第13話 悪党に明日はない

「おねーさんのお仲間を助けるって、魔物にでも捕まってるんですか?」

「……魔物の方がまだましだったかもしれません。あの様な目に遭うくらいだったのなら……」


 僧侶のおねーさんの目からは涙は止まっていた。だけど、強張った表情や震える声から深い悲しみと強い怒りが感じ取れた。


「詳しく話を聞きたいけど、このおっさんAとおっさんBのようなおっさんとかは近くにいたりしますか?」

「いえ、この場所の見張り役としてはこの二人だけのようです。この二人には私が充てがわれたから……」


 充てがわれたという言葉でこの人がされたことを理解した。服がボロボロ、体の傷やあざ、おっさんAのキショいニヤつき顔。

 これらから辿り着く答えはあれしかないよ。言葉にしたくもない最低最悪な行い、絶対許せないやつじゃん!

 

「おねーさん、オレ、力を貸すよ! 男は女を大切に扱うべきなのに!」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 

 おねーさんの目にまた涙が溜まっていく。ひとまず話を聞くために外部遮断の結界魔法を張ろうかな。

 おっさん共を見てみると麻痺の時間が終わったらしく寝ていやがる。


「実はこいつらにはさっき痛みを伴う麻痺効果と、喋れず目は見えずの効果、そして時間差での睡眠魔法を撃ちました。懲らしめる為にも首だけ出して埋めときますか?」

「そうですね……。是非お願いします」


 早速スキルと魔法を使用し地面に縦長の穴を2つ掘り、おっさんらを穴の中に突っ込んで首から下に土を被せていく。

 そういえばこれってとある漫画で読んだことがあるシチュエーションみたいだ。漫画では確か埋めた後顔に……。


「おねーさん、追加オプションでこいつらの顔にこれかけておきますか?」

「これって、ハチミツですか?」

「はい。このような森深い所でこのハチミツを塗っておくと、甘い匂いで虫とか昆虫とか動物たちとか色々なのが寄ってくるそうです」

「そうなんですね。でもハチミツは高価なのでもったいない気がしますね」

「じゃあ代わりに砂糖水にしておきますか。多分効果は同じかなと思うんで。どうします?」

「……やっちゃって下さい」


 おねーさんの握りこぶしが震えている。一体どれだけの目にあったんだろう。けど自分、慰め方が分からないや。

 ひとまず収納魔法でしまってある砂糖を出し、少しの水と混ぜてどろっどろの粘度が高い砂糖水を大量に作り上げた。


「あの、それをかけるのは私が……、私にやらせて下さい!」

「いいですよー、どうぞー」


 ぬったぬたの砂糖水が入った大きめのボウルを手渡す。おねーさんは深呼吸を繰り返すと、埋められているおっさんら二人の頭にゆっくり流していった。

 きっと数時間しないうちにこのおっさんらは地獄を見る。


「よくも……、よくも……」


 小声だけど恨み節を言っているのが分かった。慰める術を持ってないので聞こえないフリをしておく。


 たっぷりの砂糖水をかけ終わった後、場所を移動し話を聞くことにした。





「私はルシーアと言います。職業は僧侶で年齢は19になります」

「オレは春日野おうり……、おうりで良いです。16歳です。あ、遠慮せず食べて飲んでくださいね。パンと紅茶だけですが」

「ありがたいです。頂きますね。オウリさんお若いのに様々な魔法を使いこなせるなんて凄いです。助けて頂いて本当にありがとうございます」

「いえいえ、お助け出来て良かったです。それで、お仲間さんのこととは?」

「はい……。私の仲間はこの先にある洞窟の中に今も囚われているでしょう」


 ルシーアさんの話では、西の街の教会へ行った帰りに盗賊団に襲われたとのこと。

 自分の街からの移動には安全の為に街道を定期的に運行している乗り合い馬車を使った。行きは何事も無く到着したので、帰りもきっと大丈夫だと安心していた。西の街を出て4日目、後3日で馬車は自分の街へと着く予定だったが、夜間の休息中に襲撃されたという。


 西の街へ一緒に行った仲間はルシーアさん含めて四人で全員女性。同じ僧侶職でルシーアさんの2歳上の姉シルフィ。西の街へ行くなら護衛として付いて行くと言ってくれた姉の友人である戦士のステラと武闘家のリオ。

 三人のレベルは人並み以上はあるという。


 乗り合い馬車には危険が伴う。なので対策として魔物よけの魔法がかけてあったり、腕の立つ冒険者が雇われて乗り込んでいる。

 ルシーアさんたち四人が乗った帰りの馬車には、行きと同じく雇われ冒険者の人が乗っていた。他に乗客は父親とその子供、出稼ぎから帰る途中という男性二人が乗っていた。親子連れは途中の村で下車したらしい。

