第15話 これは胸熱
助けるべきはあと二人。
ルシーアさんのお姉さんと戦士の人だ。
姿を見えなくする透明化の魔法をかけているので、万が一盗賊団の輩と突然遭遇しても焦ることなどなにもない。
リオさんから聞いた話だと夜間の野営地襲撃時、盗賊団の人数はざっと12人くらいいたという。四人がここへ連れてこられてからは仲間とは会うことがなく、各場所で酷いことをされていたと話す。
襲撃には盗賊団全員で行ったのか、洞窟に待機させている者がいたのか分からないとのこと。
「……右の奥に四人、左奥には五人いるようですね。流石に性別までは分からないですけど」
「オウリさん、やっぱり凄いです!」
「もしかして気配感知のスキル使ったの? しかもその範囲がこの洞窟内全体に可能だなんて……。オウリ、まさかあなたは……」
わー、不審がられているのかなー。
ルシーアさんは疑ってこないけど、リオさんは相当鋭いようだし。透明化の魔法で輪郭しか見えないから、どんな表情をしているのかはさっぱりわからないや。
ぶっ飛んでるチートステータス持ちのことは絶対誰にも言えないし言わない。内緒の内緒。
けど初対面の人たち相手に結構スキルや魔法をガンガン使いまくっているからなー。もしもの際には申し訳ないけれどドロンするつもりの心構えをしていよう。
そんなことがなければいいけれども。
「凄く、凄くいっぱい修行をしたのね! 若いのに偉いよ!」
「は、はいっ! たくさん! そりゃあもうたーっくさん修行してきましたよー! 何度も死にかけて血反吐吐きまくるくらいに! 自分の力はそんな努力の結晶ですから!」
「頑張り屋さんなんだね! それでいて根が真っ直ぐだし! わたしも帰ったら今まで以上に鍛錬頑張る!」
あ、なんとかくぐり抜けれた。
言い訳とか考えるの面倒くさいから良かったー。
今後同じ様なことがあった時、説明はたくさん修行したおかげということにしていこう。
「右と左、先にどちらに行きますか?」
「じゃあひとまず四人の方にしようか。多分だけどシルフィかステラのどっちかがいる気がする」
リオさんの選択で右奥への通路を歩いて行く。奥に行くほど土と岩の匂いや、腐ったチーズのようなおっさん臭が鼻腔を刺激してくる。キツイね。
進んでいくと盗賊たちの低い話し声が響いてきた。そこは少し広さがある場所で、端の方には干し肉や堅いチーズ、パンなどが無造作に置かれており、樽や木箱が乱雑に積み上げられている。ここは食堂なのかな。
中央では屈強な男三人が粗末な丸太のテーブルを囲み、壊れた樽を流用した椅子に座っている。地面には飲みかけの酒が入った瓶や食べ残しの骨が放置されていて、盗賊らの粗野な生活ぶりが垣間見える。
というか不衛生すぎてドン引きするわ、マジで。
更に奥の方を見てみると、ボロ布や毛布が地面に広げられていて、その上に女の人が全く衣服を身につけていない状態で横になっていた。
「――ステラ! この野郎っー!」
リオさんの反応の方が短弓を構える自分より早かった。
食事をしていた盗賊らに勢いよく殴り掛かって行くと、一撃で手前の一人を吹っ飛ばす。輪郭でしかリオさんを認識出来ないけど激アツだ。
武闘家の攻撃力と素早さって爆発級に凄いね。
残りの二人は何が起きたのか分からずに呆然としている。
意味が分かんないよね。さっきまで目の前にいた奴が突然吹っ飛んでいったのなんて。透明化魔法で攻撃をしてきた相手が見えないのだからしょうがないしょうがない。
ごろつき三人はリオさんに任せることにして、奥にいる女の人の元へ毛布を出しながら急いで駆け寄る。
この人も外傷が酷い。完全回復魔法を発動させながらステータスを見ると、やっぱりリオさんの時と同じで麻痺と毒状態になってて動けないようにされている。
当然この状態異常も治す。
