第46話 16-2

 去年も石山本願寺は細川昭元の籠城する摂津中島城の攻略を目論み脅す程度に攻撃しているが昭元は籠城に徹していた。この城は小さいが野田福島の戦いの時に義昭の陣として使われる予定があり鉄砲に備えて強化工事が行われ硬い分厚い土塀で覆われた城であった。力押しは危険であった。

 お菊だが雑賀衆の船でおいちと淀川の上のからこの城の監視である。しかもたった1隻での監視である。おいちもお菊も事情は悟っていたが。

「うわぁ。ヒマ過ぎるわ」

「ほんと。しかも夜は監視しなくて良いってあんまりだよ。夜になったら兵糧入れられちゃうじゃん。監視もへったくれもないよ」

 おいちとお菊はぼやいた。

 

 細川昭元だが三好義継が信長に味方し不在だった時は三好三人衆の名目上の大将であった。今は義継が三好三人衆の元に戻って昭元のお役は終わっている。しかも昭元は将軍の義昭に付いて一応、三好三人衆の敵であった。それでも昭元には手荒な真似は出来なかったのである。

 昭元の父は室町幕府の管領の細川晴元である。三好一族をここまで強大にした三好長慶の主君である。その長慶も何度も逆らう主君の晴元に手を焼くも傷つけるような事はしなかった。長慶を継いだ三好三人衆も同じで晴元の子の昭元には手荒な真似は出来なかったのである。


「ひたすら城を放棄するのを待つて」

 おいちがあくびをしながら返した。

「あ~退屈!」

 おいちとお菊は船の甲板で甲冑も着ずにだらしなく横になっていた。

「それにしても凛凛のやつ!船が嫌やって命令拒否って何やねん!」

 おいちば膨れてた。

「凛凛って船とか水練が嫌いなんでしょ?仕方ないよ。暇つぶしで本持って来たよ。読もうよ」

 お菊だが本を何冊か持って来ていた。おいちに手渡したが

「源氏物語かいな。何度も読んだわ。もう飽きたわ」

「何度読んでも面白いじゃん。頭の中だけでも現実離れできるじゃん」

 お菊が返すと

「現世はもっと複雑やもんな~。お菊と小次郎とか!」

 おいちがにやにやしながら言うと

「なにおぉ!」

 お菊が膨れると

「まぁまぁ。源氏物語でも読んで現実を忘れて頂戴な!」

 おいちが軽く返したが

「まったくもう!それにしてもなんでみんな胡散臭いのばかりなのかな?松永久秀や荒木村重殿とかじゃなく岩成友通殿までさ!」

 お菊は膨れながら言った。

 

 三好三人衆、三好長免、三好長虎親子、岩成友通のひとりの岩成友通だが突然、織田信長の配下になったのである。

 もはや誰が敵か味方かよく分らない状態であった。


「ほんまやな。胡散臭いのばかりやね。なんか噂やけど。篠原長房様や三好三人衆、本願寺は将軍様(足利義昭)と組むかもって」

「え?なんでさ?先月まで戦ってた相手だよ?」

 お菊は突然の展開に唖然としたが

「将軍様と信長公が仲違いしてるらしいわ。信長公の延暦寺の焼き討ちで幕府も中で割れてるらしいわ。信長公みたいな野蛮な輩と組むなって言ってる奉公衆がおるみたいやで。だからあそこに居る昭元様の件も穏便にって」

「うそでしょ?ちょっと勝手過ぎない?」

 お菊は大人たちのあまりの勝手さに呆れたが

「河内高屋城も畠山高政公、秋高公兄弟が籠城して将軍様の奉公衆が支援してるやん。本願寺側も三好義継様、三好康長殿が対峙してるけど互いに戦もせずに睨み合ってるだけやって!変やろ?」