 

 日が暮れる前に馬車は決めている野営地にて一晩過ごすことになっている。そこでは御者の人が毎回聖水を使い、魔物が寄り付かない様にしてくれていた。


 だが今回襲ってきたのは悪に手を染めてしまった人間であった。聖水の効果なんて関係無い。

 雇われ冒険者やルシーアさんたちは応戦したが盗賊団は10人以上いたらしく、更に戦闘開始直後から徐々に身体が痺れてきて、強い眠気にも抗えずどうにもならなかった。

 目を覚ました時には洞窟に連れてこられていたそうだ。


「その後のことは……、ううっ……、姉さん……、ステラさんリオさん……、うううっ……」


 ルシーアさんは涙ながらに話をしてくれた。思い出すのも嫌だろうに。聞いていてめっちゃ不愉快になった。

 この世界、悪い奴の比率の方が高くないか。

 魔王や魔物で既に怯えてるのに、盗賊団なんて悪の組織も存在してるなんて。

 うん、見過ごせないね、許せないね。



 ――段々分かってきてたけど、人の命が、尊厳が軽すぎるよ、ここは。胸糞が悪くなる、マジで。



「ルシーアさん、辛いこと話してくれてありがとう。これも何かの縁だし、早速お姉さんたち助けに行ってくるね」

「私も、私も行きます!」

「いや、オレ一人でいいよ」

「そんなっ! 何故ですか!?」

「だってルシーアさん魔力残量一桁ですし、服がヤバいですし」

「あっ……」


 うつむき押し黙ってしまうルシーアさん。毛布を羽織ってはいるが、その下は服とは言えないボロボロに裂けている布だ。お姉さんたちのことが心配なのは分かるけど、こればっかりはどうしようもない。


「この毛布をぎっちり巻きつけていきます! オウリさん、だからどうか一緒にお願いします!」

「……分かりました。お姉さんたちに顔も知らない自分が助けに行って警戒されるのは困るし」

「あ、ありがとうございます!」

「そうだ、洞窟に行く前に、ちょっと相方に連絡しときます」


 遅くなるとこやきたちが心配するだろうから現状を伝えておかないと。そう思い、額に人差し指と中指を当ててこやきへコールを送る。自分とこやきとの連絡手段として、携帯電話の様に通話ができる新たな魔法を作り出してみたのだ。

 主にこやきがメインで作っていたけど。


 通話の他にも情報の共有やお互いに荷物を送ることも可能。電波が届かないなんてこともない。うん、便利便利。


「あっ、もしもしこやきー、おはー。そう、まだ森の中。ちょっと今から悪人退治してくるね。遅くなるかも。うん、天宮と先に行ってて。うんうん、程々ね、りょーかい。あ、それとさー女性の服一式と魔力回復薬欲しいんだけど、えっ、サイズかー、多分Eくらいかも。職は僧侶だって。武器以外の物の生成方法教えて貰えれば次は自分も作れるようにー、え、うん、うそー、そんな簡単なやり方なのかー。今度作ってみるよ。あ、衣類もう出来たんだ。うん、こっちの荷物に送られてきたよ。サンキュー。一応こっちの情報流しとくねー。終わり次第そっちに戻るよ。うん、それじゃよろー」


 こやきとの通話を終え、頼んだ物を収納魔法から出してみる。丈夫な素材で作られた僧侶職用の法衣一式と下着である。

 胸元とスカートの裾にある刺繍が可愛い。何か特殊効果がついてあるな。それと魔力回復の飲み薬を予備含めて数本。自分とこやきは使うこと無いけどね。

 

 自分は生成スキルで武器は作れるが他の物は作ったことがない。逆にこやきは武器以外何でも生成できるスキル持ち。

 でもどうせなら自分も作れるようになるといいかなと思いやり方を聞いてみたら、スキルをいじることで一部の物を除いてだけど作ることができるようになった。探究心大事。


「ルシーアさん、これどうぞ。オレの相方が作ってくれました」

「ええっ! この様な上質で素晴らしい服、いいんですか!?」

「はい。魔力回復薬も飲んでみて下さい。着替え終わったら向かいましょう。あ、下着もあるそうです」

「オウリさん、ありがとうございます! 着替えてきますね!」


 そう言いルシーアさんは木に隠れてモゾモゾと着替えをし始める。


 さて、洞窟内の悪党どもをどう成敗してやろうかな。トラウマ級の裁きを下してやろうぞ。

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