法力を感じよ
第36話 13-1
お菊たちがイ草の茂みの外に出ると予想通りだが織田の兵が待ち構えていたのである。
「くっ!」
お菊は険しい顔で太刀を構え女子2人はお菊の背後で怯えていたが突如お菊は聞き覚えがある声を聞いたのである。
「お菊。お見事だよ。ここで会ったが何とやらかな?」
悠然とあの男がやって来たのである。
「明智殿!」
お菊は再度太刀を構え直した。
「新入りの雑兵を皆殺しにするとはね。君はなかなか良い素性があるね」
「あなたたちが破廉恥だから!獣(けだもの)!汚らわしい!」
お菊は侮蔑するように言ったが
「そうだね。その通りだね。本当に破廉恥で汚らわしかったね。謝るよ。だから僕は君を咎めるつもりはないよ。むしろ褒めたい位だね」
「あなたはさ!」
光秀はにこやかだったがお菊は光秀に少し嫌な何かを感じ後ずさりしたのである。
「でも近江の門徒衆を扇動するのは気に入らないけどね」
「心眼殿もあたしもそんな事してない!顕如様は近江門徒衆には信長公に従うようお話されてるわ!」
お菊は返した。
縛られて座っている心眼もうなずいた。
光秀は心眼をちらっと見た後
「分かった。でも信長公から坂本から来た者は撫で斬りするように言われてるのでね。君の後ろの女子をこちらに渡してもらえないかな?」
女子2人は悲鳴を上げたが
「下がって!任せて!」
女子2人に言うとお菊は太刀を再度構えたのである。
「素晴らしい。お友達を大事にするのは良い心構えだよ。まぁ、逆らう門徒衆も斬れと信長公の命が出てるので従わないなら君も極楽浄土に行ってもらおうかな」
光秀はにこりと笑うと太刀を抜いたのである。
「さぁ、遠慮なく掛かっておいで」
「人を馬鹿にして!やああ!」
お菊は光秀に斬り掛かったのである。
しかしお菊は足元もふらつき力も出なかったのである。
(さっき力を使い過ぎて力が出ない!だけど!)
それでも太刀を振り降ろしたのである。
光秀は余裕でそれを受け止めていたが。
「法力を使い過ぎたかな?」
「法力?」
「さっき君が雑兵を斬った時に出した力だよ」
「そんなの知らないよ!」
お菊は光秀と間を取った後に何度か太刀打ちするも隙だらけであった。光秀は余裕であったが。
「君はさっき僕を見て少し怯えたね?それが法力だよ」
「!」
「坂本でも橘花殿やいろはを感じたんじゃないかな?」
「橘花殿?いろは?そんな女の人は知らないよ!やああ!」
お菊は一瞬後退する振りをして素早く水平斬りを浴びせたが
「おっと」
十兵衛は難なく受け止めたのである。
「君と光福寺で初めて会った時も君は力を出していた。今日も雑兵を倒した時、発していたよ。君は雑兵たちを倒した時、自分の力に怯えたんじゃないかな?」
お菊は光秀の指摘の通りだったので戸惑ったが
「うるさい!」
お菊は叫ぶと光秀を突き刺そうとしたのである。光秀はひらりと避けたが。
お菊だが疲労で力が出ず足元もふらついていた。息も切れ切れである。
「はぁはぁ」
(ダメ!力も速さも出ない!)
