第17話 おあずけハグ
「えー! さっきのは全部演技だったんですかー! 光とか声の反響とかびっくりしました!」
ルシーアさんが驚きの声をあげる。
変に誤解をされると困るので、皆には早々にネタばらしをした。
「実は演者を目指してまして。自分のことを神って言う奴を実際に見たら、本当の神様が出てきて制裁するっていう場面をちょっとやってみたくなって。光や声の効果は魔法で演出したんですよ」
「私も驚いたぞ。オウリが本当に神だったのかと思ったよ。素晴らしい演技だったな」
「わたしもー。喋り方とかそれっぽかった! 手を上に上げて雷を落とした時とかが印象的だったし。凄い良かったよ!」
「ありがとうございまーす。あれはただの電撃魔法なんですけどね。本当は上から舞い降りてくる演出とか出来たら最高だったけど、洞窟内では出来ませんでしたね」
突然神様の演技を始めたことに引かれたかもって思ったけど、逆に演技や演出を褒められて嬉しくなった。
いい人たちだなあ。
「あ、あの、着てみたのですが、この様な素敵な服を本当に頂いてよろしいのでしょうか? それに下着まで……」
着替えを終えたシルフィさんが恥ずかしそうに奥から出てきた。恥じらう美人さんって思わず見とれちゃう。
「いいんですいいんです。逆に着てもらえれば嬉しいです。サイズも合ってて良かったです」
「シルフィ、よく似合ってるじゃないか。オウリの作った下着も着けが心地いいだろう」
「ルシーアと色違いで可愛いね。いいじゃんいいじゃん」
「姉さん、とてもお似合いです」
「オウリさん、助けて頂いて本当にありがとうございます。何度お礼を申し上げても足りません」
そう言い、深々と頭を下げてくるシルフィさん。他の皆さんも続けてお辞儀をしてきた。うわ、めっちゃ恐縮。
「みなさん頭上げて下さいっ! 人として当たり前のことをしただけですから。いや、ほんとのほんとに! それよりこいつらは……」
美人さんたち四人からのお礼に照れくさくなって思わず視線を逸らすと、ぎっちり縛り上げられた盗賊たちが転がっていた。
幻惑魔法の効果により恐怖で怯えてガタガタ震えている。
一時的なものだけど、正気に戻った時にそれはトラウマになるかもしれない、そんなレベルの魔法にしておいた。
「領主へ報告すれば後は国が身柄を拘束するだろう。最も乗り合い馬車を襲撃したことで既に調査が入っていると思うが」
「きっと他にも被害があると思うよ。そこにある木箱に金貨や宝石とか略奪品っぽいのが入ってたし」
「そうですね。リオの言う通りだと思います。そこの男の話では、一つの大きな仕事が終わったと言っていました。そしてここへ戻る途中に偶然見かけた私たちに目を付けたとのことです」
「そうなんですね……」
聞いておいてだけど、被害を受けたシルフィさんたちにかける言葉が分からない。なんて声がけをすればいいんだろう。
言葉が出てこなくて口ごもってしまった。
「私たちのことは大丈夫ですよ。さあ、ここから出ましょう」
オレの気持ちを察してくれたのかシルフィさんは笑顔を見せて気遣ってくれた。
うう、年上のおねーさんの優しさが身に染みる。
そしてオレたちは盗賊団のアジトの洞窟から外へと向かって行った。
「もう行ってしまわれるのですか? 私たちオウリさんに何一つお礼ができていないのに……」
森を抜けて街道へ出た後、こやきたちの元へ帰ろうとした時シルフィさんたちに引き止められる。
「そうだよ、オウリ。わたしたちの街に寄ってってよ。おもてなしさせて欲しい!」
「私も同じだ。オウリに何も返せないのは心苦しいぞ」
「オウリさん、是非お礼をさせて下さい!」
「皆さんのお気持ちだけ頂きますね。でもほんっとうにごめんなさい。先を急ぐ旅の途中なんですよ。それに、仲間が待っているんです」
お礼を言われ慣れていないせいか、めっちゃ戸惑ってしまう。でも実際こやきたち待ってると思うし。
「……そうですか。分かりました。あまり無理に引き留めてしまうのは良くないですよね。オウリさんの旅の無事を祈っています。もし私たちの街へ寄ることがありましたら、その時にはたくさんお礼させて下さいね」
「そうてすね、その時には是非です。それではオレはこの辺で」
