第35話 12-3
「法華宗(日蓮宗)の眼心であるが何の御用で?」
心眼は冷静に織田の兵に偽名で対応した。
「信長様から坂本から出る船はすべて調べろと言われてる。比叡山の者だったらすまんが死んでもらう」
無骨そうな腕の筋肉が隆々とした足軽大将は冷徹に言った。
「我々は法華宗の者として信長公に従うように進言するため坂本に行っただけだが?」
「ほう。橘花とやらに会ったのかい?」
「そうだ」
「見え見えの嘘はやめな。法華宗は信長公に最初から従っているがな?それともこれはあなたの独断の判断かい?」
「そうだ。これは私の独断の判断だ。延暦寺を焼かせないためだ」
「御仏を祀るその心構えは良しだな。しかし一人の勝手な判断で戦は負ける事もあるさ。あなたが坂本に向かう時に乗ってなかった女は坂本の連中だな?」
「違う。彼女たちは私の配下だ」
心眼は足軽大将にしらを切ろうとしたが
「さっきの堅田衆の船頭はこちらの間者(かんじゃ スパイ)だ。堅田衆は俺の主君の十兵衛様(明智光秀)や左馬介様(三宅秀満)と昔から翻意なんだよ。守山の港から船に乗って行きと帰りで女の頭数が違うってすぐに教えてくれたぜ。あとあなたたちをここへ誘導するためにわざと検閲の目をくぐらせたんだよ。すべてお見通しだ。観念しな」
「く!」
「あなたは石山本願寺の者だろ?どうせ坂本に行って延暦寺と共同戦線の話でもしたんだろうよ。草津の奥の石部城の六角のジジイ(六角義賢)が近江の門徒衆を扇動して志村、小川、金森の砦に門徒衆が集まってると信長様はお怒りだ。あなたは信長様のとこに連れて行く。せいぜい可愛がってもらえ。連れて行け!おい!新入り!女たちは斬り捨てておけ!」
女たちは悲鳴を上げお菊も動揺した。
「甚兵衛様!殺す前に楽しんでも良いですかい?」
新入りの傭兵は足軽大将の男に嬉しそうに聞くと
「勝手にしろ」
足軽大将の甚兵衛はぶっきらぼうに答えた。
(迂闊だった!くそう!)
心眼はこうなったら捨て身で大暴れしようと覚悟を決めたのである。
「うおお!」
心眼に縄を掛けようとした男たちに心眼は得意の素手技で対抗し何人かを殴り倒したのである。
「畜生!もっと人を集めろ!なんて馬鹿力だ!」
足軽たちが10名ほど更に集まり
「みんなで取り押さえろ!行くぞ!」
集団で心眼に押し掛かろうとした矢先
「待て!気に入ったよ。お坊様よ。只者じゃないとは思ったが。美濃衆の怪力甚兵衛が相手してやる!大人しくしやがれ」
甚兵衛は心眼に単身勝負を求めたのである。そして心眼に素手で殴り掛かったのである。
「む!」
心眼は両手を使って甚兵衛の一撃を受け止めたがこの甚兵衛の腕力だが心眼をも押すほどであった。心眼も自分の腕力には自信があったがそれを上回っていたのである。心眼は必死に抑えたのである。
「大抵の奴はこのまま腕をへし折られんだがな!あなたはなかなか根性があるな!どこまで耐えれるかな?え!」
「ぐうう!うおお!」
しかし心眼もさらに力を入れて甚兵衛を押し返し始めたのである。
「何だと?」
甚兵衛はたじろいだ。
「すげえ!あの坊主、怪力甚兵衛様を押してるぜ!」
足軽たちは騒めいていた。
「うおお!」
心眼はさらにそのまま甚兵衛に頭突きしたのである。
「ぶは!」
甚兵衛は鼻血を出したが手は離さなかったのである。
甚兵衛も頭突きをするとそのまま頭をお互いに頭を突き合わせたまま固まっていたが
「お坊様よ。やってくれんな。あなたは良い腹筋をしてると見たぜ!」
甚兵衛だが突如心眼の腹を膝蹴りしたのである。
「?ぐふ!」
鉄の腹筋の心眼でもこれは堪えたようで5発目までは持ったが徐々に抑える力を失うとついに膝から崩れたのである。
「俺の勝ちだな。それにしても散々手こずらせやがって。ふう。こいつを縛り上げろ!」
甚兵衛は鼻血を抑えながら部下に命令し心眼を縛り上げたのである。
新入りの傭兵たちも甚兵衛の勝ちを確信すると
「やれやれ。終わったぜ。さ、姉ちゃん。あの世に行く前に楽しませてやるぜ」
女たちは泣きながら背の高いイ草が生い茂る湖岸の湿地に連れ込まれたのである。お菊は泣かず必死に自分の感情を抑えていた。
「お嬢ちゃんみたいな若い可愛いのと楽しめるなんて俺たちも運が来たかな?」
お菊を捕らえた3人の傭兵たちはイ草を倒しお菊の両手を抑えながら寝かせたのである。
(お菊!落ち着くの!機会はある!泣くな!)