「素直になれば良いのに」
光秀が反撃して来たのである。お菊は太刀で何とか防いだが。
「ところで君はなぜ石山本願寺の兵になったんだい?僕が憎いからかい?」
「そうよ!」
「僕を殺したら気が済むのかな?でもそうじゃないよね?」
「く!」
お菊は義姉のさちや頑強僧正、光福寺で撫で斬りをした光秀や松永久秀を敵として修行し戦ってきたが光秀も久秀も信長の命で渋々撫で斬りをやったのは承知していた。
光秀も久秀を許すつもりはなかったが光秀や久秀を倒しても気が済むとは思っていなかったのである。真の敵は光秀や久秀の主君の織田信長だがお菊は信長を知らないので敵意がどうも湧かなかったのである。
「あなたたちがあたしのお家の本願寺を襲うから戦っている!」
お菊が返すと
「なるほどね。君の言う通りだ。でも戦の無い世がくればそれも無くなるよ?」
「戦の無い世?」
お菊は呆気に取られると
「僕は君に興味があってね。良い兵になるってね。僕の夢を叶えるのを手伝ってくれるだろうと」
「あなたの夢?」
「天下泰平。それが信長公の夢さ。信長公の夢は僕の夢。だから戦の無い天下泰平の世作りを手伝ってくれるなら良き処置を約束するよ」
「嘘だ!人を殺して女を犯すだけの獣だ!あなたたちは!敵だ!」
「お菊。君が戦いに意義を見出せていないのはお見通しだよ。君は僕や久秀公が憎いのかもしれないが大局を見ろ。いずれ信長公の時代は来る」
「そうかもしれないけどあたしは今はあそこに家がある。守りたい人も超えたい人もいる!」
「う~ん。まだ大局が見えない子供だったか。仕方がないかな。残念だなぁ」
光秀はお菊を押し返したのである。お菊は押し返されふらつき息を荒げながらも体制を整え直し太刀を再度構えた。
(さて、どうするか)
今のお菊では光秀は簡単に討ち取れたがしかし光秀はお菊は役に立つ、殺すのは惜しいと本当に思っていたのである。
「捨て身だ!」
お菊だが再度ふらつきながら光秀に突っ込んだが
「仕方ないかな」
光秀はそう言うと思いっきりお菊の太刀を叩いたのである。
お菊だが強い衝撃で体制を崩してしまったのである。太刀を持ったままのけぞってしまい腹部に隙ができたのである。
「殺られる!」
お菊が呟くと同時に光秀は水平斬りをしようとしたのである。
しかし光秀は峰打ちに瞬時に持ち替えお菊の腹部で寸止めしようとしたのである。
ただ光秀の太刀は止まり切れずお菊の腹部に直撃してしまったが。
「ぐ!」
さすがのお菊も痛みで尻から倒れてしまったのである。
「お菊!」
「お菊さん!」
心眼と坂本の女子は驚いて声を掛けたがお菊は腹を苦しそうに抑えていた。
「おっとすまない。お菊。太刀が止まり切れなかったね。まぁ、峰打ちで良かった。甲冑無しだからまともに僕の太刀を受けたら君は上と下に別れていたね」
光秀が返すとお菊は恨めしい顔で光秀を睨んだが。
その時である。騎馬武者が突然光秀の元に駆け寄ったのである。
「どうした?取り込み中だが?」
「申し訳ありません!殿(織田信長)より至急の伝令です!」
光秀は書状を受け取ると見る見る顔が険しくなった。
そして
「甚兵衛、心眼殿とお菊は解放してやれ」
「は?」
突然の光秀の命に甚兵衛は呆気にとられていたが光秀から書状を受け取りそれに目を通すと
「急すぎる!こんな変わりよう、あるか!」
甚兵衛も吐き捨てるように言ったのである。
しばらくすると別の部隊が向かって来たのである。
「十兵衛(光秀)!何をやっておるか!円城寺(大津三井寺)に集合せよと殿(信長)の命を忘れたのか!」
「これはこれは家老様(佐久間信盛)。ちょっとした揉め事の対応をしただけですよ」
「ワシの郎党が近江で抵抗する門徒衆を苦労の末に屈服させたのじゃ!ワシの顔に泥を塗るな!」
「家老様。もちろんですよ。早く坂本から来た女2人を斬り捨てろ!」
光秀が命を出すと坂本から来た女2人は悲鳴を上げたが
「明智様!お待ちください!この者たちは比叡山の者ではありません!単にそこで働いていただけです!」
お菊が2人を助けたい一心で入って来たのである。
「お菊。君と心眼殿はさっさとどこかへ行け。もう関係ない」
「急にあたしたちを助けてあの子たちが駄目な理由を教えてください。納得できません!」
お菊の問いに光秀はかなり渋い顔をしたが
「近江の門徒衆(一向宗)はワシが降伏させた。だから門徒衆には手を出さん。坂本の連中は明日より根絶やしにする。だから斬るだけじゃ。分かったか小娘」
佐久間信盛がそう言うと
「分かりました」
お菊はそう言うと2人に振り返り何か目で合図したのである。2人はうなずいた。
「明智様。あの2人は門徒衆です!進むは極楽!退くは地獄!」
「進むは極楽!退くは地獄!」
2人の女子も門徒衆の教義を唱えたのである。
「ぐ!」
光秀だが2人に手を出せなくなってしまったのである。
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