第49話 よそはよそなので

 空叶にも魔王がいる場所のことを伝えた。

 レナードさんとアルガーさんが目星を付けたという神殿の奥、魔王はそこにいるとシリウスさんから教えられたのだ。


 その場所は地図上では森があるだけで、洞窟のことも神殿のことも全く書いていなかった。

 そのまま神殿へ入ったらレナードさんたちだけでは危なかっただろうから、結界が張ってあって良かったよ。

 そんな怪しげな場所からは引き返して正解。


 訳分からなくて、孫たちが各地を巡り歩いた祖父に助言を求めに行ったのも分かるな。

 でもあの大魔法使いの爺様は、その神殿のことを分からないって言ったけど、それって単純にそこへは寄らなかっただけだよね。

 それに魔王なんかよりも、自分の弟子たちの育成に心血注いでいたみたいだし。

 これは息子であるイザークさんから聞いた話だけど。


 ていうか、孫の困りごとに分からんって一言だけとは……。

 そういや爺様は、孫たちが遊びに来たって言ってたよね。

 既にそこからしてお互いの認識が違う気がする。


 他のご家庭のことなので、自分がとやかく言うことでもないや。

 

 それから、神殿に魔王がいることやシリウスさんのことはこやきと相談して、同行しているレナードさんたちには今は伏せておくことにした。

 シリウスさんがローダン国の王子で、更に『元勇者』ってことや、会ったきっかけが一人魔物狩り祭りの時だったってことを知られると、そこから説明するのが非常にめんどいから。

 アルガーさんあたりは俺も混ぜてくれなんて言ってきそうだし。


 周りを気にせずチートステータスの力を思う存分振るうことができるのが、一人魔物狩り祭りの醍醐味でもあるんだよね。

 そういう事情もあるので内緒にしておく。


 明日には森の奥にある洞窟を抜けて神殿へ辿り着く予定だ。

 ようやっと魔王の近くまで来れた。

 そういや自分魔王に正座させて問い詰めようって考えたことあったよね。


 うん、なんかもうそれはやらなくてもいいかな。

 今はちゃっちゃっと終わらせてしまいたい気持ちが強い。





「天宮くんまたレベル上がって、完全回復魔法も修得したね〜」

「そうだね、これでもっと安心して戦闘の見学ができるよ。それにレナードさんとアルガーさんから戦術のアドバイスも貰ってるみたいだし、成長具合がいい感じだね」

「レナードさんたちが仲間になってくれて結果的に良かったよね〜。あ、仲間じゃなくて同行者だったっけ〜?」

「もうどっちでも良くなってきたよ」


 森に入り洞窟を抜けて神殿へと向かう道中、空叶のレベルが3つも上がった。

 アルガーさんが言ってたように洞窟内の魔物らは強いんだと思う。

 だから倒した後に得る経験値も多いんだろう。


 レベルが上がるとステータスの値も比例して上がるのだが、既に付与付きチート級の装備品により上がりまくっている数値なので、当たり前だがレベルアップでの数値変動は見られない。

 数字による強さの可視化が出来なくなったけど、修得したスキルや魔法が増えたことは素直に嬉しい。


 けど、勇者が修得するスキルや魔法が我々のチートステータスにもあるっていうのは、やっぱりイレギュラーなんだろうな。




「なんかさー、位置的にオレらが別パーティーみたいじゃない? いや、いいんだけどもー」

「えー、おうりってば今更〜。気にしない気にしない。でもそうだね~、うちらずっと天宮くんの近くにいたからね〜」


 こやきと雑談をしながら歩いて行く。 

 空叶とレナードさん、アルガーさんたちはオレらの前方にいて、魔物が現れたら三人が速攻戦うので、我々は特にやることがない。

 一応周囲を気にはするけど、それもチートステータスにある複数の気配察知系スキルが自動で働くので、本当に何もしなくて良い。


 オレのステータスには、魔物と遭遇すると毎回毎回戦術が頭の中に組み立てられるスキルがある。

 それはもう慣れてるからいいんだけど、その一瞬で身体が戦闘態勢になるんだよね。

 でも実際自分は戦うことはなく、勇者のレベル上げの戦闘をひたすら見守ってるだけ。

 このことについて、今更ながらある疑問が浮かび上がってきたんだよ。


 もしかして魔物狩り祭りをしたくなるのは、戦わないことでのフラストレーションが蓄積されているからなのかなって。

 それって欲求不満ってヤツ?