お菊は自分に必死で念じた。そして奈阿の戦い方を思い出していたのである。
お菊は足の速さや俊敏さは自信があったが腕力は無かった。男3人では押し返せなかったのである。相手が油断する機会を待ったのである。
「甚兵衛!どうした?大丈夫か?」
ちょうどその時に明智光秀が重臣衆の三宅秀満、溝尾茂朝、藤田伝五らを連れてやって来たのである。
「君らしくないな。鼻血を出すなんて」
鼻血を吹いている甚兵衛を見て光秀が言うと甚兵衛の実の上官の秀満も無言で険しい顔で甚兵衛を睨むと
「すみません。十兵衛様、左馬介様」
甚兵衛はすぐに2人に詫びたのである。
「ところで隣の方は?」
「坂本から来た坊主です。守山から坂本に船で行って戻ったのを捕らえました。多分近江の門徒衆を煽ってる石山本願寺の坊主でしょう。信長様に引きずり出してやろうと思ったら抵抗されこの様です」
「心眼殿ではないですか!なぜここに?」
光秀は心眼と見抜いたが
「私は心眼ではなく法華宗の眼心ですが」
「心眼殿。見え見えの芝居はおやめください。僕とあなたの仲じゃないですか」
「……」
心眼は黙ってしまったが。
「え?十兵衛様のお知り合いですか?」
逆に甚兵衛は驚いていたが。
「なぜあなたがここにいるのです?あなたは比叡山の僧ではなく実は石山本願寺の僧でしょ?」
心眼は重い口を開いた。
「延暦寺を焼かれたくないので私の独断で延暦寺に行って降伏し立ち去るように橘花に言ったが受け入れてもらえなかった」
「僕だって延暦寺は焼きたくない。でも立ち退かないなら仕方がない。それだけですよ。石山本願寺だってなぜ近江の門徒衆を煽るので?信長公は逆らうのであれば撫で斬りするつもりですがね」
「私は近江の門徒衆には信長公に従うように求めてる。六角殿が聞いてくれたのかどうかは知らないか」
「それは顕如様のご意向で?」
「そうだ」
心眼が光秀に返すと
「あなたや顕如様の本心が聞けて良かった。安堵しました。でもそれでも従わない門徒衆が居るって事なのかな。進むは極楽退くは地獄か。やれやれ。あなたの身柄ですが僕が預かりますよ。悪いようにはしませんよ」
光秀だが心眼を殺すつもりは無くこれからの本願寺との交渉に使おうと思っただけである。
「ところで向こうから女の声がするかどうした?」
光秀はイ草の生い茂る湿地帯からする女の悲壮な声に気付いたのである。
「は!この坊主が坂本に入った後に坂本から女を連れて戻った次第で!」
甚兵衛の家臣が返すと
「坂本から来た女は殺すように命じましたが新入りの傭兵が遊びたいと言うので許可しました」
甚兵衛がふてくされながら続くと
「君らしくないな。まったく。帰蝶様(織田信長正室、美濃衆筆頭、斎藤道三娘)にバレたら謹慎だぞ」
光秀が厳しく言うと秀満も再度厳しい顔で甚兵衛を睨んだのである。甚兵衛はまだふてくされてたが。
「まぁそんな目に遭って癪なのは分るが。雑兵!貴様ら!何を破廉恥な事をしてるか。美濃衆の顔に泥を塗るな!さっさと成敗しろ!」
光秀が大声を出したのである。
お菊は両手を抑えられ着物もすべて剥がされていた。傭兵も甲冑と着物を脱ぎ始めてこれからと言う時だったが
「げ!うるさい明智様だ!」
「おいおい!お楽しみはこれからなんだぞ!畜生!」
左右の男たちがお菊を抑える手の力を緩めお菊の股の間に居た男が腰を少し上げみんなが光秀の声の方を振り向いた瞬間であった。
(今だ!)
お菊は右足を男の股の間に素早く入れ直すと渾身の力で男の股間を蹴り上げたのである。
男は変なうめき声を上げ崩れた。右手を抑えていた男は呆気に取られてしまいお菊を抑えていた手を放してしまったのである。お菊は無造作に置かれていた太刀を瞬時に奪うと鞘に入ったまま右手を抑えていた男の顔に殴り付けて倒したのである。
「わ!こいつ!」
左手を抑えていた男も慌てて置いてあった太刀を抜こうとしたがお菊の方が早く太刀を抜くとこのこの男の首筋を斬って更に倒れていた2人にも止めを差したのである。
「助けてあげる!」
お菊は近くで女子を弄ぼうとした男にも襲い掛かり背中から突き刺して倒した。左右の彼女の両手を抑えていた男たちは何が起こったのかと驚いている間にお菊に首筋を一瞬で斬り付けられ落命したのである。
もう1人の別の女子を弄ぼうとした男3人も行為に夢中でお菊が近づいてるのに気付かなかった。
男たちは最中で抵抗すらできず短い叫び声を上げながら次々に刺し倒されたのである。
3人目と弄んでいた男たちも近くからの男の叫び声でようやく異変に気付いたのである。
「何!もしやくノ一がいたのか!」
生い茂った背の高いイ草のせいでお菊が接近しているのに寸前まで気付かなったのである。
「やべえ!」
やっと男たちは起き上がり反撃しようとしたがこの女子は助けが来たのに気付き反撃させないため男の手を思いっきり噛んだのである。
「痛ぇ!野郎!」
男は太刀を抜き先に彼女を斬った後にお菊に反撃しようとしたがその隙にお菊に接近されそのまま突き刺されたのである。
「獣(けだもの)め!」
お菊は叫ぶと残りの腰を抜かす2人も躊躇なく刺し殺したのである。
「はぁはぁはぁ」
お菊だが急に力が抜け冷静になり自分でも怯える力をこの日も出してしまったのである。
(あたし、あたしって……!なんなの?)
お菊は自分に問うしかなかった。
「お菊さん!ありがとう!逃げよ!」
「うう!さようなら!はる!」
抵抗して殺されたはるの遺骸を置いて着物を羽織ると3人はイ草の茂みの外に出たのである。
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