城の時のような野営とは違い楽であった。だから長期の対峙も問題なかったのである。お菊たちは安堵である。

 康長と義継の陣も長期の野営からか戦の最中と思えないだらりとした雰囲気であったが。


 数日後だが本願寺の面々だけ高屋城に挨拶に向かう事になったのである。

 本願寺だが信長と和睦しているからである。光秀と顔見知りの面子を中心として心眼、弥生、お菊、おいち、お凛らが選ばれたのである。全員、甲冑などは着ずに護衛の簡易な武器のみで高屋城に向かったのである。

 お菊だがおいちだから将軍義昭を巡って変な動きがあるのは聞いていたが一応弥生たちにも聞いたのでる。

「心眼殿、弥生さん。なんでこんな長丁場になってるんです?」

 お菊が聞くと

「そうね。一言で言えば誰が味方で敵かが分からないのよ」

「そうなんですか?」

「味方も敵も混乱してるわね。ここ高屋城は最たる城かしらね」

「はぁ」

 お菊はおいちが言っていた義昭が信長から離反しようとしているを思い出したのである。

「あのう。あたしたちが挨拶に行ってどうするんですか?」

 お菊が聞くと

「追いかけておいて変かもしれないけど一応味方だからよ。」

「あと高屋城内に入って雰囲気だけを感じれば良い。後は我々に任せろ」

「はぁ」

 弥生と心眼のよく分らない返しにお菊は変な声を出したが。


 高屋城だが心眼、弥生、お菊、おいち、お凛らをあっさり受け入れたが城内に入るとお菊は更に拍子抜けしてしまった。

 明智光秀も佐久間信盛も今回は来ていないと言う。

 代理に光秀は溝尾茂朝を、信盛は嫡男の信辰を代理で送り込んでいた。

 高屋城内には緊張感は無くまったりしていたのである。茶菓子が振る舞われ敵であるはずの畠山秋高、高政兄弟、三淵藤英、茂朝、信辰らと和やかに談笑が行われた。


 当たり障りの無いどうでも良い話などを彼らはしていた。

 畠山秋高、高政兄弟、三淵藤英らは将軍の家臣なので味方になるのか。茂朝、信辰らは敵のままなのかなどお菊は変に考えていたがだんだんなんか嫌な大人たちとも感じたが。


 お菊たちは春のうららもありだんだん眠くなってきたのである。

 でも畠山秋高、高政兄弟を見ているうちに気付いたのである。


 畠山秋高、高政兄弟だが心眼、弥生らと穏やかに話していたがなんか落ち着かないように見えたのである。

(何だろう?気のせいかな?)

 お菊もあまり深く考えずにいたが。


 挨拶も無事に終わり心眼、弥生らとお菊は高屋城から三好康長、三好義継の陣に戻る事になったのである。

 お菊はその時感じたのである。

 畠山秋高、高政兄弟の正室も見送りに顔を出したが彼女たちの目は敵意があったのである。険しい顔で心眼、弥生、お菊らを見ていた。

(何だろう?)


 帰路だが

「奥方様怖かったなぁ」

 おいちが声を上げた。

「なんで?将軍様が本願寺に付くの嫌がったみたいに感じたけど」

 お菊が言うと

「そやね。彼女らは信長公の養女なんやろうね。旦那の手切れは許さないんやろうね」

「信長公の養女?」

 お菊は驚いたが。


 信長だが摂津中島城の細川昭元、高屋城の畠山秋高、高政兄弟の正室に自分の養女を送り込んで嫁がせたのである。畠山秋高、高政兄弟は正室に信長の気配を感じ恐れていたのである。

「立派な正室様やな!まぁ、畠山秋高、高政兄弟が信長公と手切れになって将軍様と組んでもあの兄弟、優しそうやから磔にするとか手荒な事はしないやろうけど織田に送り返されるかな?」

 おいちが言うと

「ほんま武将の娘は大変やな」

 お凛も感心同情するように言った。

「信長公怒るよね」

 お菊が言うと

「いや、そんなの承知やろ。生きて帰って来たらすぐ誰かに嫁がすだけやね」

 おいちが返すと

「アンタも他人事じゃないと思うけど」 

 お凛が言うと

「そやな。だからウチは日々後悔せず好きに生きるだけやね!」

 おいちが返すと

「あんた時々良い事言うね。立派だよ。感心したよ」

 お菊は真顔で返したのである。


 畠山秋高、高政兄弟だが正室の出来が良かったのか長房、三好三人衆だけでなく足利義昭にとっても予想外の事態を起こすのであるが。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る