第16話 演者は演じる

 シルフィさんを助けに行く前に、用心の為透明化魔法をかけようとしたけどステラさんにお断りをされた。


「オウリの気持ちはありがたいが、あの時の借りを返す為にも真っ向から立ち向かいたいんだ。すまないな」

「いえいえ、そういうことなら全然大丈夫ですよ。ステラさん、かっこいいっすねー」

「そ、そうか。ありがとう」


 少し照れながらステラさんは笑みを浮かべる。


 リオさんの強さはついさっき自分の目で見たから分かっている。ステータスで確認したステラさんのレベルはリオさんとほぼ同等なので申し分ない強さだと思う。

 だけど襲撃時のように大勢の敵を相手に立ち回っている時、痺れや眠りのような状態異常系の攻撃を不意に受ければ、どんなにレベルが高くても行動不能になる場合がある。

 盗賊団故の姑息な手って感じ。


「わたしも大丈夫だよ。オウリ気遣いありがとね。その魔法はルシーアにかけてあげて。万が一の為にも」

「い、いえっ、私も正面から戦います!」

「ルシーア、気持ちは分かるが今回はオウリに魔法をかけてもらっておけ。念の為にだ」

「……分かりました」

「じゃあルシーアさんにかけますねー。ルシーアさんを認識できるように輪郭を見える化しときます。皆さん一回手を繋いで下さい」


 全員が手を繋いでから透明化魔法をかける。そしてルシーアさん以外の人たちの効果を解除。全員がルシーアさんの輪郭認識するにはこの方法しか思いつかない。

 いつか時間があったらもっと簡潔な方法考えよう。


「私は魔法のことはよく分からないが、オウリは凄いんだな。ルシーアの姿が消えてるぞ」

「オウリは修行をたくさん頑張ったんだって。わたしも魔法はからきしだけど、凄い努力をしたんだね」

「あははー……。ですねー……」


 うう、何だか申し訳なさが。最初からチートステータス持ってるだけなんですー。修行は漫才の修行しかしたことがありませんー。でもあれを修行と言っていいものかは疑問。


「よし、それじゃ行こう」


 食堂にいたごろつき三人は縛り上げておいた。まあ、ボコボコにされたあの状態ではしばらく動くことも出来ないだろうけど。 

 ステラさんは片隅にあった剣を自分用の武器としたようだ。武器生成スキルで作成しようかと思ったけど、やり過ぎも良くないので流石に控えることにした。





 目的の方向へと向かって行くと、荒々しい男の声やけたたましい笑い声が聞こえてきた。ざわめき具合から複数の人間が話をしていることがわかる。

 岩陰から中の様子を伺う。そこはこの洞窟で最も広い空間だった。辺り一帯に木箱や布袋、剣や斧や防具、空の瓶などがごちゃごちゃと適当に置かれている。隅の方には粗末な布や毛皮みたいなのが敷かれていた。あそこが一応寝床なのかな。


 この場所が盗賊団の生活の中心部っぽい。でも、ただでさえ洞窟内は湿気やらカビやらで衛生面最悪なのに、更に自分らで汚していくなんて、めっちゃばっちい。マジでばっちい。


 中央に焚き火用の石囲いがあり、その周りを囲むように四人の筋骨隆々とした男たちが大声で喋って笑っている。木製のジョッキで飲んでいるのは酒のようだ。真っ昼間から酒盛りとは、ろくでもない。


 奥に座っている男に抱き寄せられて辛そうな表情をしている女性がいる。かろうじてお胸はギリ隠せているけど衣服はボロボロになっている。

 ステータスを確認する。僧侶ということは、あのお姉さんがシルフィさんだね。魔力残量が残り1しか残っていない。状態異常にはなっていなかった。

 僧侶だから、きっと自分で麻痺や毒の治癒をしたんだろう。


「だから俺たちが神なんだよ! 何やっても許されるんだ! げははははっ!」


 ――うわぁ、うっわぁ。キッショ、マジでキッショい。なにあの笑い方。ないわー。それに自分らを神って、頭大丈夫ですかー。あー、もう手遅れか。手遅れでしたか。神ねえ、神……。そうだ!