「うん、治った治った。ルシーアさんこの人お願いします。戦士さん用の衣類作りますので。透明化魔法また一旦解除しますね」
「はいっ、任せて下さい!」
「……ん、ルシーアか……? 黒髪の、あんたが治してくれたんだな、すまない、助かった」
「いえいえ、もうちょっとお待ち下さいね」
「オウリさんは今ステラさんの衣服を作成してくれてるんですよ」
「そんなことができるのか。凄いんだな」
パワー系職って立ち直りが早いこと把握。
そしてステラさんのお胸サイズはC……、いやDかな。肌に直接触れる下着なのだからフィット感や着心地は大事だよね。本当は見ただけで判断するんじゃなくて、ちゃんと正確にメジャーで測った方がいいらしい。聞いた話だけど。
「出来ました。差し上げますので良かったら是非着てみて下さい」
「いいのか? 着ていたものは全て剥ぎ取られてしまったからどうしようかと思っていたんだ。ありがとう」
「ルシーアさん、毛布のそっち側持ってもらっていいですか。目隠しを作りましょう。この中なら見られることもないですし」
「はい、分かりました」
ルシーアさんの反対側を持ち、毛布を少し高く上げる。その中でステラさんは着替え始めた。
透明化魔法を解除したのでリオさんの戦いっぷりをじっくり見ることができる、と思ったらごろつきは三人とも既にダウンしている。
だけどリオさんは胸ぐらを掴み強制的に立ち上がらせ、腹パンやビンタ、更には膝蹴りで追撃をしていた。
「着てみたぞ。ルシーアの言うように着心地もデザインも素晴らしい代物だ。それに、これには状態異常への耐性と属性ダメージ軽減の効果があるようだな。本当に貰ってもいいのか?」
「全然オッケーですよ。困った時はお互い様ですから」
「ては遠慮なく頂くよ。助かった、オウリ、本当にありがとう。下着も肌馴染みがとても良いぞ」
「ステラさんに凄く似合ってます」
「それは良かったです。えーと、ステラさん、リオさんのこと、止められますか? あのままだと奴ら星になっちゃうかも。死んでしまうと罪を償うことが出来ないと思いますしー」
リオさん今度は蹴りを入れ始めてるー。
ごろつきたち、白目向いて口から泡とか血を吐き出してるー。
ちょっとヤバいヤバいグロいヤバいー。
「リオー! 一旦それ止めてー! 殺しちゃダメだー!」
「あ、ステラー! オウリに治療してもらったんだねー。その着てるヤツすっごく良いね!」
ステラさんの声がけでリオさんは攻撃を止めた。憤怒の形相だったけど今は笑顔に戻ってる。
あー、びっくりしたー。
武闘家超つえー。
「ステラー、こいつらぶっ倒さなくて良かったのー?」
「ああ、死んでしまうと罪を償うことが出来ないとオウリは言ったが、まさにその通りだな。死は償いじゃない。生きて自らの罪と向き合わないと。それに……」
「ステラさん?」
「それにこの不届きな輩共に、私はまだ自ら制裁の拳を与えていない! 人を好き放題したことは絶対に許さない!」
「ステラさんの言う通りです! 私も許しません!」
「わたしだって! 絶対絶対許すもんか! 簡単に楽になんてさせないよ!」
みんな怒りが心頭している。許せないよ、許せるわけがないよね。そもそも許す必要なんてないんだから。
「オレも手伝います! 悪党どもを成敗してやりましょう!」
「オウリさん、ありがとうございます! ううっ……」
「ルシーア、泣くのは全て終わらせてからにしよう」
「そうだよ、その為にもシルフィを助けに行かないとね」
「そうですね、すみません。感情が高まってしまって……」
「昔からだもんね、ルシーアは。大丈夫、わたしたちが付いてるからね」
「さあ、皆、力を合わせてシルフィを救いに行こう!」
みんなの気持ちが一丸になってるこの状態。
なんだか自分、心が熱くなってきたぞ。
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