「確かに」

 高屋城の戦いだが戦いは起こらず互いに半年もにらみ合いをしていた。

 しかも高屋城の支援に行った奉公衆だが信長に援軍の支援も求めなかったのである。ただ三好義継、康長と睨み合ってるだけである。

 奉公衆の大将だが三淵藤英と言う奉公衆の高官で義昭の将軍擁立に貢献、藤英の弟は後に明智光秀の娘の珠が嫁ぐ細川忠興の父の細川藤孝である。

 三淵藤英は奉公衆の中でも信長の延暦寺焼き討ちに批判的と噂されていた。


「じゃあ将軍様が長房殿、三好三人衆、本願寺と組んだら今、高屋城で戦ってる奉公衆が味方になるの?中島城に籠ってる人(細川昭元)も?」

「そ!」

「敵はじゃあ信長公だけ?」

「そ!」

 おいちは軽く返したが。

 お菊は少し黙った後、再度おいちに聞いた。

「まじ?」

「まじ」

 おいちはにこりと笑って返したが。

「将軍様って信長公に助けてもらって将軍になったんでしょ?なんで?」

 お菊は呆れたが

「多分、将軍様は信長公を何でも言う事を聞いてくれると勝手に思ったんじゃないかいな?アンタがウチを頼るみたいな感じかいな?」

「はい?あんた何を言ってんの?」

 おいちがお菊に腕組をしたがお菊はおいちが何を言ってるのか分からないと口を尖らせたが。

「ま、信長公は将軍様をお飾りとしか思ってなかったんやろうな。将軍様は自分でやりたいけどやらせてくれない信長公が嫌になったんやろうな」

「何それ?男なのに女々(めめ)しくない?」

 お菊は呆れたが

「ま!ウチはアンタのそう言う意外と気が強いとこと うぶ な振りが好きやけどね!」

「うぶ な振りは余計!あたしは清く正しく美しくなの!」

 お菊は膨れた後にしばらく考えていたが突如

「おいち。船を降りようよ。馬鹿らしいよ」

 お菊だが呆れて船を降りると言い出したのである。

「そやな。船長!後は頼むわ!」

 おいちが言うと

「姫様!お菊殿!一応これは本願寺の命ですので!お仕事と割り切ってくだされ!まだ姫様の言った通りになりそうですがそうなるとも限りませんので!」

 船長が変な言い回しをしながら慌てふためいたが

「嫌だ!降りる!」

 お菊も下がらなったのであるが。


「う~ん。参ったな。そうだ!姫様!お菊殿!釣りでもしてのんびりお仕事をしましょう!」

 船長がお菊とおいちに釣りを勧めたのである。

「釣り?へぇ。どれどれ」

 お菊は釣竿を渡された。お菊だが釣りは初めてで興味を持ったのである。

 しかし始めると

「なかなか掛からないね」

「そりゃそうやで。お魚さんも捕まらんよう考えてるがな」

「でも時間潰しになるんだね」

「そうそう。しゃあない。のんびりしょ。あとアンタ小次郎と京に行く予定が潰れてもうたって聞いたけどアンタも運がないな」

「別に来年でも良いよ。こんな馬鹿げた戦で死にたくないよ」

「そやな!生き残ろうや!なぁなぁ!ところで前も言ったけど今年の夏こそ雑賀の海に来んか?小次郎も連れて来ても構わんで!すごいきれいな海と砂浜があるんやで!」

 おいちは嬉しそうに言った。

「小次郎は連れて行ったらまずいでしょうが。男だよ」

「別にええやん。裸の付き合いやで」

「銭湯や温泉じゃないのよ?あんたの神経の太さは感心するわ。まぁ小次郎が断るかな。意外と恥ずかしがりだから」

「でも着物着たまま泳げんやろ?溺れるで」

「そうだけどさ。あ、あんたも彼氏見つければ良いじゃん。でも実はいるんじゃないの?あたしたちに内緒なだけでさ」

「あたしはこう見えても姫なんやで。父ちゃん(鈴木重秀)が行けって言うたら行くだけや。だから残念やけど男はおらん。あ~でも好みじゃない相手だとキツイわ」

「そうだよね。あたし横に大きい人苦手だからそんな人とはちょっとね」

「ウチも苦手やな!横で油断して寝たら圧し潰されそうやもんな。毛深いのもキツイな。そうや!ズバリ聞くな。小次郎はアンタ的に良しなんかい?」

「おいち、難しいこと聞くね。性格はもっと積極的にお願いしたいけど大丈夫かな?」

 お菊が正直に返すと

「さすがお菊!優しいな。いやあ、弥生さんお菊の好みをよく見抜くな!あ!ウチもアンタは大丈夫やで!アンタが男だったらな!」

 そう言うとおいちはお菊に抱き付いたのである。

「?そ、そうなの?よく分らないけど?」

 お菊は戸惑ったが。

「そや!凛凛のカナヅチも直そうや!海で楽しめんで!」

「凛凛って船に乗るのも嫌だって言ってたからよっぽどだよ」

「もったいないな。バーンと披露したら男なんてアホやからすぐ凛凛に寄って来るで。前に坊の風呂で凛凛のお尻と胸を拝んで触ったけどお菊よりええもん持ってるのに」

「うるさい!余計!」

「凛凛ウチにはちょいと及ばんけど見た目もええやん。男に人気あると思うけどな」

「あのさ、おいち、内緒だよ。凛凛だけどお父さんが若い娘の人売りしてるから男を嫌いなんだって」

 お菊は小声で言った。

「ほんまかいな!それはキツイな」

「そっとしてあげようと思うけどさ」

「世の男って表と裏の顔がひどい奴多いな。だからこんな変な戦ばかりになるんやろうな。それにしても凛凛もったいないわ。アンタが弥生さんに教わったみたいにウチらが教えてあげよか!小次郎呼んでや!」

「だから呼べるわけないでしょうが!」

「あはは!赤くなってる!もう、大人なんだから うぶ な振りすんな!」

「このおぉ!ん?」

 おいちといがんでる間だがお菊の釣竿の釣り糸が引っ張られたのである。

「よし!ゆっくり引いてくださいね!」

 船長が飛んで来るとお菊は船長の言う通り糸を引くと魚が釣れたのである。

「あらら。小さい」

「放してあげると大きくなって今度帰りますよ」

「お魚さん。大きくなって帰っておいでよ」

 船長の言う通りお菊は小魚を川に戻したのである。





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