「貴様ら! シルフィから離れろ!」


 ステラさんが剣を抜いて盗賊たちに向かって行く。リオさんも駆け出していった。


 ひとまずシルフィさんの救出はステラさんとリオさんたちにお任せして、衣類一式の作成開始しよう。シルフィさんのお胸のサイズはルシーアさんよりちょっとだけ大きめのようだったから、……Fかな。

 サイズが分かれば、はい即完成。かなり手慣れてきたね自分。デザインはルシーアさんとおんなじで色違い。姉妹コーデ、いいね。


「ルシーアさん、これシルフィさん用に衣類一式作りました。あと毛布も渡しておきます。渡してた魔力回復薬も使って下さい。透明化魔法はもう解いても良さそうですね」

「は、はいっ、ありがとうございます!」


 ルシーアさんは受け取るとシルフィさんの方へ走っていく。その背中を見送りながらルシーアさんにかけていた透明化魔法を解除した。


「さてと……」


 伝達魔法を魔力変換で少しいじり、自分の声が洞窟内全ての方向から聞こえるように設定。更に体から光が出ている演出の為に、光魔法の調節をして準備完了。

 あ、光魔法と電撃魔法使うから、ルシーアさんたち四人にどんな攻撃も一定時間無効化される結界魔法をかけておかないとね。



 ――春日野劇場、本日いざ、開幕。



「ステラ! こいつら酒飲んでたのにガードが堅い!」

「残念だったなあ! 姉ちゃんたちの攻撃なんか神である俺たちには効かねえよ!」

「くそっ! 装備に何か特殊効果がかかっている!? リオ! そのまま攻撃だ!」

「姉さん大丈夫!? 急いでこっちへ!」

「――ルシーア!? 分かったわ!」

「行かせねえよ!」


 魔力変換した光魔法を発動し、この空間内に目一杯の眩い光を放つ。


「何がっ! 眩しい!」

「前が見えねえっ!」

「ちくしょう! 何だよこの眩しいのは!」

「目がっ! 目がぁっ!」


 よしっ! 最初の光魔法を使った照明の演出は完璧だ。


「――愚かなる罪を犯した人間よ、お前たちは神により裁かれる」


「何を!? あの小娘が喋っていやがるのか!?」

「……オウリ?」

「……オウリさん?」


 ヤバい、何だか笑いが込み上げてくる。出来るだけ、出来るだけ真顔で演技続行しないと。


「――私は、神だ」


 よしよしっ、観客の皆さんのポカーン顔、頂きました。


「――もう一度言う。私は、神だ」

「お、おいっ、あの小娘なんか光ってるぜ!」

「声も頭の奥から響いてくる感じだ!」

「まさか、本当に!?」

「嘘だろ……」


 お、酔っぱらっているからか、なんだか余計反応が良いねぇー。楽しくなってきちゃった。続けよう。


「――お前のような神など知らぬ。神の名を語りし愚か者には天罰を与える。天の雷を喰らうがよい」


 淡々と台詞を言い終え、人差し指を立てた手を上にかざして威力弱めにした電撃魔法を数十個ほど上から落としてみる。

 

「ぎゃあああーーー!!」

「うわあぁぁーーー!!」

「神様ごめんなさいぃーー!!」

「ひいいぃぃーーー!」


 落雷地点はランダムにしたけど、運悪く直撃した奴もいる。死なない程度にしてあるから良し。意識は飛ぶかもだけど。


「――その不敬な口で二度と神の名を口にするな。お前たちの罪は重い。地獄を見よ」


 完全に戦意喪失した盗賊らに向け、超強力な幻惑魔法を発動する。トラウマ級の恐怖を味わい、ガタガタと震えて恐れ慄くがいい。



 ――演目名は『神降臨』、これにて春日野劇場、閉幕です。



 あー、めっちゃ楽しかったー。

 この演目で何かショートコントのネタが作れそうな気がするなあ。こやきに話をしてみよーっと。

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