ペコリと軽く一礼し歩き始める。
後ろから「またなー」とか「元気でねー」とか聞こえてくる。なので、ついつい振り返りペコペコお辞儀をしながら立ち去ってしまった。
勇者みたいにお別れをスマートに演出出来なくて、なんか恥ずかしい。
「オウリさん、もしかしたら本当に神様だったのかもしれませんね」
「ふぇー、シルフィもそんな冗談言うんだー。オウリの強さは修行を頑張ったからなんだってー。何度も死にかけて血反吐吐くくらいのキツい修行だったみたいよー」
「オウリさんが偶然森の中を散歩していなかったら、今頃私たちはもっと酷い目に……」
「ルシーア、今の私たちはこうして助かっているんだ。悪い方の未来など起こっていないのだから考えなくていい」
「そうそう、オウリには感謝しきれないなー。わたしももっと強くなるために頑張ろーっと」
「ふふっ、そうですね。ではそろそろ街へ帰りましょうか」
「そうだな、帰ろう」
「収納魔法の中に路銀入れてて良かったです。あ、そういえばオウリさんからハチミツを頂いてたんですよ。それというのも……」
移動魔法を使い、こやきと天宮の居る場所へと戻る。こやきから少し離れた場所で天宮は魔物の群れと戦っていた。
「あ、おうり、おかえり〜」
「こやき、ただいま。天宮は戦闘中か。なにあのバカでかい猿は。おー、二匹目なんとか倒したね。残り一匹なんて余裕じゃないの?」
「うん、順調だよ〜。でもね〜天宮くん、今朝目覚めてからおうりがいないことにすっごく焦ってたよ。話聞いたらおうりが自分に怒ったから居なくなったんじゃないかって」
「は? 何それ? あいつ、もしかして夕べのこと気にしてんの? それならオレの方が負い目を感じてるってーの」
「どういうこと?」
こやきに夕べの天宮とのやり取りを話す。
聞いてみたけど話をされなかったこと、こやきから教わった方法を試したけど、やっぱり話してはくれなかったことなどを伝える。
「誰でも言いたくない時はあるよなって思った。タイミングが悪かったかも知れないなと」
「そっか。うち的には二人がギクシャクするのは嫌だから、話するなりなんなりして解決してね。必要なら間に入るし」
「うん、ありがと」
「それより悪人退治どうなったのか知りたいな〜。映像で見たいから情報流して欲しいんだけど〜」
「そうそう、それがさー凄かったのよマジで色々と。今送るね」
盗賊団を成敗してきた情報をまとめ、こやきへ伝達魔法を使って流す。『勇者を守りし者』の二人として、日々の情報共有は大事にしているからね。
こやきが映像を確認している間に天宮が戦いを終えてこちらに戻ってきた。
え、何で物凄いダッシュかまして向かってくるの?
「春日野さんっ! 戻って来てくれたんだね! 夕べはごめんっ! 俺、春日野さんになんてことを!」
「い、いや特には……」
息を切らして天宮が謝ってくる。なんてことをって、何のことだろう。
顔が真っ赤だなー。なんか涙目になってる。魔物との戦闘大変だったのに、そこから全力ダッシュって。
「オレのほうこそ何か無理に話しさせようとしてごめん。ていうか別に怒ってるとかじゃないから。悪人退治してきただけだから」
「え? あ、悪人退治って……?」
「後で話してあげる。とにかく、夕べのことは何も気にしてないし。今後は天宮が話したい時に話してくれて構わないよ。いつでも聞く準備できてるから」
「か、春日野さん……、ありがとう」
「お互い気持ち伝わったようだね〜。良かった〜」
「こやき、心配ありがとね」
「それじゃあ仲直りのハグをしないとね〜」
「えっ!?」
「そっか、そうだね。じゃあ天宮、はい」
こやきの言う通りハグをする為、天宮に向けて両手を広げる。あれ、天宮何か凄くキョドってるよ。もしかしてこのシチュエーションは何かおかしいのか?
「ん〜、おうり、後で天宮くんと二人の時にまたハグしてあげてね。今はな〜し」
「えっ!?」
「りょーかい。天宮、ハグはまた今度ね。じゃ、先に進もうか」
「ええっ!?」
何だか分からないけど、天宮に今じゃなくて後でハグをしてあげることになってしまった。
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