 欲求不満で溜まったものを発散するために、定期的に祭りを開催したくなってたってことかー?


 可能性としてないわけでもない、かもしれない。

 でも欲求不満って、なんかやーだー。

 なので無理に向き合う必要はないよね。

 チートステータスにはメリットだけじゃなくて、デメリットもあるってわけか。


 納得はしないけど了解することにしよう。





「あそこに見えるのが私たちが以前訪れた神殿です!」


 前を歩いていたレナードさんが振り返り、指を差しながらオレたちに言ってきた。

 その指差す方を見ると、苔むした巨木の隙間から確かに建物が見える。

 神殿というからには、神聖で神秘的で素敵な建物というイメージを勝手に持っていたのだが、なにあれ。


 近づくにつれて、長い年月風雨にさらされた石の質感や模様がより鮮明に見えてくる。

 蔦と苔に覆われている重厚な柱や朽ちている装飾の名残を見て、これが神殿という建物なんだと自分を納得させた。

 正直神殿というものを実際に見たことがないからね。


「あー、この中にいるねー、確実に」

「うんうん、絶対そうだよね〜」


 オレとこやきは既に魔王の魔力を感知出来ている。

 それの出所はシリウスさんに繋げられていた魔力からだ。

 一回その魔力を感知してしまえば、自動追尾することも容易い。


「前来た時も思ったが、この中から感じる魔力は気分が悪くなるぜ」

「アルガーさん大丈夫ですか? 体調が優れないなら休憩しましょうか?」

「ああ、大丈夫だ。ソラト、心配ありがとな。体調不良じゃないんだが、なんていうか歪んだ魔力にただただ不快ってだけだ」

「ソラト様、アルガーは見た目によらず繊細なんですよ。それと、魔力感知の精神修行を怠っていたのも原因ですね」

「見た目によらずってなんだよ。俺は言うほど繊細じゃないぜ。確かにレナードの言う通り精神的な鍛錬は得意じゃなかったけどよー」

「魔力に影響を受けやすいがために、前衛の貴方が敵の状態異常攻撃に何度も掛かって大変になっていたのは事実ですからね」

「悪かったな。今は状態異常対策に付与付きの装備で諸々補っているから大丈夫だろ」

「何を言っているのですか。そんな付与付きの装備品に頼るよりも、自分自身を高めることが大事でしょう」 


 あ、レナードさんの発言に、空叶がものすごく気まずい顔をしてる。

 見ててすっごくいたたまれないや。


 空叶には8つの状態異常を完全に防げる付与付きの腕輪がある。

 レナードさんの言葉が刺さっちゃった今の空叶には、自分は付与付きの装備品に頼っているって思い込んじゃったんだろうな。

 レナードさんはアルガーさんに対して言ったのだから、空叶が気にすることなんてないんだけどなー。


 だってよそはよそ、うちはうちだし。

 精神修行なんて、何それ美味しいのって感じ。

 うちはうちの方針で、うちの勇者にはチートな装備品を渡しているのだから。

 

 前に一度だけレナードさんたちが空叶のステータスを見た時はレベルや能力値だけ気にして、どうやら装備品の項目までは見なかったらしい。

 アホみたいな数値も勇者だからと納得していたようだし。 


 チート級の装備品のことは気付かれないと思うけど、バレても笑って流せば大丈夫。

 このことは真面目で繊細な空叶を励ますためにも、後で本人にしっかり伝えなきゃね。

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